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マスターと助手  作者: 佐久サク
燃え盛る想いの果て
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第五話

 駅に着くと夕焼け空となっていた。

 儀式は予定通り終わったが各里の近況報告会と言う名の宴会で時間が押して、雪女仲間はもう一日その場で過ごすようだったが、ワタシは「連れを待たせているから」と帰って来た。

 

 遅れる可能性も助手には伝えてもいたが、心配させるといけないからなと出来る限り急いで辿り着いた宿。

 そこに助手の姿は無かった。

 受付の番頭に聞くと、数日前に「町を散策してくる」との会話の後に外へと向かい、そのまま帰って来ていないらしい。

 町の警備部隊にも話は通したそうだが、まだ何の手掛かりも伝わっていないという。

 

 何日もどこに行ってしまったのか。

 決まった場所に行くのならば、その事も伝えてから行くだろう助手だ。

 だとすると、事件や事故に巻き込まれたのか……。

 気分良く返って来た気持ちだけでなく身体までもが冷えていくような中、ドタドタとした音が入口側からやってきた。

 入って来たのは中年の人間の男で、恰好からして警備隊員のようだ。

 その男へと番頭が駆け寄り用件を聞く。

 その口から出たのは「山の入り口近くで倒れている若い男を見つけた」との話だった。

 それがこの宿から消えた男の事ではないかと、警備隊員として伝えに来たのだと。

 それがワタシにも聞こえてきて、思わずその間に入り込む。 


「倒れていたって怪我をしているのか、意識はあるのか」 

 

 突然に会話に入って来たワタシに警備隊員は驚いたようだが、消えた客の連れだと番頭が説明すると話を続けていった。


「怪我はしていないが意識は無いに等しい。凄い熱を出して山の岩陰に座り込んでいるのが見つかって病院に運ばれてきたんだ」

「その男の背格好は?見た目は幾つほどに見えた?」

「悪いが、俺も助けたわけじゃないから知らない。ここには誰かにその確認をしてもらおうと頼みに来ただけなんだ」

「それなら、ワタシが行く。連れて行ってくれ」


 宿の者が行くよりもワタシが行くのが確実だ。

 それはその場にいる誰もが思ったようで、ワタシは病院に運ばれた男が助手であって欲しいと、その身体を蝕む熱が大した事ではないと願いながら警備隊員の男と共に宿を発った。







 逸る気持ちを抑えて病院の廊下を歩く。

 案内された個室のベッドに男が横たわっていた。

 その男は探し求めた相手では無く、助手とは髪色も背丈も似ても似つかぬ男だった。

 

「連れの人ではないようだな」


 ワタシが判断を伝える前に警備隊員の彼が小さく漏らす。

 それが分かる程にワタシの表情に出てしまっていたのだろう。


「ああ、別人だった……」


 ワタシは相手が助手ではなかった事に、彼としては謎の人物の話が振り出しに戻って肩を落とす。

 そこに「うぅっ…」と呻き声が混ざった。

 それが発せられた先の寝ている男に目を向けると、触れなくてもその発する熱い熱が伝わりそうな程に真っ赤な顔で苦しんでいる。


「これだけの高熱、何か理由があるのか」

「診断としては風邪の一種らしい。しかし、なかなか熱が収まらずこの小さな病院にあった氷嚢も尽きて今は何とか彼の体力に賭けるしかないようだ」


 そう会話を続けている間も身元の分からぬ男は呻き苦しむ。

 身体を冷やす事が必要なのか。

 助手が見つからないままで身体がざわめき落ち着かないが、このまま背を向ける気にはなれなかった。

 暗い中で助手を探し回るのも得策ではない。

 今の落ち着かない気持ちを抑えるには何か別の事をするべきだと、ワタシの中のまだ冷静な部分が判断を下す。

  

「それならワタシが冷やそうか、氷の魔術は得意なんだ」

「それは有難い、病院の人にも是非伝えよう」


 そうして病院に許可を貰い、警備隊員の彼はまた様子を見に来ると部屋を出て行き、ワタシはベッド横の椅子に座り男の熱がその身体を蝕み続けないように緩やかな氷の膜で辺りを覆う事になった。





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