第39話
39話目です~
そしていざ‥‥コロッセオの中へと足を踏み入れると、けたたましい程の歓声が私たちを出迎えた。その歓声に驚いてしまったエルは、ギュッと私の服を掴みプルプルと震えている。
そんなエルの頭に手を置いて私は言った。
「エル、大丈夫よ。あの上にいる人達は襲ってきたりしないわ。ただ私達の応援をしてくれるだけよ?」
「わぅ‥‥そ、そうなの?」
「そうよ~?それに今はまだちらほらと席が空いてるけど、私達が出場する大会ではもっとたくさん人が見に来るんだから。今のうちに慣れておかないと‥‥ねっ?」
そう、本番ではこのコロッセオの観客席いっぱいに人が押し寄せる。今の若干人の入りが少ないときに慣れておかないと、本番で気圧されて動けなくなってしまうかもしれない。
「まぁ、それに今日は私達の代わりにレイラが戦ってくれるらしいから‥‥そんなに緊張することないわ。」
「う~‥‥わ、わかった。頑張って慣れる。」
未だに緊張が解けない様子のエルの頭をポンポンと撫でていると、私達の正面からさっき後ろに並んでいた人達が、ぞろぞろとコロッセオに入場してきた。若干人数が少ないことを見るに‥‥何名かは辞退したみたいね。
そして彼等が入場してきたのを見てレイラが私達に言った。
「それじゃ頑張ってくるから応援よろしくねっ♪」
「何度も言うけど殺さないように。」
「はいは~い、手加減は慣れてるから大丈夫よ。」
レイラは私達に手を振るとスキップしながらコロッセオの中央に向かった。
「はぁ~‥‥ホントに大丈夫かしら?」
「レイラさんなら大丈夫です‥‥たぶん。」
そうしてミラとともに少し不安に思っていると、コロッセオの中に声が響いた。
「さぁ!!一時の休息を挟みまして、今日のメインイベントを始めたいと~思います!!」
その声が響くと会場を揺らすほどの歓声が上がる。するとその歓声を聞いて満足したような感じの声が再び響いた。
「はい!!皆様盛り上がっているようでなによりですね~!!では今回のマッチメイクの説明をさせていただきます。え~運良く勇者様のパーティー選抜大会の最終登録枠を手にした女性パーティーに対するはその彼女達が手にした登録枠を狙う数多の命知らずのパーティーですっ!!‥‥ってあれ!?女性パーティーのメンバーが一人しかコロッセオの中央にいませんが、これは余裕の現れか~!?」
「女一人だからって手加減すると思ってんじゃねぇぞ~!!」
「調子に乗ってんじゃねぇ!!」
等々、レイラの前に並ぶ数多のパーティーから野次が飛び始める。当のレイラと言えば、そんな言葉など意に介していないようだ。
そして会場のボルテージが野次や歓声等で最高潮に達したとき、司会は試合の開始を宣言する。
「それではっ!!最後の出場枠を賭けて‥‥試合開始っ!!」
試合開始の火蓋が切って落とされた瞬間‥‥レイラに向かって武装した人達が襲いかかる。
「オラオラァッ!!行くぜっ!!」
「後悔しやがれっ!!」
そして彼等が間近に近づいたとき、レイラは歪んだ笑みを浮かべながらボソリと呟いた。
「ひれ伏しなさい。」
「「「「「~~~~ッ!?」」」」」
レイラがそう呟いた瞬間‥‥私達を除いたコロッセオにいたすべての人間が地面に頭を擦り付け一斉にひれ伏した。
レイラのたった一言でコロッセオは一瞬にしてシン‥‥と静まり返ってしまう。司会の声も聞こえないところを見るに司会の人もひれ伏してしまっているのかもしれない。
「まぁやっぱり‥‥アリシアちゃん達以外は耐えられないわよね~。私の言霊は。」
言霊とは魔力を込めて発する言葉のこと。言葉とは意思のかたまりであることから、魔力を込めて発せられた言葉を聞いてしまった者は、余程耐性が高くない限りその言葉に込められた意思に従ってしまうという。
そしてレイラは足元でひれ伏す人達一人一人の武器を手に取り、その武器の使用者の顔の横に刺していく。それにより恐怖のあまり失禁する人が続出した。
「ふ~‥‥あなたで最後ねっ。」
「ひぃっ!?」
ザクッ‥‥と音を立ててひれ伏していた男性の顔スレスレの所に、深く剣が突き刺さった。
そしてパンパンと手を払うと、レイラはこちらへと向かって歩いてきた。
「お待たせ~ちゃんと約束は守ったわよん♪」
「大惨事には変わり無いけどね?早く拘束を解いてあげたらどう?」
「ふふふっ、まだ解くにはちょっと早いわ。言霊を解く前にさっきの司会をしてた子に会いに行きましょ?」
ルンルンと鼻唄を歌いながらレイラはコロッセオの中を突き進み、ある部屋の前に私達を連れてきた。
「ここね。入るわよ~」
ガチャリと勢い良くドアを開けて中へと入ると、そこには先ほど私達の受付を担当してくれた女性がいた。
「うぅ~‥‥た、助けてくださいぃ~。」
「あっ!!さっきの‥‥。あれ?でも声が‥‥」
「簡単な話よ~声を変える魔法を使って司会をしてたのよ‥‥ねっ?」
レイラがしゃがみながら彼女の顔を覗きこみ、問いかける。そしてさらに続けて言った。
「相手の人達はみ~んな戦意喪失しちゃったみたいだから私達の勝ちでいいわよね?」
「もっもちろんです~!!」
その答えに満足したようにレイラは頷き、私達の方を振り返った。
「私達の勝ちで良いって。それじゃもうここに用事はないから帰りましょ?」
そして踵を返して出ていこうとすると後ろから呼び止められた。
「あっ!?ちょ‥‥ちょっとこれ解いてください~!!」
「命があるだけ良いと思いなさい?やる気になれば死ねとも命令できたのよ?」
「ひっ!?」
レイラが一瞬だけ見せた怒りの表情と、確かに死を直感させるような言葉に彼女は表情を強張らせ、ボロボロと泣き出してしまった。
そんな彼女を無視してレイラは部屋の扉を閉め、コロッセオの出口へと向かう。
「ちょっとやりすぎじゃない?」
「ふふふっ♪大丈夫よ。一時間もすれば、言霊の効果も切れて動けるようになるから。」
「そう、ならいいんだけど。」
いざこざはあったが、こうして私たちは勇者のパーティー選抜大会のシード枠を手にしたのだった。
それではまた来週のこの時間にお会いしましょ~




