第六話:☆
この際だからと左耳も見る事にすると、こちらも綿棒で押し込んでいたようで、カリカリ、ペリペリと各種器具で剥がしていく。
その仕上げに取り出したのは梵天付き耳かき棒で、すっかり綺麗になった場所を見据え梵天を構える。
それを孔に向かい真っ直ぐには入れずに、孔の横側に軽く触れさせた後にスルリと中へと滑らせる。
こうすると梵天の毛が中でふんわりと広がって、より心地良くも感じられる。
こから持ち手を回転させながら更に僅かに奥へと進ませると準備万端だ。
今度は反対方向に持ち手を回して、耳孔に広がった羽毛が優しく耳の壁をザワザワ…サワサワ……と撫で払うようにする。
そうすればメルから「ほぅ……」との満足気な息が届いて、今はお互いにこれ以上の言葉は要らないと他に音は無い静かな時間を進めていった。
◇
最後には外側の仕上げだ。
メルの耳を軽く片手で持ち、もう片方の手に持つ綿棒を近づける。
耳の一番外側、耳輪の内側を綿棒がスリスリと走る。
そこは脂分も汚れも無く綺麗なものではあるが、やや強めに何度も行き来させる。
広い窪みに狭い窪み、顔の角度を変えなければ見られない窪みの死角。
マスターの元で培った遺物掃除作業の技を今日は如何なく発揮する。
それら相手と違い砂汚れ等が取れることはないが、スリスリと刺激され、ほんのり熱も持ち柔らかくなっていく耳に進捗を感じながらの作業に全神経を集中させていった。
最後には香油を耳全体に塗って終了。
元からして滑らかな耳だったが、今は揉まれて血行が良くなり油によってツヤが増している。
これは是非とメルに手鏡を渡せば、彼女は感動を伝える暇もないといったように髪をかき上げて耳を凝視していて、その姿に俺はやりきった気持ちを増しながら、マスター相手では出来ないこの経験の機会をくれた彼女に感謝も向けるのだった。




