第三話
二人で傘に入って歩いていくと大きな塔があった。
こういうのも本で読んだ事がある。
魔道士の人は他に人がいない所の家に住んで、本を沢山読んで勉強したり研究したりするんだ。
塔の中に入っていって、小さな部屋がガラスの付いたドアを開くとお風呂のようだった。
でも、家にあるお風呂とは違って大きい。
町に出かけた時に入ったお金を払って皆で使うお風呂よりは小さかったけれど、下の床や壁はそこよりも綺麗。
「身体が冷えていますからお風呂で温まりましょう。一緒に入りましょうか?」
「ひ、一人で入れます!」
「それでは使い方だけ教えておきましょう」
一人でお風呂に入れないとおかしい。
小さな子供じゃないんだから。
「あんた、お兄ちゃんでしょ」ってお母さんにもよく言われるし。
他所の家でもちゃんとしないといけない。
教えてもらう事はしっかり守ろうと魔導士さんと一緒にお湯を入れる所に寄っていく。
「どうしてこんなに大きなお風呂なの?」
「ここでお水やお湯を使って作業する事も多いんです。それで広い場所が必要なんですよ」
「そうなんだー」
「でも、一番の理由は大きなお風呂に入りたいからですね」
「なんだ~。でも、気持ちいいものね。大きなお風呂は俺も好き。町に行った時にしか入れないけど」
「お好きなようでよかったです」
やっぱり魔法を使う人の家は普通とは違うんだなと思ったら、お風呂が好きなだけって普通の理由だった。
それから魔導士さんに色々と教えてもらって、俺だけ服を脱いでお風呂に一人になった。
兄弟全員で入れそうな大きなお風呂があって、お湯が一杯湧いてる。
でも、そこに入る前に近くに大きな鏡があるのを見てそっちに近づいた。
顔を見るとお父さんと似ていた。
背はお父さんよりも大きい。
力瘤を作ると、お父さんより大きい。
他の所も全部お父さんよりも大きい。
ってことは、兄ちゃん達よりもずっと大きい。
これならバカにされないかな。
兄ちゃん達よりもお父さんの力仕事を手伝えるかな。
何だか嬉しくなってきた。
大人になっちゃって最初は怖かったけれど、前から早く大人になりたいって思っていたし、大人になったらもっと家族の役にも立てて良い事ばかりだ。
このままでも良いかな。
もしかしたら、俺、知らない内にそうした願い事を叶えてもらったのかな。
って、鏡の前で身体を見ていたら、クシャミが何度も出た。
風邪を引いたら、せっかく大人になっても怒られちゃう。
急いでお湯の中に入らないと。
魔導士さんから教えて貰った。
水もお湯も蛇口をひねると出てくる。
蛇口の近くの石を押すと風呂の湯が温かくなる。
お湯を温める入口は凄く熱くなるから近寄らったらダメで、それはきちんと守る。
大きなお風呂で温まってから身体を洗う。
町のお風呂屋にもあったシャワーってやつを使う。
その時は他の人が並んでいて使えなかったけど今日は使える。
そんな物を一人で住んでるのに持っていて、魔導士さんはやっぱり凄い人なんだな。
身体や頭を洗うのにも凄く泡立つ石鹸を使えた。
いい匂いもして、泡でずっと遊びたかった。
でも、大人はこんな風に遊んじゃ駄目だから、もう一回お風呂に入って100まで数えて外に出る。
そこに大きなタオルと新しい服が置かれてた。
お風呂も温かかったけれど、タオルも温かくて気持ちいい。
服は魔導士さんのを貸してくれたのかな。
その服は着てみるとぴったりで、身体がホカホカしたまま廊下に出た。
「温まりましたか?」
「温まりました。ありがとうございました」
そこにエプロンを付けた魔導士さんが来てくれて、お礼をしっかり言う。
そうしたらお腹がぐ~って鳴った。
ずっと怖くて忘れていたけれど、今日はあんまり食べていない。
「丁度良いですね、食事にしましょうか。今、出来た所ですから」
ご飯まで食べさせてくれるなんて良いのかなって思ったけど、何だか凄く良い匂いもしてきて、何の料理か気になってワクワクしてついていった。