第五話:☆
金属が貼り付いていた場所は赤くなっているからと薬を塗られるようだった。
「では、冷たい感触が来るだろうけど驚かないでね」
先端に薬を付けた綿棒が耳を進み、その言葉に今日一番ぎゅっと力を入れると、耳の奥にヒヤッとした冷たさとスッとした感覚が来て、その次の瞬間には快感の大波が全てを包んで押し流していった。
私はそのまま海岸端に流れ着いたかのように力なく横たわり、身体に残った波の衝撃の余韻に浸るっていると、肩に魔導士さんの手が触れた。
「頑張って我慢してくれて、ありがとうね」
「い、いえ……。お、思っていたよりびっくりしなくて、気持ち良かったです……」
「そうか、身体が十分に慣れていたんだね」
「最初からこうだったら、嫌だったかもしれません」
「その考えは僕も分かるよ。僕も順番に進めていたから出来た事。そして、それは君がもっと奥の方を望んだ事についても言える気がしないかな?」
魔導士さんの言う事はよく分かった。
あの時に欲しい所を欲しいようにされていたら、その刺激に慣れていない身体が凄く動いてしまったかもしれない。
魔導士さんもまだ加減が分からなかったかもしれなくて、お互いにとって順を追う事がとても大切なことだったと思う。
「”もう少し”、”後少し”って待つ時間も悪くなかったんじゃないかな?」
その言葉に思い出すのは、我慢している時のもどかしさと、その先で得た快感の強さ。
魔導士さんの指摘はその通りで、ふふっと笑顔をつけながら言い当てられてしまった。
図星を突かれるのはいつもは恥ずかしいのに、今日はそうした言葉がどうしてか嬉しい。
順番っていえば、私がここに来た事についても浮かんでいた。
魔術道具に頼って手っ取り早く事を済ませれば、経験を経たと言えたかもしれない。
でも、それは大人になるとは別の話にも思う。
今は魔導士さんだけじゃなく助手さんとも、強引にそんな事にならなくて良かったと思う。
そうなっていたら……その初めてがずっと心残りになってしまったかもしれない。
大人になるにも順番に、後少しって思いながら前に進むのも悪くはないって今は思えていた。
「こちらはこんなもので良いかな。では、今度は反対の耳へと行こうか」
半分は色々と考えていたのと、もう半分は眠ってしまいそうな頭でいたから、最初はそれをどういう意味なのかって思っちゃったけれど、耳には二つあるから反対の耳でも楽しめるんだ、この状態が続くんだと気付いて、嬉しさを強くしながら寝返りをうつように身体を反対にさせる。
「あっ……」
何故か小さく上から声がした。
何かあったかなと思って顔を動かそうとするけれど、魔導士さんに身体を向けた後はもっと温かくなって眠たくなって反応が鈍る。
そうしていると頭に手をふわっと乗せられた。
「ああ、いいよ、いいよ。そのままで」
どうして最初にちょっと驚いたような声を出したのか分からなかったけれど、魔導士さんがそう言うなら良いかなって、今はこのままじっとしているのが自分にとっても一番良い事だと思って身体を動かすのは止めた。
そして、サリサリサリ……と、また耳の先っぽを掻かれ始めて、私は何も考えないようにして目を瞑って行った…………。




