第29話
お久しぶりの作者です。
武器屋の扉をゆっくりと開けると‥‥。
「おう、らっしゃい‥‥って嬢ちゃん達か。あの剣は役立ってるか?」
「お陰さまでね。昨日ワーウルフ相手にミラが無双してたわ。」
「ガッハッハ!!あの剣で素早いワーウルフを相手に無双か、とんでもねぇな。」
とても気分が良さそうに笑う店主は、いよいよ私が手を繋いでいたエルに気が付いたようで、今日なぜ訪れたか察しがついたらしい。
「はっはぁ~?なるほど、今度はそっちの嬢ちゃんの武器を見繕えってか?」
「そういうことね。お願いできるかしら?」
「おうとも、任せときな。んで、使いてぇ武器とか‥‥ちょっと触ったことがある武器はあんのか?」
「全く無し。」
「なるほどな、そういうことなら‥‥ちょっと待ってな。」
店主は一人店の奥に消え、少しすると剣や、斧、更には弓等様々な武器を抱えて戻ってきた。
「ま、なんも触ったことがねぇってんなら一回全部触ってみりゃいい。ここにあんのは全部失敗作だからな、ぶっ壊しても構いやしねぇ。」
「それじゃエル?早速好きなの触ってみて?」
「あ、う、うん!!」
恐る恐るといった感じで一つ一つの武器を手に持ち店主に使い方を教わりながら感触を確かめていくエル。
この分だともう少し時間がかかりそうね。少し店の中の品揃えでも見ながら時間を潰そうかしら‥‥。そう思い軽く店内を歩き回ろうとした時、エルが声をあげた。
「こ、これっ!!これがいい!!」
「んあ!?か、鉤爪か‥‥。そいつは扱い辛ぇぞ?」
困る店主とはしゃぐエルのもとに歩みより、エルに声をかける。
「良いの見つけたわね。確かにそれならエルに合ってると思うわ。」
「うん!!これなら僕使えるよ。」
エルが自信満々な理由はわかる。だいたいにしてこの武器、獣人との相性が抜群だからね。
「ま、マジで言ってんのか?」
「まぁ、ホントか嘘かは自分の目で確かめた方が早いと思うわよ。」
そして今度はしっかりと刃のついた鉤爪を装備し、エルは店の裏にある空き地で木偶人形と向き合っていた。
「エル、今度は自分のやりたいようにやってみて。」
「うん!!」
エルに声をかけて傍観していると、遂にエルが動いた。地面を軽く蹴り木偶人形とすれ違い殘間に鉤爪を一閃‥‥そして速度を保ちつつ更に加速して切り返し更に一閃‥‥そうして何度目かの切り返しを皮切りに私でもエルの姿を捉えられないほどのスピードに到達した。
「は、速すぎて何も見えねぇ‥‥」
「でしょうね、私ですら動きが見えないもの。」
さっきナジルと戦った時は私に言われた通りに動いたからあんなに不恰好だったけど‥‥いざ自分の意思でやらせてみるととんでもないわね。
そしてピタリ‥‥とエルが攻撃を止めると木偶人形がバラバラになって崩れ落ちる。
攻撃を終えたエルはこちらへと駆け寄ってきた。なにやら浮かない顔をしている。
「あ、あの‥アリシアお姉さん‥‥。」
「どうしたの?」
「これ、壊れちゃった。」
エルがはめていた鉤爪の刃はボロボロになり、挙げ句の果てには刀身にヒビが入ってしまっていた。
どうやらただの鉄ではエルの攻撃に耐えられないらしい。そうなるとやっぱり魔鉄を使ったやつじゃないと無理そうね。
「ねぇ、魔鉄を使った鉤爪ってある?」
「あるぜ?ちょっと値は張るが‥‥」
「それでもいいわ。幸い懐には少し余裕あるの。」
すぐに壊れるような武器よりも長く使えるやつのほうがいい。頻繁に交換してると手にもなじまないし‥‥
「わかった。今持ってくるぜ。」
壊れた鉤爪を抱えて店主は再び店の方へと戻っていった。
「よかったわねエル?合う武器が見つかって」
「う、うん!!で、でも僕の体‥ホントにどうなっちゃったのかな?さっきも凄い速く動けたし‥‥凄い力も強くなってる気がするし‥‥」
自分の体の変化を疑問に思っている様子のエルを見て、私の耳元でミラが囁いた。
「お姉様、そろそろ教えてあげてもいいんじゃないですか?」
「そうね、ちょうど店主もいないし‥‥。エル、ちょっとおいで?」
「‥‥?」
エルは首をかしげながらもこちらにとことこと歩み寄ってきた。私は少し腰を落としてエルと同じ目線で話し始めた。
「エル、ステータス確認してみて?」
「え?す、ステータス?う、うん‥わかった。」
そしてエルはステータスオープンと唱え、自身ののステータスを確認し固まった。
「あ、あ‥‥お、お姉さんっ!!ぼ、僕のステータスおかしくなっちゃった!!」
エルは急いでステータス画面を私に共有してくる。
名前 エル
年齢 10
種族 獣人族
性別 女
職業 無し
level 99/99
HP 15000
MP 1000
ATK 24000
DEF 12000
MDEF 6000
AGI 30000
スキル
加速 02/10
五感強化 02/10
狩猟術 03/10
うんうん‥‥ばっちり耳掻きの効果が出てるわね。まぁ、さっきのエルの動きを見ててわかってはいたけど‥‥
おろおろとするエルの頭にポンと手を置き、私は説明する。
「エル?これは壊れたんじゃないの、間違いなく今のあなたのステータスよ。」
「え、で、でも僕なにもしてないよ!?修行もしてないし‥‥」
「まぁ、私の話を最後まで聞きなさい?昨日耳掻きしてあげたの覚えてるわね?」
「うん‥」
「私のスキルの効果はね、耳掻きをしてあげた人のレベルを99に引き上げちゃうの。だからエルのステータスは何も間違ってないわ。」
確かにエルのステータスか間違っていないことを説明していると、エルの瞳にうるうると涙が溜まりポタポタと地面にこぼれ落ち始めた。
「うっ‥‥ふぐっ‥‥ぼ、僕」
「泣かないの、エルはもう強くなったんだから。前を向かなきゃ、ね?」
「う、う゛ん゛っ!!」
ぐしぐしと目の縁にたまったそれを拭い、エルは少し赤くなった目で真っ直ぐに私の目を見てくる。
「それでいいの。それにエル、ステータスとレベルだけ上がってもまだまだスキルのレベルは上がってないから、そっちも頑張らないとね?」
「えへ‥‥うん!!頑張るよ!!」
にっこりと笑顔になったエルの頭を撫でていると、ようやく店主が戻ってきた。
「おう、すまねぇな。だいぶ奥にしまってあって探すのに一苦労だったぜ。」
「ありがと、で‥‥いくらかしら?」
「ホントは金貨20枚って言いてぇところだが、何せ使い手が少ねぇからな‥‥まけて金貨10枚でどうよ?」
「買ったわ。早速エルの腕に合わせてくれる?」
「任しとけ!!」
そして店主はエルの腕に合うように鉤爪の調節を始めた。
まだまだ時間はあるし‥‥少し近場の依頼を受けてもいいかもしれないわね。
それではまた来週‥この時間にお会いしましょ~




