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マスターと助手  作者: 佐久サク
シャドウ・ユニゾン
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第一話

助手視点のマッサージ話。

 マスターは地下の研究室に籠り、俺は塔の傍に建てられた小屋に燻製作りで籠る。

 それ自体は以前からある事だが、今回はマスターに昼過ぎに来て夕になると帰る客人付きだった。

 その人物は常に顔を覆う仮面を着け帽子を被りマントを纏って、その身を黒に染め上げやってくる。

 塔の中に入っても脱ぐ事はなく、その真の姿を未だに俺は見ていないがそれを気にしてはいなかった。

 

 マスターの元には訳アリ相談の方々が定期的に来るものだ。

 過去のどの例もいちいち俺と名乗りあって挨拶をするわけではなく、今も客人が気になって仕方がないという事はなかった。

 そうして各々が思い思いに過ごした数日後、小屋で出来上がった物を試食をしているとマスターに呼ばれた。


「なんです?」

「いつも来ていた彼がね、帰宅する前に疲れた身体を解して欲しいんだって。僕では駄目な事情があるから、助手君に頼みたいんだ」

「いいですよ」

 

 事情が何かとは分からないが、マスターも部屋に籠り続けて疲れていて当然。

 それだけで十分な事情であったが、一つふと気になる事があった。

 身体を解すためには必ずその中身を見ることになるわけだ。


「驚かないように、失礼のないようにしますから。マスターは休んでいてください」


 との俺の言葉にマスターは少し目を見開き何か言いかけるが、すぐに元の顔にと戻された。


「助手君は話が早いよね。では、第二研究室で待っていてもらってるから、よろしく」

「わかりました」


 マスターはその後も珍しく何か言いたげな様子を残していたが、結局は何も発することなく自室へと向かい、俺は第二研究室にと進んでいった。




 



 あの彼は一体どういう存在なのだろうか。

 彼というからには男だろうとして、それ以上の事は分からない。

 マスターと共に様々な種族と接してきて、大概の事には驚かないつもりでいるが……と想像を続けながら目的地に着くと、まずは軽くドアを叩く。


「待っていました。どうぞ」


 返ってきたのは張りのある若い声。  

 帽子やマントは老年男性を想像し易い作りをしていたので、渋い趣味をしているなと思う。

 

「失礼します」


 ドアを引き礼をしながら中へと入り身体を戻せば、そこに居たのは俺と同じ高さの目線で俺を見る人間の男だった。

 その瞳の色は俺と同じ。

 その髪の色も俺と同じ。

 というより、その薄いシャツ一枚とズボンの恰好以外同じ。

 顔の作りや何から何まで俺そのものが存在していた。

 

 よし、よく分かった。

 これはマスターも何か言いたそうにもなるわけだと独り納得する。

 しかし、結局は何も触れずに去って行ったのは、彼と共謀して俺を驚かそうとでも思っていたか。

 それはそれでいいけども、俺としては驚かないようにと宣言したわけで、全てを心の内だけで済まして彼に近づく。


「ん~、静かなものだね」


 その彼からは意外との声。

 そこには驚きと感心と興味が混ざっているようだった。

 俺はまず作らないだろう表情が俺の顔で行われる。

 それには何とも奇妙な気持ちが浮かびもしたが、今は置いておこう。 

 

「世の中には自分と同じ外見の人が何人かは存在するものだとも聞きますから」

 

 自分でも思った以上にこの状況をすんなりと受け入れつつ返答をする。


「あ~、そう取られるかー」   


 今度は両太腿に手を当てて俯き悔しそうに。

 反応が大きいな、この人……。

 そう感想を抱き眺めていると、彼がこちらをまた向いた。


「あ、今、「反応が大きいな、この人……」とか思ったよね?」 

「まあ、それは思いました」

「やっぱりね。でも、それもちょっと違うから。オレ、人間ではないからね」 

「変身能力か変身術ってやつですか」

「本当に動じないね、君……」


 変化の少ない俺には、体勢を戻しながら目をぱちくりと。

 動作が派手で見た目よりも若く見え、その精神は少年のようかとも思う。

 その一方で喋りの端々や細かな振舞いには余裕が見えるというか、年長者を相手にしているような感覚になる。

 その見た目は俺と全く同じようだとしてもだ。

 

 そのまま彼は腕を組み思考する様子へと移ったかと思うと、次は何かに到達したような表情を浮かべる。

 驚愕や嫌悪はないのだが、自分と似た存在がこれだけ目の前で忙しなく動く様子には心の落ち着かなさは全く無しとはいかない。

 と、彼を見ていると、その左手が己の右肘近くの皮膚の色が小さく変わった部分を指差す。

 それは俺も持っている部分であり、以前に負った傷の痕だ。

 あんな所まで写し取るとは高い変身能力だ。


「これは6歳の時に木に登って下りられなくなって、だからと助けを叫ぶのも周りから意気地が無いと言われるのが嫌で、最後にはそこから飛び降りて地面にぶつかった結果だね」


 が、続いて出た言葉には彼の望み通りの感情を見せるしなかなった。

 その通りだ。

 状況だけでなく当時の心情まで当てられた。 

 姿形だけでなく記憶までそのままにするのか。

 

「あ、これにはビックリ?」


 彼はニッコリと笑う。

 これで”やってやったぞ”との顔をされたら悔しいのかもしれないが、安心といった表情には嫌な気は起こらない。

 だが、能力の事を思うと、楽しく笑ったままとは行かない事がある。


「あれ、気分を悪くさせちゃったかな?」

「先程貴方の反応について思った事も読み取られてしまったのかと……」

「あれは違うよ。単に君の様子からそう思っただけ」


 それには胸を撫で下ろす。

 心を読み取られてしまうような事は今から作業するにも気乗りがしない。

 後は昔の記憶をこれ以上色々と言い当てられるのも勘弁して欲しいけれども。


「まあ、そういう事は出来るんだけどね。でも、その気にならないとやらないし、その気にならないよ。これ以上は君の事を探ろうとも思わないから安心して欲しい。というわけで、オレはこういう者なんだ。”ドブール”という名で通しているから、そう呼んでくれたまえ」

「分かりました、ドブールさん」

「それで本題だけど、オレも何の考えもなく君の姿になっているわけではないんだ。と、これも口で言うより見せた方がいいな。まずはオレの左の掌の真ん中を押してくれる?右手の人差し指で押し込むように」


 ドブールさんは左掌をこちらに見せ、俺はそこに一つの可能性を浮かべつつ近づく。

 右手は人差し指だけ伸ばして彼の左掌の前に出し、使わない左手にも意識を向けて準備は整った。 

 クッと人差し指でドブールさんの左掌を押せば彼の肉の感触が指に伝わり、そして、俺の左掌にも肉が押された感触が訪れる。

 これには、やはり……と頷き、彼に触れた指を外す。


「感覚の共有ってやつですね」

「え、これも当てるの?」


 ドブールさんは「これには参った」との様子で額を叩く。

 その感覚はこちらに飛ばされない。

 あくまで俺が彼に行った分だけが共有されるのか。

 彼の判断次第で共有できるか出来ないか自由自在なのか。

 そこは謎だが、今は今の話を進めよう。


「以前にマスターと行った事あるんですよ。他人の受けた感覚を俺に飛ばすというものを」

「そうか~。これは確実に驚くんじゃないかと思っていたのに、そこは流石凄腕魔導士とその片腕か。まさか既に知った技術だったとはね」


 落ち込んだ姿を見せても次には称賛の言葉を出す彼は嫌味なく爽やかで、こちらも悪い気はしない。

 ただ一点、俺なんて大した手伝いをしているわけでもなく、マスターの片腕などと表されるのは大袈裟なのは否めずに照れ隠しのように頭を掻いてもしまう。

 

「君も勝手が分かっているなら話が早くていいね。さて、いよいよこれからの事を話そう」


 そうして「さあ、始めようか」と仰々しく両腕を大きく広げるドブールさんに従って本題へと入る事となった。




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