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マスターと助手  作者: 佐久サク
今日も掃除をしよう。
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第三話:☆

 中から出てくる物も少なくなり、最後の確認といった様子でマスターが耳孔の手前側を掻いていく。

 それには耳への心地良さを思うだけでなく、この目の前での棒の動きに連動するという形が良い……と、マスターの手元に視線を集中させる。

 この小刻みに出し入れされる図から擽るような感覚が……と、奥から手前への力が入った一掻きからは首筋にまで快感が広がるものが……と、耳のみに収まらず目でも楽しんでいたところで、「ん?」と思わず首を傾げた。


「マスター、そこ、一度左側に戻ってください」

「左側……この辺?」


 マスターが手を横に動かし軽くとの様子で掻く。

 そこから得られたのは、ほぅ……と思わず声の出る気持ち良さ……と、これが目的ではない。

 いかん、いかんと気持ちを戻して、再びマスターに。


「また右に少しだけ戻してみてください」


 俺の言う通りにマスターが僅かに右に指先を動かして前後の運動に。

 その時に起こった感触にやはり……と、自分の思い通りだった事にグッと右手を握る。


「そこです。そこだけ伝わるものが弱く感じるんです。幅は狭く距離は長く」


 その言葉にマスターは一度耳を覗いた後に、これまでより深めに耳かき棒を入れて強く引き出した。

 けれど、そこには何もなく、俺の耳が受け取った感触は皮膚にクッと沈むものと、心地良さはあるが後一段階強く力が欲しいとのもどかしさのあるものだった。


「取れなかったみたいですね」

「そうだね、もうちょっと力を強くしてみていいかな」

「俺の方は構いませんよ」


 「それじゃあ」と、マスターは耳の中へと匙を置く。


 グッ……


 そして先程よりも強く皮膚への圧力。

 痛くはないが視界からマスターの手に力が籠っているのは分かって、こちらも身を固めてしまう。


 ググッ……


 僅かに耳かき棒は手前に動きながら更に力が込められる。

 痛みは来ない。

 しかし、僅かな違いで痛みが来てしまいそうで、俺は緊張しながらそれを見る。

 俺が痛い分は良いけれど、カーム氏の耳の中を惨事にしてしまうわけにはいかない。

 俺は自然と口を強く閉じ他の二人も声はない静かな空間の中、マスターが指先の匙を押さえつけるように動くのを見る。

 力を込め、押し付けて………引き出す!


 瞬間、ガキッとの耳かき棒からの圧力以外にも何かがフッと消えた。

 耳内部が軽くなったようにも感じる。


「何か外れた気がしましたよ」

「こちらも手ごたえはあったよ」


 と、取り出された匙には何も乗っておらず、マスターはそれを台に置きピンセットに持ち替える。

 そうして中からスルスルと出てきたのは細長い塊だった。

 これまで見てきた黄土色とも違う赤茶色といった色が濃い物体。

 その強く固められたような質感に、あれが耳かき棒に押さえられて皮膚を圧迫し、それが剥がれた途端に俺の耳も解放感を得たのかと想像する。


「何だかベキリッと凄い音がしたね」


 そこにカーム氏が驚いたようにも興味があるようにも見える顔を向け少々弾んだ声も出す。


「ざらついた皮膚の隙間に入り込んでいたようですね。年月をかけて固くもなっていたようなので取れる時に大きく音も出たのでしょう」

「そうか。これは助手君がいないと見つけられなかったろうな」

「ええ、僕にも感触の違いは全く無かったですからね」


 そう二人から褒められ気を良くしていたところで、カーム氏の眉間に力が入り表情が険しくなった。

 その彼の様子に、こちらには痛みは感じなかったが……と俺は自分の腰がしっかりと椅子に接していたのを確認し、マスターも術の効果が切れたのかと椅子と彼とを気にするように。


「どこか痛む所がありますか」

「違うんだ。先程取れた辺りかな、そこがとても痒くてね。感触には鈍くても、こういったものは起こるらしい」

「ああ、これまで蓋をされていた所が解放されたからでしょうね。それではそこを処置していきましょう」


 と、マスターは匙を持ち直し、俺は椅子にしっかりと座り直した。





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