第32話
はい、作者です。最近ダークファンタジーを書いてみたいと思い、新作を書いてみました。良ければそちらの方も見てみてください。
パンケーキを食べ終わり、ほぅ‥‥と一つ溜息をつくと横にいる例の女性がニコニコしながらこちらを見ていた。
「ふふっ♪美味しかった?ねぇねぇ、美味しかった?」
ずいっとこちらをのぞきながら満面の笑みで問いかけてくる。まるで美味しいと言ってもらうのを待っているかのように‥‥
今まで散々からかわれたお礼に一つからかってやりたいところだけれど‥‥まぁ本当に美味しかったからここは素直に美味しいって言ってあげようかしら。
「ま、まぁ美味しかったわ。」
「あらあら‥‥もう、恥ずかしがっちゃって~。ホント可愛いんだからっ♪」
ぷにっぷにっと楽しそうに私の頬を指でつついてくる彼女。
「ちょ、もうやめなさいよ!!」
「え~?もうちょっといいじゃない。」
彼女のいいようにからかわれる私の姿をミラたちがすごく物珍しそうに眺めている。眺めるだけじゃなく止めてほしいんだけど‥‥。
「お姉様があんなにからかわれてるの初めて見たかもです~。」
「も、もしかしてあの人ってすごい人だったりするのかな‥‥。」
各々私がからかわれる様を見て感想を述べていると‥‥。いつの間にかエルの後ろに回り込んだ彼女がエルの頭を撫でながら言った。
「お嬢ちゃんは見る目があるわね~やっぱり獣人族だからかしら?」
「ッ!!あなたいったい何もn‥‥むぐっ!?」
「ふふっ♪大人の女には秘密がいっぱいあるのよ?アリシアちゃん♪」
ガタリと立ち上がった私の後ろに回り込み、彼女はその細い指を二本私の口の中に入れて舌を優しく捕まえて喋れないようにしてくる。
しかも名乗ってもいない私の名前を知っているようだ。
突然の出来事にみんなが動けずにいる中彼女は話し始めた。
「まぁ、それでもいろいろ知りたいことはあるだろうから私の名前だけ教えてあげる。」
「ふぐぅ‥‥むぅっ!!」
「私はレイラ。今はこうやって細々と喫茶店を営んでるわ。」
そして名乗り終えるとようやく私は解放された。
「ケホッケホッ!!はぁ‥‥はぁ‥‥」
「ごめんなさいね、ちょっと苦しかったかしら?」
レイラは私の口から指を引き抜くと、唾液でてらてらと光るその指をペロリと舐めてふるふると体を震わせた。
「んっ‥‥ふふっ♪ハチミツみたいに甘いわね。」
体をくねらせながら指をペロペロと舐めているレイラに生理的嫌悪感を覚え、私の背筋にぞくりと冷たいものが走りぶるりと震えた。
チラリと横を見てみるとレイラのその異常さにミラもぷるぷると体を震わせている。そしてミラはレイラに歩みよりその手を掴んだ。
その行為を止めるように言ってくれるのかと思いきや‥‥
「~~~ッ!!そっそれ!!私も舐めたいですっ!!」
鼻息を荒くしてミラはレイラに懇願し始めた。
まさかの行動に思わず頭を抱えたくなる。どうしてそうなるのよ‥‥
「あら?いいわよ、はいど~ぞ?」
しかもミラにお願いされたレイラは満面の笑みで、てらてらと光るその指を差し出す。
その瞬間、私のなかで何かがプツンと音を立てて切れ落ちた。
「ダメに決まってるでしょ~がッ!!」
「「へぶっ!?」」
思い切り握りしめた拳で二人の頭に拳骨を落とす。すると二人仲良く店内の木の床に頭を埋める結果となった。
「そこでしばらく頭を冷やしてなさい!!まったく‥‥もう。」
今まで散々おちょくられからかわれていたからか、少し気が晴れたような気がする。
深くため息を吐きながらレイラの手についた自分の唾液をナプキンで綺麗に拭き取りゴミ箱に捨てた。
「これでよし。」
パンパンと手を払い床に頭を埋めている二人を上から見下ろしていると、エルがミラのことをツンツンとつついていた。
「うわぁ‥‥これ生きてるのかな。すごい音だったけど‥‥」
「これぐらいで死ぬほど柔じゃないわ。ミラもそこのレイラってヤツもね!!」
その証拠にミラとレイラの二人は床に頭を埋めたままピクピクと痙攣している。
しばらくすれば自分で起き上がってくることだろう。
「エル、こういうダメな大人になっちゃダメよ?わかった?」
「う、うん‥‥わかった。」
念のためエルにそう注意喚起をする。まぁ少なくともエルはこういう風にはならないと信じているけど‥‥ってかさせないけど。
「ふぅ‥‥にしても一体何者なのかしらこのレイラって女は。」
簡単に私の背後をとったり見えないスピードで動いたり、挙げ句の果てには私の全力をぶつけても生きてたり‥‥。
人外にも程がある。‥‥ってまぁ私が言えた柄じゃないけど。
「レイラって名前‥‥どこかで聞いたような気がするんだけど。」
うーん‥‥と頭を悩ませていると、突然後ろから声をかけられた。
「あら♪私の名前に聞き覚えがあるのかしらっ?私ってそんなに有名?恥ずかしいわ~♪」
チラリとさっきレイラが埋まっていた床を見てみると、ミラは未だに埋まっているのに対し、隣にはポッカリと穴が空いていてレイラの姿は無かった。
恐る恐る後ろを振り返るときゃっきゃっとはしゃぎ、体をくねらせているレイラがいた。
「一応全力だったんだけど?」
「そうね~ちょっぴり効いたわよ。ほらここにたんこぶができるぐらいには‥‥ねっ♪」
私の全力を喰らってちょっぴりって‥‥とんでもないやつね。
ちょんちょんと頭にできたたんこぶを指差すレイラを見てはぁ‥‥と大きくため息を吐いていると、レイラのたんこぶの横にさっきまで無かったものがあるのに気が付いた。
「ん?それ‥‥角?」
レイラの頭に黒く螺曲がった角が生えている。さっきまでこんなのは無かったはず‥‥。
「あらっ?もしかしてさっきので少しカモフラージュが解けちゃったのかしら。ま、それならそれで~‥‥。」
パチンとレイラが指を鳴らすと黒い霧がレイラの体からシュワシュワと音を立てて排出され、レイラの体がどんどん変貌を遂げていく。
「‥‥ッ!!その姿、あなたまさか魔人なのっ!?」
頭に生えた角、そして背中から飛び出たコウモリのような大きな羽、さらには先端がハートを逆さまにしたような形の尻尾。
こういう特徴的な体をしているのは魔人以外いない。
「ご名答~♪正解よアリシアちゃんっ♪」
そして魔人と、レイラというワードが私の頭で繋がり、ようやくどこでレイラという名前を聞いたのか思い出した。
「レイラ‥‥レイラ、思い出した。先代の魔王の名前と一緒‥‥。た、ただのぐ、偶然に決まって‥‥」
ただの偶然と思考を振り払おうとするが、レイラがそれを許さない。
「偶然‥‥ね。そう偶然元魔王が人間の街で喫茶店を営んでいても、偶然なんだからいいわよね?」
レイラが私の耳元でそう囁くと同時に私の目の前にレイラのステータス画面が表示される。何かの魔法でステータスにはモザイクがかかっているが職業の欄だけはしっかりと見えるようになっていた。
そしてそこには第5代魔王と確かに書かれていた。
それでは来週のこの時間にお会いしましょ~




