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マスターと助手  作者: 佐久サク
シャドウ・ユニゾン
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第二話:☆

 要らない物は隅に寄せて、部屋の中心に用意されたのは飾り気のない寝台だ。

 魔術も古代技術も何一つ含まれていないそこに、上半身を裸にしたドブールさんがうつ伏せになる。

 俺の現身、俺の肉体のままで。 


 鏡を通して自分の背中を見た事はあるが、こうして目の当たりにするのはまた感覚が違う。

 自分の身体はこうなっているのか……と、筋肉の盛り上がりや荒れた皮膚をまじまじとも見てしまう。

 そんなドブールさんの身体を今から俺は解していく、彼が受けたものを俺が受け取りながら。

 それは細かく言えば、一部反射と表すのが正しいそうだった。

 俺を完全に複写してしまうと、これから彼に起こる感触や快感の全てを俺も全て受けることになる。

 それではむしろ施術が行い難くなるだろうと、彼が心地良く思う所を俺が探り当てるに丁度いい具合が用意されているとの事だった。

 

「まずどの辺りが辛く感じます?」

「腰が酷いんだよね」


 手始めの応答を得て、ドブールさんの腰に右手の親指を下ろす。

 そうすれば俺の指がドブールさんの腰の固さを感じ、俺の腰も押された感触を受ける。

 以前行った感覚の共有は、マスターの手により起こされた第三者の感覚を俺も受け取るというもので、それは経験としては楽しくもあった。

 しかし、感覚の訪れが不意打ちとなり、自分では調整できない怖さも避けられずにあった。

 それとは違い、俺次第でどうとでも出来るこの形にそれは無く、やりやすさを強く感じた。


 グッグッグッ……と親指を右に押し動かす。

 どこも固さを感じながら自分の腰への感触も確かめていく。

 特に固く感じた箇所にはクリクリクリと指先に力を入れて回す。

 凝り固まった筋肉を解すようにすれば、同時に俺の腰にもじわりと快感が滲み出す。


「いいな~、これ」


 自分の腕を枕にしながらのドブールさんが心地良さそうに声を発する。

 疲れが溜まっていた彼は俺が受け取る以上の快感を得ているだろう事がその姿から分かる。


「こうした疲労は、他の誰の姿を取ろうとオレのモノとしてずっと存在してしまうようなんだ。それで長く疲れていて、どうすれば解決できるかと思って君の御主人に相談をしたんだけど、この形は彼とでは出来ないものがあってね。でも、君がいてくれて良かった。彼も「腕は確かだ」って言っていたから、オレも任せるのに躊躇はなかったけどね」


 ドブールさんという人は褒める事に躊躇の無い人だなと強く思う。

 相手を乗せるのが上手いというか、俺もその称賛に調子に乗ってきたのは自覚して本格的な解しに入る。

 次は両手を使い腰の骨に親指を乗せて背中を通り首へと向かう。

 グッ……グッ……ググッ……と一定間隔で押しては進み、途中で堅さを強く感じた所はグリグリと押し込む。

 

「ふ~」


 互いの息が重なる。

 ドブールさんは圧力から浮かぶ快感から。

 俺は圧力が跳ね返された事による快感から。

 そこで改めて同じ顔と身体を持った者同士で何をしているのだろうとも思えてきた。

 しかし、そんな考えは直ぐに消え去り、彼の身体を解す作業を続ける。

 彼の力になりたいという思いだけではなく、この状況でどういった事をどこまでできるのか、俺自身に強い興味があった。

 

 背中全体を触り終えた後は、右手を広げて腰に乗せ掌底をグイッとその身体の内へ入れるようにすれば、ドブールさんが「おおっ」と声を漏らして身体の力が抜かれ、俺にも届く感触と沸き起こる快感。

 そうして反射されるものは意識しながら、それに溺れぬように力を込めて手を上へと動かす。

 グイッグイッと広範囲に揉み込み、背中の肉という肉を柔らかくするように。

 そんな俺の手は軽快というに相応しい動きをしていた。

 他人へのマッサージというものは、相手を痛くさせてはいけないとの思いが時に自分の力に歯止めを掛けもするものだ。

 だが、こうして感覚が反射される事で、圧力による痛みを彼に与えていない事が理解できる。

 そこに不安を持たせないこの方法は、とても気が楽で素晴らしかった。

 

 グニッグニグニッ……

 ククッ…クリクリ……   


 今度は豪快に背中を押し、肩を掴んでぐりぐりとも大きく回す。

 どれもこれもいつもは躊躇や迷いも出る行動だが、自分の身体に届くものを頼りにしていけばそれは湧かない。

 痛みと快感の境界線、そのギリギリを攻めていける。

 この稀な機会との出会いに興奮を覚える自分に気付きながら、一層この手に力を込めて段々と柔らかくなるドブールさんの身体に没頭していった。

 



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