第二話
今日は森で木の実を拾ってたんだ。
沢山の木の実が拾えて、これで美味しい物を作るんだって思ってた。
なのに、気が付いたら木の実を入れたバケツがない。
周りに木はあるけれど森の中じゃなくて、目の前に道が見える木の根元に座ってた。
どこだろう。
見渡しても少しも分からない。
知らない所に来てしまった。
ここまでどういう道を通ったのかも全然覚えてない。
考えてると涙も出てきた。
そうやって泣いても誰も気づいてくれない気もする。
強く雨も降っていて、声なんてきっと消えちゃう。
雨の中を動き回るのは駄目って言われたことがある。
どうしよう、どうしよう。
困るのと一緒に涙が出てくる。
雨はちょっと弱くなってきたけど、泣けてくるのは止まらない。
怖い。寂しい。
周りに誰もいない。嫌だ。
誰か探さないといけないけど、目を瞑っていたい。
タタッと足音がした。
誰か来て良かったと思って見たのに、そこに居たのは村の人じゃなかった。
兄ちゃん達より年上でお父さんより若い男の人。
村では見ない恰好をした全然知らない人。
でも、その服がどういうものかは分かる。
魔術を使う、魔導士さんが着る服だって本で見た事がある。
その人は傘をさして紙袋を抱えて走ってきて俺の前で止まった。
急いで来たみたいで息をハアハアついている。
こんな所で一人でいるから心配して止まってくれたのかな。
村の場所を知ってくれてる人かな。
分からないけど、自分から言わないといけない。
「あ、あの、教えて欲しいことがあります」
俺の声に魔導士さんはちょっとびっくりしてた。
俺も自分の声が変だなって思ったけど。
「何でしょうか」
どこかに行かれたらどうしようと思ったけど、魔導士さんはしゃがんでくれた。
上の葉っぱから雨が落ちてこないように傘もさしてくれた。
良かった、話を聞いてくれそうだ。
名前と村の事と迷った事と……後は何を言えばいいのかな。
分からないから思う事を全部言おう。
◇
「それで、俺の家の場所、分かりますか?」
「ええ、分かりますよ」
焦って言葉が出ない時もあったけど言いたい事は言えた。
「分かる」って言われて本当によかった。
帰りたい。お父さんやお母さんに会いたい。
「でも、ここからは遠くもなりますし、まずは雨宿りに家に来てください」
遠い。
俺はどこまで来たんだろう。
どうして分からないんだろう。
また怖くなってきた。
でも、それよりも寒くて嫌だし、温かい所に行きたかった。
知らない人にはついて行っちゃ駄目って言われてるけど、ついて行かないと帰れないと思った。
俺の返事にニッコリとしてくれた魔導士さんを見ると、ついて行っても平気だって気がして立ち上がった。
そうしたら、おかしかった。
お父さんと同じくらいに思った魔導士さんが、俺よりちょっと小さく見える。
自分の手とか足元とか全部見る。
手はごつごつしてる。
足の先はとても遠く見える。
それで、分かったんだ。身体が全部大きくなってる。
なんで、どうして。
何かそういう変な物を食べちゃったのかな。
そういうお話は読んだ事あるけど、本当にあるなんて。
でも、取った木の実も知っているものばかりで、変な拾い食いなんてしていない。
さっきよりもずっと怖くなってくる。
力が抜けてきて、地面に膝を付けて座ってしまった。
今度は濡れたズボンが冷たいし気持ち悪い。
でも、足に力が入らなくて立ち上がれない。
「どうしました?」
「身体、大きくなってる……。俺、なんで……」
さっきもおかしいなとは思ったけど、声が低くなって変わってた。
俺が言っているのに俺の声じゃないのが嫌だ。
自分で言っていてもわけがわからなくなって、涙がいっぱい出てくる。
手で拭こうとすると、その手がまた大きいのを見てしまう。
俺、まだ子供なのに。
ちょっと前に誕生日で、10歳になったばかりで……。
「大丈夫ですよ」
魔導士さんがすぐ傍まで来てくれた。
大丈夫って言われると、ちょっとだけ大丈夫な気になってくる。
「俺の言うこと信じてくれる?」
「信じますよ」
「魔導士さんだから治せる?」
「……そうですね。魔導士さんだから治せます。それでも今すぐというわけにはいきません。まずはお部屋に入りましょう」
「うん」
魔導士さんは背中を撫でてくれて、そうしたら涙も止まってきた。
「治せる」って言ってくれて、その顔が格好良かった。
本当にできそうだって、凄い人なんだろうって分かる。
足にはまだ力が入らなかったけど、頑張って立って、魔導士さんの後についていった。




