声が聞こえたので
声が聞こえた気がして目が覚めた。
窓から外を見れば、まだ太陽も出ておらずもう一度眠ろうかと考えた時、今度ははっきりと声が聞こえた。
『こっちや!』
急に近くで聞こえた気がして、体が反射的に浮き上がり目が覚めた。あたりを見渡すが誰もいない、いつもの僕の部屋だった。
僕はマールロ王国のマールロ城で働いている。
両親が王城にもともと勤めていて、父が料理長で母がメイドをしており、僕はまだ12歳だが両親の手伝いをして給金を頂いている。
僕はこんな時間に不気味だなと思いながら、誰かに呼ばれたのかとドアを開け暗い廊下を見渡した。
『こっちや!』
誰もいないと思った瞬間に声が聞こえ体がまた勝手に跳ねる。
「誰ですか?」
恐る恐る聞いてみた。
『後で説明するわ!取り敢えず右を向いてこっちに来てくれ』
暗い廊下の奥を見て恐怖心が込み上がって来たが、同時に小さな好奇心が湧くのを感じた。
言われるがままに進むと、そこは書庫の扉だった。
マールロ王は優しく、知識は一番の力だと城内の使用人達にも自由に使えるように解放されている。
僕も仕事の合間や休日を頂いた時に何度かここに来たことがあった。
『ここやここ!』
僕は扉を開け中を覗くと目を疑った。
「本が浮いてる...」
一冊の本が薄く光り、宙に浮いていた。
淡い光に見惚れ部屋に入り無意識に本の方に近づくと本の方もゆっくりと近づいて来た。
『この本に触ってみて!』
本の光が少し強くなった。
「火傷とかしない?」
僕はそう聞きながら本に触った。
『大丈夫や』
すると眩しいほどの光が本から溢れた。
『何があっても俺が守ったる』
あまりの眩しさに目を閉じた僕は急な浮遊感に包まれた。