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マスターと助手  作者: 佐久サク
魔法使いの助手の弟子
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第十話

 一通りの事が終わったら、メレンゲ作りで余った卵黄に全卵を足して作ったオムライスを昼食に。

 それを終える事には食べ易く冷めた焼き菓子を早速試食する事にする。

 注文通りに3cmの円状に作られた物に小さい物や厚さのある物と、様々な形が大きな皿に並ぶ。

 焼き色が強く付いたものは香ばしく、薄い生地を巻いて作った物はサクサクとした食感が良い。

 それはメルも同様のようで、昼食の後でも幾つもの菓子を美味しそうに食べ比べていく。


「同じ材料でも、これだけの違いが出るのですね」

「せっかくなら色々楽しめた方が良いかなって」

「ある物はカリカリとある物はサクサクと一度に複数の感覚。仰る通りこれは実に楽しいです。師匠は常日頃からこうした研究を……」

「いや、そうでもないよ。かなり思いつきで生きてるからね。マスターにしても「楽できる事は楽したい!」ってそんな事ばかりやってるから」

「そ、そうなのですか」

 

 メルの驚きも当然に思う。

 俺はともかくマスターはといえば、どの仕事先に行こうと「しっかり」「きっちり」だとか評される。

 だが、仕事外では俺任せな事柄も多々あり、この塔内でのぐだぐだっぷりは教えないようにしつつ、それだけはメルへと伝える。


「俺達の話だけじゃなくて他にもあるな。俺は各地の菓子を参考にする事があって、この前は美味しいタルトを出すホテルに泊まったんだよ。メルはタルトは好き?」

「好きです!下のサクサクとした生地と中のクリームを一緒に食べるとそれはもう口に幸せが広がって、上に乗る数々のフルーツも良いものです」

「そうそう、俺もそういう物が好きで、そこのホテルのレストランでは、特にリンゴのタルトが人気という話でね。そのタルトはリンゴを甘く煮詰めた物が入っていて評判通りに美味しかったんだけど、それが出来る経緯というのも印象的だったんだ」


 俺がホテルで聞いた話。

 その日、菓子職人はフライパンでリンゴの砂糖煮を作り、後はオーブンで焼くだけだと用意していたタルト生地を型に敷こうとした。

 ところが、型が全部出払っていて見つからない。

 まだ洗ってなかった型を洗い直して……とも考えたが、大事な客の予約もあって時間がない。

 どうしようと焦った職人は悩む時間すらもう無く、この際はやるしかないとしてフライパンの上にタルト生地を被せてそのままオーブンにと入れた。

 焼ける頃には自分のやった事に対して不安が大きく湧きながらも、意を決してフライパンを皿の上に逆さにして取り出してみると、これがまた美味しいタルトとなっていた。

 そのタルトは予約客にも受けて、今はタルト型を使いつつ作る新名物となったそうだった。

 

「その方が間に合って本当に良かったですね!」

「そうだなあ。俺もその本人に話を聞いたんだけど、その日は焦りに焦ったという事だったな。最後は勢いに乗ってフライパンの上に生地をバーンと被せてオーブンにドーン!と突っ込んだそうでね。その当時のバタバタっぷりが分かる語りがまた印象的でね」


 当の職人から聞いたように、大きく身振り手振りをつけながらその工程を説明すると、メルはフフッと口を押えて笑った。が、続けてその手を下ろして身体小さくする。


「ご本人様は大変でしたでしょうに、これはいけませんでしたね……」

「それはいいよ。その人もこの話が良いネタになるって、いっそ笑ってくれる方が良いって言っていたから。それにしても突然の所から解決方法が浮かぶのは凄いし、それが名物品になるのも面白いものだよね」

「そうですね、物事はどこから何が起こるか分かりません」

「俺もそう思うよ。俺も田舎から出てきた頃は今のような暮らしになるとは思ってなかった。マスターも学生時代に専攻していた学問とはかけ離れた仕事に身を置いているしね」


 そこで俺は一息を置く。

 これから言う事への意識を強くすると、それはメルにも伝わったようで、彼女も言葉を逃さないようにとの様子で俺を見る。


「そうやって道はどう繋がっていくか分からないものなんだ。だから、メルも今から一つの事を定めなくてもいい、それも一つの道なんじゃないかな。メルはこうしてウチに来てくれたり、今の自分に何ができるかとしっかりと考えているし、積み重ねがされている。俺にはそう見えている事を覚えていてくれると嬉しい」


 俺は人を導けるような立派な事は成していない。

 学校の先生でもなければ学すら碌に無い。

 けれど、俺が言える事、言いたい事を伝えていく。

 メルは黙って全てを聞き、やがて一つ頷き俺を見た。 


「その御言葉、私もしかと受け取りました」

「よし。じゃあ、今からは残りの後片付けをしようか」

「はい、師匠!」


 そうして立ち上がるメルは、これまでと変わらない明るさの溢れる姿だった。

 彼女が俺の言葉をどう考えたかは分からないが、伝えられる事は伝えたと、後は俺もその事に触れずに片付けへと移っていった。




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