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マスターと助手  作者: 佐久サク
季節を駆け抜けて
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第四話

「この小屋を小さくして持ち運びできるようになるだなんて……、世の中には凄い技術があるものなんですね」

「ええ、一部では実用化がされているんですよ。といっても俺は詳しい魔術式とか全然分かっていませんけど」


 本来は高名な魔導士の助手をしているという彼。

 彼がそう呼んでくれればいいと言うので自分も倣うとしての、”助手さん”の話を聞いて驚きは隠せなかった。

 

 彼らが最初にいたという山小屋、ここより下っていった所にあるそれが自分も話に聞いていた小屋だったようだ。

 そして、今ここに在るのはつい先日までは存在していなかった小屋だと知らされた。

 世の中にはこうした小屋を縮小する技術があるようで、今回ここに試験的に置いたとの話だった。

 新たに小屋を建てるには人手も時間も必要だが、これならば手軽に用意できる。

 その場に建設された小屋に比べると耐久力に不安は出るようだが、冬場の一時期だけ置き春には縮めて町に運び補修を行う事で長持ちするだろうと設置は賛成の方向に進み、彼らは最終決定前の検査のための登山だったという。

 それが急に天気が変わり、命の救助を優先に彼女はこの小屋へ。

 残りの二人は他の登山者を下の山小屋に誘導したが、そこは避難者で満杯になってしまったので、二人でここまで登って来たとのことだった。


「こうして吹雪いていても全然吹き込まないし、これは良い検査になったな」

「相変わらず前向きなんですから、ヒイナさんは」

「後ろを向いていても良い事ないもの。今あることを活かさないと」

「そういう所は見習いたいと思ってますよ」

「見習いたい相手の割には口膨らませて見てるなあ。思ったように運ばなかったのは分かるけど、こうなったからこその美味しいもの食べさせてあげるから。なあ?」   

「で、こっち任せかよ」

「だって、助手が作った方が美味しいしー」


 ヒイナさんが彼女へ慰めの言葉を掛けながら横を向くと、そこでは助手さんが鍋を掻き混ぜている。

 鍋で炊かれていた汁物はほぼ出来上がっていたが具材は多くは入っておらず、四名では配分量が少なくなるとして彼が持ってきていた食材を加えて煮直していた。

 その様子は目にしていたけれど、彼が鍋の中に入れていたのは一握りの干し草のような物だった。

 しかし、今では鍋には色とりどりの野菜が煮込まれている。


「入れたのは干し野菜だったんですか?」

「そうですね。干し野菜よりも更に水分を抜いて持ち運びやすくしたものです」


 と、彼は一度小皿に汁を取り味見をすると、今度は焦げ茶色した丸薬のような物を中に入れた。


「で、これが出汁と調味料を合わせたものになりますね。これも一度スープとして作ってから水分を飛ばして持ち運びやすく日持ちし易くしたものです。冬場の登山に荷物にならず料理の味付けをする時には良いのではと、麓の街で販売しようとも現在話が進んでいるようです。感想は多くあるほど良いでしょうし、ぜひ聞かせてください」


 手渡された椀から温かさが身に伝わり、鼻で息を大きく吸うとその香りに腹が早く早くともいうように鳴った。

 手にしていたスプーンでまず一口飲むと、汁の色は澄んでいながら豊かな出汁の味と野菜の甘みがあって、一口食べた後は次も次もと口に運んでいた。 


 それは自分以外も同様で、急な避難をした山小屋で食べられる物とは思わない具沢山の椀で四名が身体を温めていく。

 中でも未だに泣きそうで難しそうな顔をしながら、一人勢いよく食べている娘がいた。


「ほら、いい加減に機嫌を治せよ。ワタシらが来たおかげで美味しい物を食べられてるだろ?」

「美味しいです。美味しいですけど~」

「けど~、何?」

「もういいです~。あ、そこの大きい御餅は煮えたらください~」

「調子が良いなあ……。まあ、それで良いさ、食べとけ、食べとけ。今日は頑張ったからな」

「ありがとうございます~」


 ぐじぐじと落ち込んでいながら、椀に新たに入れられた餅をぐいーっと伸ばして食べる彼女は随分と子供っぽい。

 しかし、その様子は微笑ましくもあり、私も含む三人は見守るような視線を示し合わせたわけでもなく向けていた。   


「それにしても雪女ってのはよく食べるな。どこにそんな入るのかってくらい。皆がそうなのか?」

「個人差はあれど、そうだな。魔力の素は食だから」

「へえ。じゃあ、滅茶苦茶食べたらこの辺の吹雪もピタッと止める事もできもするのか?」

「そりゃ無理だ。強めるのは簡単だけど、弱めるのは自然に対抗するから難しいんだぞ。それでも登山者を山小屋に誘導するために付近の風は頑張って弱めていたんだから。それはお腹も空くってものよ」

「それはそれは失礼を。功労者には沢山食べて頂かないと」

「分かればよろしい」


 助手さんから手渡された椀をヒイナさんが献上物を手にする女王のように受け取る。

 話によれば雇い主が単独で行いたい事があると暇をもらった助手さんに、それは丁度いいと仕事の手伝いを頼んだのがヒイナさん。

 二人それぞれの一致した言葉では”そういう事”ではないそうだが、会話のやりとりも食事のあれこれを用意する動きも、単に友人というには息が揃った近い関係に見えるものだった。


 


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