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マスターと助手  作者: 佐久サク
夜の訪問者
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第二話

 起き上がっても捕まり縛られるような事はなく、石床に敷かれた柔らかなクッションの上に正座させられただけだった。

 目の前では二人も同じようにして座っていて、ここにやってきた理由の説明を促された。

 だから、全部話す。私に出来る事はそれだけだ、って。

 周りを見返すために大人になりたくて、誘惑して協力してもらいたかったと、事の一切合切を説明をした。


 その度に魔導士さんは優しそうな顔は崩さないんだけど困惑の色を強くして、助手さんは明らかに嫌がっている表情を見せつけてきていた。

 過去に説教をもらった事はいくらでもあるけれど、こんなに恥ずかしかったことはない。

 これが世に言われる”羞恥プレイ”なのかと顔を俯かせながら思う。

 それと共に自分はあまりにも駄目なのかと、ただでさえ無かった自信が砕かれて、身体も魂も小さくなっていくようだった。


「私、そんなに魅力が無いのでしょうか……」


 二人から黙って見つめられる中、惨めさが止まらないのなら、いっそ聞いてしまおうかと口にする。

 

「そりゃ、どう見たって子供で……」


 まず困りながらもそう言ってきたのは助手さんだった。

 いきなり質問をした事で怒られなくて良かったけれど、その言葉がギザギザの刃のようになって突き刺さる。

 自分だって分かっていた。

 私の見た目なんてどうってことなくて、夢魔としてまだ幼くて、人間から見たって10歳とちょっとってくらいの子供でしかない事は。


「そ、それは分かってます。けれど、だからこそ、凄く良く効く霧を撒いてですね、事を上手く運ぼうかと……」

「上手く運ぶって、どこをどうするつもりだったんだか……」


 話せば話すほど、助手さんがそれはもう嫌そうに反応する。

 この辺も話に聞いていたのとは全然違うというか、霧を交換してくれた店の人だって「簡単な話だ」とか「多少効きが悪くても、男なんてそんなものだ」とか後押ししてくれていたのに、何がいけなかったのだろう。


「そ、それは、私も詳しくは無いので、効果が出たら後は流れで。そ、そちらで、お、お好きな形で、進めていただこうかと……」


 混乱する中での必死の説明だったのに、二人の表情がまた困惑と拒否を強くしていく。

 これがお姉ちゃん達や大人の話に出てもくる”萎える”ってやつなのだと、今とてもよく理解できた。

 水分がどんどん目に溜まって行って、でも、泣く元気も失って膝に付けた手に力を入れながら項垂れる。


「そうだな……」


 暫くの後、そんな魔導士さんの声がした。

 恐る恐る顔を上げてみると、魔導士さんは私ではなくて助手さんを見ていた。


「まあ、これでは話が進まないだろうしね。助手君は部屋の外に出ていてよ」

「分かりました。それじゃ……」


 その提案に助手さんはこちらを怪訝そうに見てから立ち上がり、何も言わず部屋から出て行った。

 パタンとドアが閉められてから、今の一瞬を見極めて自分も逃げ出した方が良かったんじゃないかと思ったけれど、時既に遅しで私は魔導士さんと向き合う形になった。


 窓もドアも固く閉められ、時計の針の音一つ無く静かな部屋で二人っきり。

 これから何が起こるのか分からず、作戦の何もかもが上手くいっていない事にも後悔の念が強くなって、目の前の人の顔も見られずに俯く。

 

「さてと、夜にいつまでもこうしているわけにもいかないしね。君はどうしたい?」


 でも、そう声を掛けられて顔を上げる。

 これはなんだか学校の先生に怒られている時みたいだ。

 そういう時は何か言わないともっと怒られる。

 だから自分の中にまず存在する思いを口に出す。 


「お、お家に帰りたいです……」

「こちらとしてもその方が良いけれど、こうして来られた後で何もなく帰すというわけにもね……」

「それも、分かってます……」

「分かっていると言うのなら……身体を貸してもらおうかな」


 身体……。

 あれ?もしかしたら効果が出ているとか……と、魔導士さんを見ると、”そうはならないよ”というように、目を伏せ無言でゆっくり首を横に振られた。

 これは読心術を使われたわけではないのも分かる。

 いつも周りの娘にも言われるけれど、考えが分かり易く顔に出てもいたようだった。

 大人になるつもりで意気込んで来たのに、結局は子供でしかない事を改めて思い知らされる。

  

「少しの間だけ耳を貸して欲しいと思うんだ」

「耳を貸す……って、話を聞くという事で……」

「それもあるけれど、耳そのものも見せてほしいな、と」

「ここを?」

「そう、そこを」


 私が右耳を指差すと、魔導士さんの手が伸びてそこに触れた。

 突然だったのにも驚いたのだけれど、多分宣言をされてからでも同じ事だったと思う。

 ここに来た理由は肌を重ね合わせる事だったのに、本当に触れられると思わず身体を後ろに引くように反応してしまった。

 

 魔導士さんは優しそうで近づき難そうな様子ではなかったけれど、その手は大きくてしっかりとした男の人の手だった。

 これまでこんな風に触られた事が無くて、触れ心地も嫌なものではなかったけれど、初めての感触に自分の身体も頭も反応の取り方を理解できていないようだった。

   

「ごめんね、驚かせるつもりはなかった。それで、どうだろうか。僕としても無理強いはしないけれど……」

「言う通りにします」


 魔導士さんは拒否を許さないという顔ではなくて、私の答え次第に思えたけれど、今は従っておくのが一番良いと大きく頷いた。




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