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マスターと助手  作者: 佐久サク
体験学習
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一日目─その二

 という過去と知識を、この世界に生まれて15年目に思い出した。

 何事もなく育ち、そこそこの魔術学校に入学して、成績は真ん中ちょっと下を維持。

 そんなどこにでもいる生徒が、夏休みの家族旅行から帰った後に熱を出してうなされている最中に蘇らせた記憶だった。


 熱は大したものじゃなく二日くらいで下がった。

 けれども今の記憶と以前の記憶が混ざったりで混乱も出て、結局は一週間ほど寝ていた。

 困らなかったのは名称。

 文字も言葉も以前の世界と共通している事が占める。

 身の回りにある物品の名前も、かつて暮らした世界と同じ物が溢れている。

 自分自身にしてもそうだった。

 向こうでは”ユウリ”、こちらでは”ユーリ”で、名前はほぼ同じ。

 名前を呼ばれた時に自分の事ではないと勘違いする事はまずなかった。

 その辺りには気を使って転生させてくれいたのかと思う。

 それでもこの歳まで何も思い出さないのはどうなのかと。

 あの”女神”はあれ以来何のアプローチもしてくる事もなく、アイツは駄目な女神の”ダメガミ”だったんじゃないかと思わざるをえない。


 まあ、特典自体は有難く使わせてもらってるけど。

 まず出来るのは己や他人のステータスの確認。

 能力がレベル表記されて、経験値が溜まってその数値が上がる様子が視認できるのはモチベも上がる。

 他者については得手不得手をステータス表示によって知り、その肉体や精神の状態を調べては対応を変える事で、立ち回りが上手くなった自覚も出てきた。

 

 後は魔術操作。

 長い詠唱は必要なくなり、ステータス表示から使いたい呪文を選んで出てきた文言を指でなぞるだけで発動できるのは有用だった。

 宙に浮かんで見える呪文表示はオレにしか見えないようで、オレだけの特殊技術として一気に一目置かれるようにもなった。


 そうした夏休み明けデビュー成功後の気ままな学園生活に訪れたやっかい事。

 今のクラスに属する生徒は必ず行わなければならない体験学習の時期がやってきた。

 最初は適当に大勢と一緒に数日間過ごせばいいと思っていたのに、成績優秀者はそれでは許されないと言われてしまった。

 だからと大学に赴いて講義に参加するとか研究所行きだとかは面倒臭さしかなく、いい逃げ場は……と、探す内に見つけた一つの場所。

 それは男子生徒・一名限定の条件で魔導士の元で学ぶとの事で、「これでいいや」と申込書を投げ込めば、枠の争奪戦にもならずそれは決定した。


 その魔導士とやらは女子生徒から興味を持たれているようで、「なぜ男のみなのか」と教室で不満をぶつける様子が見られ、選ばれたオレにもあれこれ言って来る者も何人もいた。

 若くして古代遺物の発掘と復元の道において名を馳せている実力者で、その道はニッチで危険なものであり、町からは離れた塔に住むという変わり者としても有名なようだった。 


 訪ねる事になるからと学校で写真を見せてもらったが、その魔導士は人が良さそうで思慮深そうには見えた。

 後は俗に言うイケメン、地味目女子グループに人気になるタイプってやつだ。

 噂話に盛り上がっていたのもそういう面々だったなと納得した。

 ひっそり生きてそうな女子達だったのに、「彼女はずっといないようだ」とか「この前はどこそこの遺跡から帰ってきた」だとか、オレのステータス表示でも見られないパーソナルデータをガッツリ把握しているのは正直引いた。


 だが、見た目がいくらそのように見えても中は分からないものと、あの黙っていれば神の威厳もありそうなダメガミを体験学習へと向かう道の上で思い出す。

 しかし、あれ以来音沙汰がなく、オレからどうする事も出来ない相手を浮かべていても心がくさくさするだけで、今は今の事だと切り替えて足を進めていった。




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