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マスターと助手  作者: 佐久サク
彼らのある日
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第五話

 お皿に残ったソースを舐めたり水を飲んでいたら魔導士さんが戻ってきた。

 右手にはお皿があって、緑色した四角い物が乗っている。


「どうぞ、食後のお菓子です」


 ご飯の後のお菓子。

 お父さんが町に行った時のお土産くらいでしか食べられないやつ。

 でも、それはどれも焼いた固いやつで、こんなプルプルしたものは食べたことない。

 スプーンでちょっと叩くと崩れちゃって、落ちたのを掬って食べる。

 これは冷たくって甘い。砂糖がいっぱい使ってある甘さだって俺にも分かる。

 そうやって口に入れていると、すぐスルンってお腹に落ちて行っちゃう。


「これは魔法で冷たくしたの?」

「魔法ではなくて、冷たくしておける箱ですかね」

「冷蔵庫?」

「ええ、そうです。知っていますか」

「町のね、大きなお店では、置いてある所があるんだ。俺が見たわけじゃないけど、特別な所にあるのは知ってる。魔導士さんは一人で持っているんだね」

「ええ。冷たくしておきたい道具もありますから」


 魔導士さんは道具も沢山要るから大変なんだなって考えたり、何度も美味しいって思いながら冷たいお菓子を食べる。

 でも、ちょっと他の事が気になって、スプーンを置いてもっと考えてたら、魔導士さんが心配そうに見ていた。


「お腹がいっぱいですか?」 

「ううん、まだ食べられる……。でも、俺だけ楽しくて良いのかなって思って……。エッちゃん……って俺の妹なんだけど、妹も弟も兄ちゃん達だってこういうの絶対食べたいと思うんだ。なのに、俺だけ……」

「君は本当に優しいですね。それならお家の方も食べられるように作り方を教えましょう」

「それは嬉しい……けど、家だと砂糖はいっぱい使えないかな」

「では、材料もお土産にどうでしょうか」

「そ、そんなに沢山もらっていいの?」

「僕の作った物を美味しく食べてくれたお礼です」

「それなら貰ってく。冷蔵庫は無いけれど、冬になったら雪が降るから、それで冷やそうかな。固めて箱みたいに作って、それで……」

「いい考えですね」


 また褒められて嬉しい。

 でも、沢山褒められるのも恥ずかしい。

 俺が食べるの見てニコニコしてる魔導士さんを見るのも何だか恥ずかしい。

 だから見ないようにして全部食べて、「美味しかったな」ってお水を飲んだら、何だか眠くなってきた。

 

「眠たいですか?」

「……うん」


 眠っちゃいけないと思って目を擦るけど全然駄目だ。  

 村じゃ教えてくれないこと、もっと魔導士さんから聞きたいのに……。

 

「雨も止みませんから少し休みましょう、眠る場所もありますから。眠っている内に治す方法を揃えておきましょう」

「……う……はい」 

 

 魔導士さんがそう言うから言う事を聞く、一回寝て起きてからでもお話はできるし。

 トイレに行って歯も磨いて、眠かったけど頑張って寝る準備をした。

 それから階段を上って連れて行ってもらった部屋には大きなベッドがあった。


「魔導士さんの部屋?」

「いえ、僕は別の部屋があります。ここは他の人が眠るように作ってある場所ですから、君が使って良いんですよ」


 そう言われて大きな身体でも何ともない大きなベッドに入って布団に包まると、魔導士さんは「おやすみなさい」と言って部屋から出て行った。 







 寝ていると外の雨の音が聞こえる。

 いつになったら止むのかな。

 止んだら治してもらって、それで帰って……。 


 なんでか涙が出てきた。

 帰るのは嬉しいはずなのに……。 


 さっきまでと変わらない雨の音も何だか怖い。

 外にいる時よりも一人でいるのが怖い。

 眠たいけど眠れない。

 目を瞑って暗くなると、怖い気持ちがどんどん出てくる。


 目を開けても誰もいなくて怖い。

 家だと周りにいつも誰かがいて、煩いなって思ってた。

 一人になりたいって何度も思ってたのに。

 本当に一人になるのがこんなに怖いなんて思わなかった。


 目が覚めてきちゃって、ベッドから降りて部屋の外に出る。

 でも、他の所に行っても良いのかなって思ったら足が動かなくなる。

 そうしたら横から音がして魔導士さんが来ていた。 


「どうしました?」 

「あの……俺、一人で寝た事がなくて……」

「それはこちらの考えが足りませんでしたね。では、暫くの間、僕も部屋にいましょう」

「いいの……魔導士さんの仕事……」

「今日はお休みの日だったので平気です」


 また魔導士さんと一緒にベッドまで行く。

 俺が布団の中に入ると、魔導士さんはベッドの横に椅子を持ってきて座った。

 誰かが近くにいるってだけで、怖かったのが無くなる。


 目を瞑って寝ようする。

 でも、もう大丈夫だって思っていたのに、真っ暗の中にいるとまた泣きたい気分になる。

 魔導士さんに見せたくなくて、そっちに背中を向ける。 

 我慢をしようとしたけど、涙が一度ポロって出てくると止まらない。

 涙と一緒に怖いものが浮かんでくる。 


「どうしました?」


 魔導士さんが頭を撫でてくれたけど、まだ涙は一杯出る。

 そんな顔を見られたくなくて身体を丸める。

 泣いているの知らないでいて欲しいけど、何も言わないでいると魔導士さんも気になると思う。

 それに、魔導士さんならどうすればいいのか教えてくれると思った。


「皆、家でどうしているのかなって思って……。そうしたら怖くなった……。俺、兄ちゃん達みたいにお父さんの仕事の手伝いできないし。お母さんは弟や妹の事ばかり見てるし。どっちも小さいからしょうがないけど。俺、お兄ちゃんだからしっかりしないといけないし。弟も妹も本当にカワイイから、お母さんだけじゃなくて俺も面倒を見るけど……」


 頭に浮かんでくる事を何でも言うと、少し泣きたくなくなる。

 魔導士さんはその間もずっと頭を撫でて話を聞いてくれてた。

 

「一人で遠くに来て、家に帰ったら怒られちゃうかもしれない。怒られるならいいけど、もう家に入れてもらえないかも。俺が女の子だったら良かったんだけど。違ったから、お父さんもお母さんもあまり嬉しくないかもしれなくて。もう要らないってなっちゃうかもしれない。身体が大きかったら手伝いもできて役に立てるけど……。でも、大きいままだと俺だって分からないだろうし、元に戻らないといけないけれど……。俺、どうしよう……」

「大丈夫ですよ。後の事は僕に任せてください。気になる事があるなら、君の家族には僕がきちんと話しますから」

「うん……」


 魔導士さんが大丈夫って言うと大丈夫な気がしてきて、涙も止まって眠くなってきた。

 目を瞑っても怖いものが湧いてこなくて、布団が温かいのとか身体が温かくなってきた感じの方が気になる。


「君がいるから僕もこうしていられるんです。君が君の思うままにいるだけで、どれだけ助かっているか。だから心配せずに、今は休んでください……」

 

 魔導士さんがまた頭を撫でて言う。

 意味がよく分からなくて、どういう事?って聞きたかった。

 でも、ゆっくり撫でられるのが気持ち良くて口が動かない。

 さっきよりも全部が温かくなって、目を開けるのも重い感じがして、今は寝ようって思った……。




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