02話 長老の仕掛けた罠
俺ははセシスと共に、魔王の国東方面の草原エタトス草原に来ていた。
と言うのも、人間達からの相次ぐ無知脳魔物の被害についての苦情が多かったため、仕方なくその魔物の長老がいると言われている草原にいていた。
知能がないのに長老がいる。なんとも不思議ではあるが、如何せん力の持つものが上に立つというのが魔物の世界でのルール。故に知能はなくともその本能の元、長老が作られたのだろう。草原にポツリと小さい小屋があった。
「セシス。 あの小屋だよな?」
セシスに尋ねる。俺よりも長く生きてきたセシスの方が当然土地勘はある。
その点に関して言えば、俺よりもセシスの方が勝っているのだろう。その点に関してだけど。
「はい、そうです。 あそこの小屋は約三百年前に無知脳の魔物が作ったらしいです。」
「無知脳の魔物でも物作りって出来るんだな。」
知能のない魔物とはいえ、本能はある。当然住処を作ると言うのも本能であり為、知能はなくとも作れるのだろう。俺は少々あいつ等のことを馬鹿にしすぎたのかもしれない。
そもそも魔物はこの世界において上位と下位に分類される。上位である魔物は群れを成すことはなく一人で行動をする。まぁ、魔王という最強生物の元いやいや共同を強いられるのだが。まぁ話を戻して下位の魔物。此方は群れで行動し、その知能は遥かに低い。
よって、上位魔物からは軽蔑されている。とはいってもあいつらに言葉は理解できないし、特に帰してはいないと思うが。
「じゃあ入るぞ」
セシスと共に小屋に近づき扉を二回ノックする。すると中から骨の頭蓋骨に手足を其のまま生やした気持ち悪いやつが出てくる。こいつとじゃまともな会話など不可能だろと見た目で判断するが一応言葉を投げかける。
「お前が長老か。 下位の魔物たちが人間を襲っているようでな。 ちと其れを止めて貰えませんでしょうかね?」
少々威圧的に言ったが、どうせ言葉は通じないし大丈夫だろうと思う。
目の前の長老は何も言わずただじっと此方を見つめてくる。顔が骨なので表情までは分からないが、何か怒っているような雰囲気がする。しかし、下位の魔物だ言葉が通じるわけがなi「おい、俺を馬鹿にしたよな?」
「へ?」
思わず変な声が出る。何?お前ら喋れたの?
てか言葉を理解してるって事は今はだいぶ不味い状況ではない。
目の前の長老の怒りは爆発する。
「お前らは俺達にひどい事を散々やってきた。 だから俺が長老になって人間の国を襲ったのさ。そしたら魔王は必ず俺のところへ来る。 俺達の真の狙い其れは魔王の世代交代だ! 俺達は此個々が弱くても群れを成せばお前なんか倒せるぜ!」
長老が言い終えると、俺達の後ろから目測五万もの下位魔物たちが終結する。
流石にこれは予想外だったため驚いた。しかも、今まで馬鹿にしてきた魔物たちの罠に嵌められたのが凄く恥ずかしい。しかし、此方には隣にセシス居るのだ。いくら初代とはいえ魔王は魔王。その強さは途轍もないほど大きい。俺は隣にいるセシスに助けを求めようと目を横にやる。が、しかしセシスの姿は其処にはなかった。
あのやろう! 逃げやがった。
セシスが魔王になれた理由の一つに独特の転移魔法がある。
彼女の転移魔法は通常と違って、思い浮かべるだけで転移可能であり、また通常のものより精度が凄くいいのだ。この草原に来たのだって彼女の転移魔法である。
俺は五万もの魔物を目の前にして先ず考えたのがセシスの転移魔法で逃げる事だったので今の俺の気持ちは急降下している。五万も相手にするとなると凄く面倒だし時間がかかる。俺は一つ話術で解決する策を取った。
「おい、長老! お前は部下達を失いたくはないだろう?」
不敵な笑みを浮かべ長老に威圧をかける。
実際全員倒そうと思えば倒せるのだが、俺はできるだけ争いごとがしたくない。
そんなんで魔王勤めて良いのかとも思うが、別になりたくてなったわけではないし。
目の前の長老がどのような表情を浮かべているのか分からなかったが、次に発した長老の言葉でこいつらの運命が決まった。
「ざれ事を申すな! お前ごときわし等ならばネジ伏せられるワイ」
長老が「全員いけ!」と言ったのと共に俺の後ろにいた魔物たちが一斉に攻撃を開始する。俺はすぐさま目の前に即席の結界を作り敵からの攻撃を防除する。相手の強さにもよるが、下位の魔物の攻撃であればどれ程の数がいようが破壊される事はない。
俺は目の前に展開した結界を全身を覆うようする。さらにその結界に反射のスキルを付与させ敵からの攻撃を全て跳ね返すようにした。
やはり、知能のない魔物だったのか。敵の魔物は自らの攻撃が跳ね返っているのにも関わらず永遠と攻撃を続ける。
数時間後、俺はただじっとしていただけにも関わらず、五万といた魔物たちは全滅したのだ。ふと後ろにいた長老が気になり振り替えると俺の結界で反射した流れ弾が当たったのか、帰らぬ人と化していた。魔物なので人ではないが。
俺は一件落着し、この草原にも用事がなくなったので、魔物の国まで跳んで帰った。
国の城に戻り、魔王室と書かれた部屋に入る。すると其処には優雅に飲み物を飲むセシスがいたのだ。
「お前さっきは良くもやってくれたな?」
俺を見捨てたセシスへの怒りが爆発する。先ほどの戦いもセシスが俺を連れて帰っていたら、やつらの目的は魔王の世代交代だから国へ攻め入る。俺の部下達が奴らを倒すって感じで楽できていたのだ。
「私は魔王様がきっと倒してくれるだろうと思っただけよ?」
セシスは言いもってウィンクをする。
何が魔王様だよ。セシスは俺が魔王に就任した当時からずっと名前呼びであり、こいつから魔王様と言われるときは大体碌な目に遭っているときである。
しかし、幾ら怒ったからとはいえ、絶対に口にしてはならない禁句がある。
婆。
俺が其れを口にしたのは初めてセシスに怒ったときだった。その時も悪いのはあちら側なのに、逆切れを起こし転移魔法で壁の中に転移させられた。あれが普通の人間だったら瞬殺だろう。俺は死にこそしなかったが、今でもあの出来事はトラウマであり、思い出しただけで悪感が走る。同時に俺は一生涯あのワードは口にしないと誓ったのだ。
「はいはいそうかよ」
俺だって学習したのだ。幾ら怒りを覚えても適当に受け流しておくのが安泰なのだと。
俺は奥の方に配置してある机の椅子に座り報告書を書く。
何はともあれ、長老は死んだのだから、魔物たちも人間の町を襲う事はもうないだろう。
なので今は人間達へ、今日の出来事と解決したと言う事実を記した紙を送らなければならない。なんと面倒な作業ではあるが、仕方が無いと割り切る。
今日は魔物たちの暴走もあってか、普段より早く書く事が出来た。
俺が書き終えたのをみたセシスが声をかけてくる。
「其方の報告書は誰に任せますか?」
報告書を魔王直々に届ける事はない。俺の楽して生きるという性格もあって、報告書を持って行かせるのは部下の中から適当に選んでいる。そもそも書くのも部下達に任せようとしたのだが其れは流石に駄目だとの反発が強かった。
「カルトス当たりはどうだ?」
「カルトスですか?」
「あぁ。 あいつなら能力もあるし早く届けてくれるだろう?」
「では彼に伝えてきます」
カルトスとは初代魔王の一人で、見た目は中年のおっさんみたいな顔をしている。
見た目から、魔王だとは当然思えないのだが、彼の能力は凄まじいほど強力だ。
彼は自分の身体能力を二十倍に上げる事ができる。しかも能力使用中は二十台前半ぐらいのイケメンへと変貌するのだ。
まぁ顔の話は置いておいて、カルトスならば能力を使えば人間の国まで一瞬だろう。
俺の氏名を聞いたセシアはカルトスへと伝えるべく、報告書を手に部屋を出て行った。
「暇だなぁ・・・」
魔王はなんだかんだ言って一番暇なのだ。魔王の仕事は報告書以外に他国との契約の取り決めや交流。責任重大な役目では有るが、責任重大であるがためにそんな頻繁に契約や交流などしないのである。何時もは椅子に座ってただじっとしているだけ。外に出たいのだが、たまに部下からの近況報告があるため、無闇に動けないのだ。
やる事も特にこれと言ってないので俺は机に頭を置き仮眠を取った。
『ねぇ?』
周りには様々な種類の花が咲いた草原が広がっている。
その中心には白いワンピースをきて頭に花の冠を載せた少女。
お前は誰だ? 少女に俺は問いかける。
『貴方は私の事を忘れたの?』
そう聞いてくるが、俺の記憶に彼女の事など一切残っていない。
俺はこの少女と会ったことなど一度もないはずだ。
『其のうち分かるよ?』
少女は笑いながら答える。すると、少女の体が発光し、やがて目の前を全て覆う。
俺はまぶしさの余り目を瞑った。
「・・・・す! ティス!」
「んあ?」
誰かに名前を呼ばれ意識が徐々に覚醒する。目の前にはセシスが立っていた。
どうやら、カルトスへの報告は無事済ませたらしい・
「そういえばなんですけど」
「何だ?」
「報告書の伝達ならば私が転移した方が早かったのでは?」
は! と気付かされる。セシスは俺の反応を見て大爆笑だ。
俺は顔を赤らめつつ、いつか絶対仕返ししてやるからなと心の中で静かに決意するのであった。
今回は意外と長く書きました。