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マスターと助手  作者: 佐久サク
一夏の想い出
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第五話

 夏休みが終わり新学期が始まってのすぐ、また学校の図書室で勉強。

 長期休暇中に精を出し、先生にもしっかり教えて貰った事でもう赤点の心配はなかったが、学校行事で忙しくなる前の今の内にもっと力を伸ばしておこうと机に向かっていた。


 今はもうどれだけ机に向かおうとも、肘をついて文字を書くような事はない。

 背筋を伸ばしたこの状態こそが最適だと思うようになれていた。

 ふと手を休めて前を見れば、その景色は旅行前よりも見下ろすようなものとなっている。

 オレもまた知らず知らずの内に背が縮んでいたようで、そして、いつの間にか結構伸びてもいたようで、先生に僅かに勝てる程に成長していた。

 その喜びを改めて噛み締めていると、こちらに近付く足音に気づく。

 振り向いてみれば、それはコッドだった。


「コッドも勉強に来たのか?」

「ああ。勉強に回す時間が無くてさ。このままだと中間テストやばそうだから」

 

 コッドは夏休み中に武器技術優等生という事で学校代表で大会に出なければならずその鍛練が必要だったとか、残りの時間は将来に目指す記者修行のために新聞社で下働きさせてもらう日程で埋まると聞いていた。

 それは勉強する時間は無かったろうなと理解して、大会では結構良い所まで行けたらしいし、同時に将来へ向けて行動もしっかりとしていて、オレには真似が出来ない友人だとつくづく思う。


「でさ、お前はどうだったんだよ~」


 と、尊敬の目を向けていた友人が、ニヤニヤとしてオレの肩に手を回し小声で囁いてきた。

 コッドもまたオレの夏休み中の予定を知っていた。

 オレが他の場所へ旅行するというだけでなく、それが取材旅行となったという事も。

 オレが小説家として活動している事を知っているのは、当初は出版社、学校のお偉方、家族だけだった。

 けれども、そもそもこの生活はコッドの誘いが切欠で始まったもので、コッドには知っておいてもらいたいと話した。

 その後は椅子から落ちる勢いで驚いたり、オレの事を「凄い、凄い」と持ち上げたり。

 「いつか俺が新聞記者になったら、そこの新聞で連載小説を書いてくれよ」と、そのまま将来への意気込みを語り合ったりした。

 オレの裏の顔については「秘密にしておいてくれな」と言えば、きちんと黙っていてくれる。

 執筆疲れの時もそれに直接には触れずに察して気を使ってくれる、とてもイイ奴だ。 


「何か見た目が違うし、達観した様子もあるし、これは大人の街で大人の世界に入ってしまったか?」


 さっきまで持ち上げたのは間違ってたかと思う程に、それは浮かれ気分で聞いてくるコッド。

 夏休み予定を伝えた時も先生達と行く事は伝えて、その時もその部分には食いつきがやけに良かった。

 家族とではない知り合いの大人に誘われての旅行との事で、絶対違う方向で考えてるな、コイツ。


「大人、大人にはなったなあ……」 


 コッドの言葉にあの旅を振り返れば、整えられた身体に蘇ってくる感覚。

 それに触れた事で口からはそんな言葉がつい出てもしまった。


「えっ、マジで?冗談のつもりだったのに。何、何があったんだよ」


 更に食いつきを勢い良くしてくるコッド。


「少年は痛みを伴って大人になるのさ。分かるかい、コッド君……」


 全身バキバキボキボキにやられ、オレは大人の階段を数歩一気に上った、それに間違いはない。

 ちゃんと説明を聞いておけば違ったのに、調子に乗って進んだせいで起きた出来事。

 話を通しておけば、骨を嵌める所は基礎的な方法でも行ってくれたのだと後で知った。

 こうして背丈まで高くなる結果は良かったけれど、今も身体の節々にはっきりと思い出せる衝撃。

 そのオレの過ちの証明を振り返ると、オレはこれまでよりも高い視界で遠くを見ながら、そう答える事しか出来なかった。


「痛みって……。いや、何か分からんけど、ユーリは夏旅行が終わる度にキャラ変わるなぁ……。詳しくは聞かない事にするけど、まあ、頑張れ」

「おう、頑張る……」


 と、今日もまた何かを察してくれて自分の勉強へと向かっていくコッドへと返し、言葉通りにオレは頑張る事を決める。

 あの経験は絶対に活かそう、せめて活かすしかないだろうと、今度は話を聞かないせいでバカが酷い事になる物語な!と、学園ラブコメ第三巻に向けての構想を広げていくのだった。




 

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