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「で、あるからして、訓練といえども実戦に挑む覚悟で臨まねばならない!今、こうしてる間にも……」


 アントニオの熱のこもった言葉に、騎士達が神妙な面持ちで聞き入っている。

 この日は兵士達を含めた合同訓練の予定であったらしく、洞窟の外に兵士が集まっていたのもそのためだった。

 アントニオは椅子に座るエリシャの横で、訓練の心構えを滔々(とうとう)と語っている。

 それをつまらなそうに眺めていたリィンに、ポポンがすり寄って耳打ちした。


「リィンもいいとこあるじゃん」

「あん?なにがだ?」

「エリシャ様の話に同情して引き受けたことだよ。私、あのまま帰っちゃうかと思った」

「同情なんかしてないぞ」

「またまたー。謙遜しちゃって、このこのっ」


 肘でつっつくポポンを迷惑そうに横目で見つつ、リィンが言った。


「引き受けたのは、『ダンジョンから出せ』って依頼が『城へ戻せ』に変わったからだ」

「……んん?同じことでしょ?」

「いいや。まったく違う」


 そのとき、騎士達が一斉に洞窟の入り口へと移動を始めた。

 アントニオの話が終わったようだ。


「お待たせしました。リィン様、ポポン様」


 エリシャの言葉に、二人は彼女の元へと向かう。

 この洞窟内の部屋に残ったのは、リィン、ポポン、エリシャ、アントニオの四人。

 アントニオが、先程の熱弁の勢いそのままに語りだす。


「考えたのだが、運営者が迷宮を出られないならば運営者を辞めてしまえばよいのではないか?さすれば姫様が洞窟に囚われる理由はなくなるのだろう?」


 リィンが呆れ顔でアントニオを見る。


「それができれば出られないなんて言うかよ。頼むからさ、その首の上に乗ってる物をもちっと使って喋ってくれるか?」

「なんだと!」

「やめなさい、アントニオ」

「リィンも。いちいちつっかからないの!」

「はっ」「へえへえ」


 ポポンがパチンと両手のひらを打って話題を戻す。


「さあ、そんなことよりエリシャ様のこと!リィン、引き受けたからには何か考えがあるんだよね?」

「まあな」

「本当ですか!?それはどのようなお考えなのです!?」

「待て待て」


 飛びつく勢いのエリシャをなだめ、リィンは彼女の座る椅子の後ろを指差した。


「この洞窟、そっちに続きがあるんだろ?」

「続き?」


 ポポンは小さな体を目一杯伸ばし、椅子の後ろを覗く。


「あっ、あった!」


 エリシャの座る豪華な椅子に隠れるように、屈まねば通れないほどの小さな通路が続いていた。


「この部屋で行き止まりじゃなかったんだね」

「ああ。奥にはクリーチャーなんかもいるはずだ」

「なぜそれを……」


 驚きを隠せないエリシャに、リィンが言った。


「とにかく、洞窟をすべて見せてくれ。話はそれからだ」

「……わかりました。アントニオ、先導を頼みます」

「はっ!お任せを!」


 アントニオはそう返事するや否や、腰を曲げて通路へと入った。

 その後に椅子から腰を上げたエリシャが続き、次にリィン、最後にポポンが通路へ入る。

 腰を曲げつつの前進はすぐに終わり、今までと同じ高さの天井に戻った。洞窟は相変わらずの一本道で、蛇行しながら続いている。


「なんだか最終試練!って感じしないね。クリーチャーとかもっとバンバン出るのかと思っちゃった」


 ポポンの漏らした感想に、エリシャが苦笑しつつ振り返った。


「試練を受けるのは若く健康な青年ですので、あまり危険でも困るのです。……とはいえ簡単すぎても何のための試練かわからなくなりますし」

「そっか。試練を受けさせる側も大変なんだね」

「ええ、それなりに。……あっ、リィンさん!そこに――」

虎ばさみ(ベアトラップ)な。わかってる」


 リィンはひょいと地面を跨ぎ、続くポポンがわかるよう罠の位置を指差した。

 事も無げに罠を見抜いた様を見て、エリシャの顔に驚きの色が浮かぶ。そしてその表情はすぐに満足げな笑みに変わった。

 二人の様子を最後尾で見ていたポポンは、面白くなさそうにリィンに言った。


「リィンは代行印があるから楽勝よねー。罠が丸見えだもん」

「あん?ここの代行印は貰ってねーだろ」

「あれ?そういうものなの?」

「当たり前だ。代行印とはそのダンジョンの鍵のようなもの。迷宮運営者(ダンジョンマスター)からもらった代行印はそのダンジョン限定だ」

「へええ。なのに罠が判別できるんだ?」

「そりゃどんなダンジョンでも最初の一回は自力で潜るからな。……だいたい、ここの罠はクオリティが低すぎるんだよ。下手に隠そうとして悪目立ちしてやがる。典型的な素人仕事だな」


 リィンの台詞を聞いて、先頭のアントニオが勢いよく振り返った。


「無駄話ばかりするな!黙ってついて来んか!!」


 怒鳴るその顔は、耳まで真っ赤だった。


「すまんすまん」

「ごめんなさーい」

「すいません、アントニオ」

「いっ、いやいやいや!姫様にまで怒鳴ったわけではなく!」


 アントニオの怒りようを見て、ポポンは悟った。

(あー、あの罠を仕掛けたのはアントニオさんなのか)

 続いてリィンの顔を覗きこむと、余計なことを口走ったはずの彼の顔にはなぜか満面の笑みが浮かんでいる。

 そしてポポンの視線に気づくと、パチリとウィンクした。

(アントニオさんの仕事だって察してて、わざと口悪く言ったってこと?リィンってば、性格悪い!)

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