第38話
38話目です~
そうして王都を軽く観光しながら、今日泊まる宿屋を探しあてた私たちはひとまず部屋で旅の疲れをいやすことにした。
「はふぅ~‥‥ベッドがふかふかです~。」
部屋に入るなリミラとエルの二人は、柔らかいらしいベッドへとダイブし寝転がる。そんな二人を微笑みながら見ていたレイラが、今度は私のほうを見て問いかけてきた。
「それで~?いよいよ王都に入れちゃったけどこれからどうするのかしら?まだそんなに陽は沈んでないけど?」
「ここで一休みしたら今度はコロッセオの方に行って、私達のチームを出場登録してこなきゃ。」
王都の観光名所と名高いコロッセオは巨大な闘技場で、毎日どんな時間でも誰かしらが戦いを繰り広げている場所だ。それと同時にその戦いをしている人物で誰が勝つか‥‥で大規模な賭博も行われているらしい。
ちなみに主にそこで闘技者として戦うのは犯罪奴隷と呼ばれる、大きな罪を犯して奴隷に堕ちた人達だ。
「そのコロッセオって人間たちが殺し合いをしてるところだったかしら?」
「う~ん、まぁそういう認識で間違いないわ。」
一応相手を殺すという行為は反則負けになるらしいけど、そういうことは日常茶飯事だって私に剣を教えてくれた先生が言ってたわね。
「ほんと人間はモノ好きよね~。同族が殺し合いをしてるのを見て喜ぶんだから。」
「まぁ元魔王のレイラからすればありえないわよね。だけどこれだけは勘違いしてほしくない、人間だれしもがそういうものを見て喜ぶような人間ではないってこと。」
そういうものが嫌いな人間だってこの世にはたくさんいる。人間にはいろんな性格の人がいるということを分かってほしい。と、思ってレイラに言うと彼女はクスリと笑い私にぎゅっと抱き着いてきた。
「わかってるわよ~。だから私はアリシアちゃんたちに惹かれたんじゃない?」
「それってどういう‥‥」
レイラの言葉の意味がわからずにいると彼女は、私の口に人差し指を当ててきた。
「それはまたあとで教えてあげるわ。そろそろミラちゃんの視線が怖いしね~。」
そしてレイラが私を解放すると、まるでオオカミのようにガルル‥‥と唸り声を上げながらミラがレイラに詰め寄った。そんなミラにレイラは苦笑いを浮かべながら対応に追われている。
仲良さげにふるまっていてもミラはレイラの抜け駆けは許せないらしい。そんな二人のやり取りを見ていると、いつの間にかエルが私のもとへと近づいていた。
「あの二人って‥‥仲がいいのか悪いのかわかんないね?」
「ふふっ、そうね。でも仲が悪いようには見えないわ。」
エルと二人でレイラとミラのやり取りを微笑みながら眺めた。
◇
そして宿屋で休憩を挟んだ私たちは、再び王都の街へと出てコロッセオの方を目指していた。
遠目でもわかる程大きなコロッセオの隣には、豪華な王城が悠然と構えている。あそこは限られた人しか入れない。まさに雲の上のような場所だ。
ちなみに今回の大会で私達のチームが優勝すればあそこに行くことができるかもしれない。
「さて、ようやく着いたわね。」
「ふわあぁぁ‥‥おっきい~。」
ようやくコロッセオの真下に着くと、エルが大きくそびえ立つそれを見上げながら言った。確かに今まで見てきた建物の中では一番大きいかもね。
ポンポンとエルの頭を撫でながら、コロッセオの入り口の方を見てみるとなにやら人の行列ができている。恐らくあそこが受付ね。
「さぁ、私達も登録しに行くわよ~。」
そしてその列に並び、少し待つといよいよ私達の番が回ってきた。
「こんにちは、選抜闘技大会への出場をご希望ですか?」
「えぇ、お願いできるかしら?」
私が受付の女の子にそう言うと、彼女は机の下からベルを取り出しリンリン‥‥と辺りに音を響かせた。そして次に彼女が言った言葉で辺りにどよめきが走る。
「お知らせしま~す!選抜闘技大会への出場登録枠はこの方々を最後に締め切らせていただきま~す。」
私達の後ろにはまだまだ人が並んでいる。しかし、そんなことお構いなしに彼女は私達で締め切ると宣言したのだ。
すると、当然‥‥
「オイ!!おかしいだろ俺等はわざわざマルダスから来たんだぞ!!」
そう反論する輩も出てくる。マルダスと言えば、この王都からはるか西に行ったところにある海街だったはず‥‥きっと何日もかけてここにやって来たのね。それでいきなり締め切るなんて言われたら怒りを露にするの気持ちもわからないでもない。
しかし、そんな彼らの気持ちを逆撫でするように受付の女の子は言った。
「わぁ~わざわざマルダスからいらっしゃったんですか~。それはそれは‥‥ご苦労様でしたね。ですが、さっきも言ったようにもう募集は終わりですので~さっさとお引き取りください?」
「~~~ッ!!この女ァッ!!」
怒りに任せ、男は腰に下げていた片手斧を彼女へと向けて振りかぶる。
それを止めようと私が動こうとしたとき、私はレイラに肩を掴まれ止められた。
「レイラッ!?」
「アリシアちゃんが手を出すほどでもないわ。ほら、良く見なさい?」
「え?」
レイラに言われた通りに彼女の方に目を向けると、あろうことか彼女は男が振り下ろした斧の上に立っていた。
「はぁ~‥‥最近は物分かりの悪い方々が多くて困りますね~。でも血気盛んなのは素直に評価しましょ~。」
彼女はパチパチと拍手をしながらぴょんとその斧の上から飛び降りた。呆気にとられている男にクルリと背を向け、彼女は机の上にあった宝石のように光る石を手に取った。
『え~‥‥わざわざこちらまでいらっしゃった皆様、大変申し訳ないのですが~今しがたこちらのお姉さん達のパーティーで枠が埋まってしまいました。』
そのキラキラとした石に向かって彼女が声を発すると、その声が拡音され辺りに響く。
『本来なら、有無を言わさずに皆様にはお帰りいただくのですが~‥‥それではあまりにも無情で傲慢なので、ここは一つ私が皆様にチャンスを与えましょ~。』
そう言った彼女は後ろにあるコロッセオを指差した。
『現在コロッセオでは一時試合を中断してもらっていま~す。そこで~‥‥皆様にはこのお姉さん達のパーティーと戦って、最後の出場枠を勝ち取ってもらおうかな~って思います。』
彼女の言葉に私達の後ろで大きな歓声が上がる。こちらからしたらたまったものではない。
私が異論の声をあげようとした時、またしてもレイラが私を止めた。そしてレイラがにっこりと笑顔を浮かべながら受付の女の子に話しかける。
「その条件、受けるわ。‥‥ただし、私達が勝ったら出場決定っていうこと以外に何か報酬が欲しいわね。」
「もちろんです!もしあなた方が勝ち抜いたら‥‥シード枠を確約しましょ~。」
その言葉に満足したように頷いたレイラはニコニコと笑顔で私達のもとへと戻ってきた。
「ちょっと何勝手に話進めちゃってるの!?」
「でもシード枠を確約してくれるのよ~?楽で素敵な話じゃない?それに~‥‥今回は私がアリシアちゃん達の代わりに戦うから安心して?」
「~~~ッ‥‥はぁ~、わかった。ただし、誰一人殺しちゃダメよ?わかった?」
「フフフッ、もちろん‥‥わかってるわ。」
レイラならこの人数相手でもどうってことないだろうけど‥‥問題は死人が出るか出ないかよね。
レイラの不気味な笑みを見て心底心配になったのだった。
それではまた来週のこの時間にお会いしましょ~




