第十二話
賑わった町から離れて塔までの道を歩く。
ここらはすれ違う誰かも少ない寂しい道だけれど、今日は前方に人間の姿を見つけた。
大きな荷物を背負った男の人で、どうやらその荷物が重いのか、一度背中から降ろすと疲れたように空を見上げ腰を叩く。
そこからまた荷物を背負うのかと思ったらしゃがみ込み、荷物を開くわけでもなくそれに寄りかかっている。
その様子には何かあったのかと近づく。
「大丈夫ですか?」
「え、ああ、ありがとう。急に疲れが出てしまったようで……」
その人は肩で大きく息をする。
荷物は大きく重そうで、確かにこれを運ぶのは大変だと思う。
でも、私になら持ち運べそうで、進む方向も同じのようで、それなら考えは一つだ。
「荷物を持つの手伝いましょうか。私も向こうに行くので」
「そんな心配までしてもらうのは……」
「で、でも、私も気になって……」
「そうか、どちらにしても心配をかけてしまうようだね。それなら頼もうかな」
「任せてください」
そうして背中にはその人の荷物を背負い、片手には魔力剤入りの袋を持って二人で進む。
その内に遠くに見えてきた分かれ道で、一つは塔への道でもう一つは違う場所へと続く道。
「この先はどっちへ?」
「大きい方の道だね、その先に行きたいもので」
大きい方とは塔への道で、その先には塔しかないとも言える道だ。
用事があるとしたら、そこしかない。
だとすれば近づく前に言っておかなければと、一度立ち止まって伝える。
「ま、待って。塔は住んでいる魔導士の人が留守で頼み事は全部断っているって、助手さんが……」
「重ね重ね心配かけてもらってすまないね。それについては大丈夫だよ、僕がその魔導士だからね」
と、その人は笑顔を向けてきた。
その言葉に思わず目を大きく開いて、その人の顔から身体から全部を見てしまう。
どこからどうみても普通な雰囲気の男の人だった。
さっき出会った二人や助手さんよりも背が少し低い印象が残るだけの。
魔導士というと昔に町で見た人は恐くて偉そうな雰囲気を出していた。
でも、目の前のその人は服装も擦り切れ汚れている物でそんな人と同じようには見えなかった。
「えっと、あなたが魔導士さんだったんですか……」
「うん、なんだか驚かせてしまったようで悪かったね」
「こ、こっちこそ変に驚いてしまって、ごめんなさい。魔導師っていう人は、もっと難しい顔しているのかと思って……」
「確かに魔導士仲間にはそういう人も多くいるから否定できないねえ。と、貴女は?助手君のお知り合い?」
「知り合いで、その……」
そうして今回の事を話し出すと、魔導士さんは喋り終わるまでうんうんと頷いて聞いてくれた。
「そんな事になっていたんだねえ」
「あの、私はこのまま居ていい……んですか」
「構わないよ。留守中の事は助手君に任せているし、彼が良いといったのならね。僕も大仕事の終わりで休みが長く入っていて、今から忙しくなる事もないから。それでは帰るとしようか」
魔導士さんは私を誘導するように前に出て、それならと私も歩き出し、二人で塔までの道を進んでいった。
◇
魔力剤を飲んで暫くしたらヒイナは元気になったようで、そこにいた皆で一安心。
その後は4人で食堂のテーブルについて話す事になって、助手さんもヒイナも魔導士さんが良いと言うなら良しだと、これまでと同様の日が続くことになった。
少しだけ変わった事と言えば、魔導士さんが帰ってきてからは砂の中に埋もれていたような物を綺麗にする手伝いもするようになったけれど、磨き上げる事は慣れてもいたから魔導士さんにも褒められて嬉しかった。
他には、昔から雨で川に行けない時はゴミ置き場から拾ってきた本を読んできて、塔に住むようになってからも本を貸してもらっていたけれど、魔導士さんからはこれまであまり経験がなかった本を使っての文字を書く教えも受けて、出来る事が毎日増えていって良かった。
他の事も今は苦も無く出来るようになって、掃除も洗濯も料理もどれもこれも私にとって楽しい事だった。
そんな日々の中でふと気が付くと、ヒイナが私に「十分な働きだった」と認めてくれる日は未だにはっきりもしていない事にも気づく。
けれど、何かと指導される事も減ったし、いずれその日は来ると信じて言われる事は何でもかんでもこなしていった。




