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マスターと助手  作者: 佐久サク
魔法使いの助手の弟子
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第四話:☆

 落ち葉を片付け終えての休憩時間。

 最近は自分の分だけ作るよりはとメルの分の昼食も作り、その後のおやつも日替わりで用意するようになった。

 今日は木の実入りのケーキを焼いてあるから……と用意しようとしていると、メルが難しそうな顔をして台所にやってきた。


「師匠、作業中の所で申し訳ないのですが、お願いがあるのです」

「何かな」

「先程からどうも右の耳の中がゴロゴロと致しまして、師匠のお手が空くまで待とうと思ったのですが、どうにも我慢できず一度様子を見ていただきたいと……」 

「それは何かあると不味いな、早速見てみよう」


 小柄なメルに合わせて屈み、その右耳の中を見せてもらう。

 外の作業では強い風が吹いていて俺も耳に入り込んだ埃を拭いもしたので、彼女もそんなところだろうと思ったのだが、彼女の耳孔の入口に埃は確認できず、奥の方かと目を凝らしても異物は分からなかった。

 それならばと思いつく手っ取り早い方法が俺には一つある。 


「ここだと分からないから、別の場所で見てみようか」

「はい!師匠!」

 

 





 やってきた第二研究室にある使いこまれた可動式寝台。

 今はその傍にもう一つピカピカの機材が置かれてある。

 これこそがマスターが今回長期出張する事になった原因でもあった。


 始まりは古代遺物の”カメラ”と”モニター”の研究を手伝った事。

 それを二つ譲り受けて、玄関の他にどう使おうかと考えている内に「これを使えば耳の中を覗けるのでは?」とマスターは思い立った。

 そこから凄まじい集中力で装置と何日も向き合い小型化に成功し、それを研究所職員に会った時に話したところ、案の定というか当然の展開というか、小型化につき聞き出される事になったのだ。

 そして、一通りの事を教えても相手側はまだ理解が及ばない所があったようで、再び自分が研究所に赴き詳しく教えるか、作り上げた装置を暫く貸すかのお願いをされ、間違いが無いように伝えようと前者の案を選んだマスターなのだった。


 そうしてここにと残されていった装置を使えば、細く暗い耳の中を大きなモニターに映しながら異物を取り除けるというわけだ。

 相変わらずマスターは自分の耳の中を俺に見せようとはせず、俺はこの装置を使われる側でしかなかったが、操作方法は分かっていると早速起動させて、少し背もたれを倒した寝台に座るメルの耳の中を見る。

 すると奥にほんの小さな木屑があり、耳かきの匙でそれをコロコロと転がして外に出す。


「どう?違和感は無くなった?」


 そう問えば、作業中は俺と同じくモニターへと視線を集中させていたメルが、これまで以上にその緑の瞳をキラキラと輝かせてこちらを向く。   


「無くなりました。そ、それにしても、これは素晴らしいですね!普段は見えない場所がこんなにも鮮明になるとは!」


 続けて語る口調は熱っぽく。

 この興奮を抑えてはいられないとの様子は、今は出かけている誰かを髣髴とさせるものだった。


「それで一つ申し上げたい事がありまして。師匠、どうも私の耳は汚れているようにも見えるのですが、これはどうなのでしょうか」


 その指摘は確かだった。

 厚みのある汚れは無いものの、広範囲に皮膚の色が変わっているのは俺も目に付いていた。

 それについては原因を察しもしていて本人に確かめてみる。


「耳掃除はいつもどうしてる?」

「綿棒で軽く払ったりはしておりました」


 それを聞いての俺の答えは「やはり」というもの。

 メルの耳垢の性質はカサカサと乾いた物のようだった。

 それは綿棒でとれない事もないが、一部は更に壁に張り付いてもしまうもので、その結果がここに表れているのだろう。


「これも見ながら取る事も出来るけど、どうしようか」

「是非ともお願いします!」


 と、メルは身体を再び寝かせて目はモニターへ向く。

 年頃の娘がこの行為をどう思うのかと俺に躊躇はあった所からの提案だったが、彼女は作業に興味津々といったもので、やっぱりマスター及び俺とも同じ側に立つ娘かもしれないとの思いを強くしつつ、再びカメラと耳かき棒を取って孔へと差し込んだ。



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