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「城まで拡張して――」

「――ひとつのダンジョンにする?」


 困惑した面持ちでリィンの言葉を繰り返す、エリシャとアントニオ。

 ポポンも同じような表情で、リィンに問う。


「そんなこと、できるの?」

「簡単さ。城と洞窟の間をトンネルでつなげばいい」

「それだけ?たったそれだけで一つのダンジョンになるの?」

「きちんとした通路でつながれば問題ない。急にデカくすると別の問題も出てくるんだが……この洞窟とあの城の規模なら大丈夫だろう」

「あの、リィン様」


 エリシャが手を挙げる。


「お城もダンジョンになるのですよね?それって、危険はないのですか?クリーチャーが城の人間を襲ったりしませんか?」

「クリーチャーっていっても、あのスライムだけだろう?」

「でもお城もダンジョンになるのなら、城内に他のクリーチャーが生まれたりするのでは……」

「それを決めるのは迷宮運営者(ダンジョンマスター)。つまりエリシャ、お前次第だ。お前が望まなければ、クリーチャーが勝手に発生したりはしない」

「そう、なのですか」


 自分の迷宮運営者(ダンジョンマスター)という立場の重さを感じてか、エリシャはキュッと口を結んだ。

 今度はアントニオが口を開く。


「城までは結構な距離がある。トンネルでつなぐとなると、大仕事だぞ。何日かかることか……」

「穴掘りはこっちに任せてくれていい。伊達に¨ダンジョン工務店¨なんて名乗ってないからな」


(嫌な予感……)

 ポポンが訝しげにリィンを見るが、彼はその視線に気づかず話を続ける。


「さて、問題は城のどこにつなげるかだが……地下室とかないか?広間なんかの厚い床をぶち抜くより楽でいいんだが」

「あります!城の中心の――」

「ゴホン!」


 エリシャの話を遮るように、アントニオが咳払いした。


「姫様。城の中心部の構造は機密情報でございます」


 エリシャはハッと両手で口を覆った。

 リィンが面倒そうに後頭部を掻く。


「おっさん、まだ俺達を信用できないか?」

「いや、信用はしている。気に入らんがな」


 リィンは「気に入らない」と言われたわりに、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「だが機密情報の公開は、国王様であっても一存ではできぬのだ」

「しかし、目的地がわからないとダンジョンとつなげられんぞ?」

「……そうだな。ううむ」


 揃って腕組みするリィンとアントニオに対して、ポポンが手を挙げた。


「じゃあ、こういうのはどう?私達は洞窟から掘り進めて、地下室からはアントニオさん達が掘るの。で、互いのトンネルがぶつかって完成!ってわけ。どう?名案でしょ?」

「ううむ、そう上手くぶつかるか?」


 腕組みしたまま唸るアントニオ。


「あれ、駄目だった?どうかな、リィン?」


 リィンもまた、腕組みしながらブツブツと呟いている。


「どう考えても行き違いに……いや、あいつらなら?……いける、か」


 リィンは独り言を止め、一つ頷いた。


「よし、それでいこう。細かいコースはこちらで修正するから、おっさんと……騎士達になるのか?あんたらはだいたいこのダンジョンの方向に掘ってくれればいい」

「……それで本当に大丈夫なのか?」


 疑わしげに見るアントニオに、リィンが大きく頷く。


「ああ、任せてくれ」

「そうか。……しっかりやれよ?適当な仕事をしてたら、我ら騎士だけでトンネルを完成させてしまうぞ?」


 リィンがクックッと笑う。


「冗談はやめてくれ。計算上は九割九分、俺達が掘ることになる」

「なんだと?我らは鍛え上げた騎士だぞ?」

「こっちは専門家だ」


 アントニオが胸を反らせて笑う。


「フハハ!痩せっぽちの小僧と小さなお嬢さんではないか!」

「そこまで言うなら賭けてみるか?トンネルがぶつかったときに多く掘り進めていたほうの勝ち。そっちが勝ったら報酬はゼロでいい。しかし、こっちが勝ったら相場の二倍の報酬をもらう」

「穴掘り勝負というわけか。面白い!」

「……どうだ、エリシャ?」


 リィンが問いかけると、エリシャは小さく頷いた。


「いいでしょう。私は騎士達を信じています。お受けいたします」

「もったいなきお言葉!姫様、アントニオはやりますぞ!うおおおっ!」


 やる気を漲らせたアントニオが、洞窟の入り口へと走る。


「お待ちなさい、アントニオ!走ってはスライムが……アントニオ!」


 エリシャもアントニオを追いかけていった。

 二人の背中が見えなくなったとき、ポポンがリィンの手の甲をギュッとつねった。


「いてっ!なんだよ」

「リィンったら、またアントニオさんを煽るようなこと言って!」

「なんだ、自信ないのか?」

「ふん、わかってるよ!どうせ私一人に掘らせる気でしょっ!」

「いや、お前一人じゃない」

「へっ?リィンも掘るの?」


 リィンは答える代わりに、腰のポケットから筆とインク壺を取り出した。


「これを使う」

「なあに、それ?また魔道具(マジックアイテム)?」

「そうだ」

「いろいろ持ってるんだねえ」

「仕事道具だからな。このインクでこうして……円を……描く」


 リィンは筆先にインクをつけて、洞窟の壁にドアくらいの大きさの楕円を描いた。


「で、どうするの?」

「しばし待つ」


 ポポンがリィンの言葉通り待っていると、楕円の内側だけが変色を始めた。

 モザイク模様のように様々な色が現れては消え、また現れる。

 やがてモザイクの色が緑系統の色彩に統一されていき、モザイク自体も小さくなる。

 そうして変色が治まったとき、楕円の内側は美しい森を映していた。


「これは〈次元ダコの墨壺〉。同じ壺の墨を使って円を二つ描くと、円同士がつながるんだ」

「つながる?」


 楕円を眺めながら首を傾げるポポン。


「とりあえず、入ってみろ」

「えっ、入るって……壁に?」

「はい、行ってらっしゃーい」

「わわ!リィン!?」


 リィンに背中を押されたポポンは、楕円の中に吸い込まれるように消えた。

 十秒ほど経ってから、楕円からポポンの顔だけニュッと出てきた。


「リィン!も、森!森だったよ!えっ、洞窟なのに、森!?」

「俺達の住むユグドラシル樹海だ」

「えっ!?」


 ポポンの頭が引っ込み、すぐにまた出てきた。


「ほんとだ!世界樹あった!」

「あらかじめ、世界樹のそばに円を描いてあるんだ。ダンジョンに大きな物を持ち込んだりするときに使う魔道具(マジックアイテム)なんだよ」

「へえ~、便利だねえ」

「わかったら、もう一度行ってこい」

「ん?何を持ってくればいいの?」

「連れて来るんだよ、お前の大事なあいつらを」

「あー、そっか!そういうことね!」


 ポポンは一つ手を打ち、再び楕円形の森の中に消えていった。

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