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鰯の群れまたは人生について

作者: アサガオ成長日記
掲載日:2018/12/22

水族館の鰯の水槽の前には、私一人しかいませんでした。

鰯はぐるぐると時計回りに群れをなして回っていました。


「冷蔵庫の上のリンスとシャンプーのボトルを誰かに見られるような生活はもうしたくないの」

「そんなものを覗きにくるような人っているの?」

「覗くんじゃなくって、そこにあるから、ただ見るの」

「家の中まで入ってくるってこと?」

「わざわざ入ってくるわけじゃなくて、ただ眼に付くだけ」

「変わった生活をしていたんだね」

「普通だよ」


挿絵(By みてみん)


「僕の友達に、あぶらが止まらなくなった女の子がいるんだ」

「意味がよく分からない」

「あぶらとり紙をひっきりなしに使うんだ。一日中パタパタ、パタパタ」

「顔のあぶらが異常に出るってこと?」

「さぁ、よく分からないけど。とにかくチェーンスモーカーのようにあぶらとり紙を使うんだ」

「それは何かの教訓?」

「そういうわけではないよ」

「女の子はなんて言ってたの?」

「ただ、あぶらを取り続けてただけ」


私は鰯の群れをじっと見つめていました。

鰯の群れは止まることなく、ぐるぐると時計回りに群れをなして回っています。


「私、右を向いて眠れないの」

「どうして?」

「そういう決まりなの」

「いろんなルールがあるんだね」

「そうだね」

「うたた寝をするときは?」

「右は向けないの」

「厳しいルールなんだね」

「そんなことないよ。ただ、右を向けないだけなの」

「辛くないの?」

「そういう決まりだから」


水の中に、美しい太陽の光が入ってくるのを、水の中から見つめるのが私は好きです。

全身が光に包み込まれて、地上がゆらゆらと見えます。

太陽の光のない、水族館の鰯の群れは、何も見ることなく、ぐるぐると時計回りに群れをなして回っています。


となりに歩いている人は足の悪い人でした。

その人は、下を向いて歩いていました。

きっと、何かに躓くと危ないから。

本当は前を向いて歩いた方が、うまく歩けるはずなのです。

でも、足元を見ていた方が安心出来るのでしょう。

私は合わせるように、ゆっくり歩きました。


挿絵(By みてみん)


鰯の群れは、ぐるぐると時計回りに、延々と止まることなく回り続けています。


私は毎日たくさん歩きました。

歩けないときは歩かない。

歩けるときだけ歩く。

私には分かります。

私は毎日休みませんでした。


大丈夫ですかって聞かれました。

今は大丈夫です。

もう一度大丈夫ですかって聞かれました。

たぶん、大丈夫です。

もう一度大丈夫ですかって聞かれました。

きっと、大丈夫です。


たぶん、大丈夫じゃないときは、自分からダメですって言うと思います。


挿絵(By みてみん)


水族館の鰯の水槽の前には、私一人しかいません。

鰯の群れは、泳ぎ続けています。

歩けなくなった私は、歩くことをやめました。

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