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マスターと助手  作者: 佐久サク
体験学習
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三日目─その四

「これで終わりだね、起きていいよ」


 自分でも軽さを感じながら起き上がると、そこに鏡が用意されていた。

 もう一度それ越しに身体を見れば、全く違う姿が映されていた。

 肩がまっすぐになっていて腕もグルグル回せる。

 

「どう、調子良さそう?」

「はい、これが健康ってものですね。ありがとうございました」

「いやいや、こちらも良いデータが取れて感謝の限りだよ。生徒の受け入れには悩んだんだけどね。今は君を受け入れて良かったと本当に思ってるよ」

「悩んだ……って、どういう理由なんですか?」


 生徒の受け入れに消極的になる理由は幾つも浮かぶ。

 実際、過去にやらかした生徒のせいで翌年から受け入れ不可になった実習場所もあると聞いた。

 子供嫌いのようではない、オレに対しても無理しているようでもなかったけれど、そういう心配はあるものだったのだろうか。 


「僕がここで魔術を駆使して凄い事をしているように思う人達も多くてね。古代遺物の仕事について期待していたものが得られなかったと、ガッカリされても困るかなって思っていたんだ」 

「その事に特殊な魔術は使っていないんですか」

「比重は遺物にあるからね。遺物が形良く残っていれば復元や再現が出来る可能性がある、それでなければ出来ない、とね。この塔で使っている遺物も僕が一から作った物ばかりではなくて、遺物が見つかった地域の人達が工夫して使っていた物を教えてもらった結果である事も多いんだよ」


 調理器も電子レンジも冷蔵庫も何もかもがいつかこの世界に存在していたかもしれず、今の時代にも使っている人達がいた。

 その事実には、自分は何も知らなかったんだな……との思いが強く湧く。


「学校側にもその辺りは伝えたんだけど、「それでも興味を持っている子が多いから」と頼まれてね。「最初は三人程預かってもらえないか」って言われたんだけど、それは人数として面倒を見る自信がなくて」

「それで一人だけに」

「そう。でも、女子生徒からの希望が多いという事で、学校側からも「希望は汲みたいが、一人で送り込むわけにもいかない」と何度も話し合いをしたんだ。僕からも案を出して女子生徒一名の予定として話が進んでいたんだけど、僕の案の詰めの部分で断られて、最後には男子生徒一名という事にまとまったんだ」


 学校で彼の噂話していたのは真面目寄りの女子生徒が多かった。

 その面子が「どうしても」と来たのなら、学校側も結構頑張るものなんだなと知る。

 オレとしては今の状況になって有難いけれど、そこに至る経緯は気になる。 


「先生の案って、どういうものだったんですか」

「その間だけ僕の知り合いの大人の女性にこの塔に泊まって助けてもらおうかなって」

「へえ、いい案だと思うんですけど、どうしてでしょうね」

「本当にね。都合が付きそうだった三名とも信頼のおける人達だったんだけど、ねえ」

「「ねえ」って言われても、俺はお会いした事ないですからね。まあ、信頼がおけるだろうというのは分かりますけど」


 同意を求められた助手さんは面白くなさそうにして顔を逸らす。


「どういう方に頼んだんですか?」

「サロン・ラライルを支える人達だよ。フェイファさんもクレイナさんもリオールさんも、それぞれ個性があって良い人達で……」


 と、何やら語る人を前にして考える。

 何だか聞いた事のない場所だ。サロンとなれば集まる場所なのは分かるけど。

 響き的に大人の夜の集まり、面倒を見る人達ということだろうか、お酒なんかがあったりしての……。

 これは気になると、助手さんにそっと聞いてみる。


「あの、それってどういう所なんですか?」

「俺が教えたとか学校で言わないでくれよ?」

「言いませんよ」

「サロン・ラライルはあれだよ、この地域で人気の高級娼館。名前が出たのはそこの上位三名で……」


 夜だった。夜も夜に住む人達だった。大人も大人の女性の話だった。

 娼館な上に高級。

 毎夜どんな風に行われているかは知らないが、どういう事が行われているかくらいは分かる。

 なんでそんな人達を数日間も確保できる接点があるんだ……と、そこは「触れてくれるな」という目でこちらを見る助手さんがいるので問わずにしておくとしても、一つ指摘は入れておきたい。 


「それは学校も駄目だって言いますよ……」

「でも、こっちの条件を全部飲んでくれて、口が堅くて、夜も拘束される仕事に付き合ってくれる女性なんて滅多にいないんだよ?学校側から「誰かいないか」と頼まれて、「これしかない!」って名案だと思ったのに……」


 オレの骨はズレていたけれど、それを治してくれた人は他がどこかズレていた。

 これが変わり者と言われる所以なのかと腑にも落ちて、今またその事を思い出し愚痴るその人を、オレと助手さんは何ともいえないという同じような表情で見続けていた……。



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