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 ヒッポグリフから下りたリィンとポポンは、騎士に先導されて山道を歩いていた。

 その後ろを兵士達がぞろぞろと続く。

 騎士は中年の男性で、騎士団長アントニオと名乗った。

 二人を快く思っていないのか、彼は一言も言葉を発しない。ポポンが居心地の悪さに逃げ出したくなった頃。

 ようやくアントニオが足を止めた。

 そこは岩山の麓で、洞窟の入り口がぽっかりと口を開けている。


「お前達はここで待て」

「「ハッ!!」」


 兵士達を入り口に残し、洞窟へ踏み入る。

 相変わらず無言のアントニオの後ろで、ポポンがリィンに囁いた。


「ダンジョンっぽくないね。一本道だし」

「だな。ダンジョンだとしても、〈ラライ銀山第14号坑道跡〉よりずっと規模は小さいようだ」


 そのとき、アントニオが再び足を止めた。

 ポポンはおしゃべりを咎められるのかと身を固くしたが、アントニオは壁に身を寄せて道を空けた。


「ここだ。くれぐれも無礼のないように」


 二人が進むと、少し開けた空間に出た。

 直径十メートルくらいの円形の部屋。

 そこにアントニオと同じ格好の騎士達が十二人いた。

 騎士達は左右六人ずつに分かれて整然と並んでいて、その中央に洞窟に不釣り合いな豪華な椅子がある。

 その椅子には、これまた暗い洞窟に不釣り合いな若い女性が座していた。

 アントニオは椅子の横へ移動し、威厳のある声を響かせた。


「姫様の御前である。ひざまずけ」

「お姫様!?へへーっ!」


 ポポンは慌てふためき、土下座のような格好でひざまずいた。

 対してリィンは、渋々といった様子でひざまずく。

 豪奢な鎧姿に、脇にさした長剣。

 肩で切り揃えたブロンドの髪。

 椅子に腰かける女性は、およそ姫様らしくない出で立ちであった。

 ただひとつ、頭のティアラだけが彼女が王族であることを示していた。

 リィンとポポンを見て、姫の口がゆっくりと開く。


「私はエリシャ・リッターラ――」

「ああ、それはもういい。エリシャ、でいいか?」


 姫の名乗りに割って入ったリィンに、アントニオが顔を真っ赤にして怒鳴る。


「貴様!なんと無礼な!」

「控えなさい、アントニオ。それで結構ですわ、リィン様」

「助かる。……で、依頼ってのは?」

「お伝えした通りです。私をこの穴倉から出してほしいのです」

「見たとこ、すぐに出られそうだが?」

「それが、出られないのです」


 そう言って、エリシャは眉を寄せた。


「もしかして――」


 ポポンが騎士達を睨む。


「――あんた達が監禁してるってこと!?」

「ふっ、ふざけるな!」

「そんなわけがあるか!」


 口々に反論する騎士達にポポンが続けて問う。


「じゃあ、なんで出られないの?」


 途端に口を噤む騎士達。


「それは私がお話いたします」


 エリシャがすっくと立ち上がった。


「ここは試練の洞窟。我が国リッターラの騎士を目指す者達が、騎士になる最終試練を受ける由緒正しき場所です」


 リィンが入り口を振り返る。


「……はーん。兵士達を入り口で待たせたのは、立ち入りを許されていないからか」


 エリシャはこくんと頷き、話を続けた。


「あの日は半年に一度の最終試練の日でした。私は試練を突破した者を祝福するため、洞窟内に滞在しておりました。……そして試練も無事終わった後。どうしても洞窟から出られなくなったのです」

「あの……出られないって、具体的にどういうふうに?」


 ポポンの問いにアントニオが答える。


「姫様は出口に近づくと激しい頭痛に襲われるようになってしまわれたのだ。ならばと騎士達で運び出そうとしたのだが……全員、吹き飛ばされてしまった」

「……えっ?何に、吹き飛ばされたの?」

「姫様に、だ」

「騎士の皆さんが?」

「ああ」

「かよわいお姫様に?」

「ああ、そうだ!……信じられんだろうが、凄まじい怪力だった。重傷を負って療養中の騎士もいるほどだ」


 エリシャは怪我を負わせた騎士を思ってか、まぶたをギュッと閉じた。


「お姫様、すごく強いのね」

「まさか!……騎士達を従える者として最低限は鍛えていますけれど、ここにいる騎士一人にだって勝てはしません」

「でも、現に吹き飛ばしたんでしょ?」

「そのときのことはあまり覚えていないのです。騎士達に運ばれながら、入り口に近づくほど頭痛が激しくなりました。そして、耐えられないほどの痛みになったとき、頭に不気味な声が響いたのです。……それからのことは覚えていません」

「不思議な話ねえ。どう思う、リィン?」

「ふむ」


 リィンは答える代わりに懐を探り、〈風鳴りの貝殻〉を取り出した。


「エリシャ、これ持ってるか?」


 エリシャが不思議そうにリィンの手の中を見つめる。


「ええと、それは貝殻でしょうか?」

「これは遠くにいる人物と会話ができる魔道具(マジックアイテム)だ。これでなくても、これと似たような効果を持つものを所有していないか?」

「まさか!我が国に魔道具(マジックアイテム)を購入できる余裕などありませんわ」


 それを聞いたリィンはボソリと呟いた。


「決まりだな」


 ポポンは目を見開き、リィンを見る。


「リィン、それってどういう――」

「エリシャは迷宮運営者(ダンジョンマスター)だ」

「「迷宮運営者(ダンジョンマスター)!?」」


 騎士達に動揺が走る。

 エリシャも信じられないといった様子でリィンに尋ねた。


「あの、迷宮運営者(ダンジョンマスター)というのはクリーチャーがなるものなのでは……?」

「そう思い込んでる奴も多いようだが、人間の迷宮運営者もいる」

「私が……迷宮運営者……?」


 まだ信じられないエリシャに、リィンが確かめるように言う。


「頭に響いたという声。男のものとも女のものともいえない、奇妙な声色ではなかったか?」

「そういえば……そうだった気がします」

「声の言った内容は、『運営者、迷宮より出ること能わず』じゃなかったか?」

「っ!そうです!確かにそう言われました!」

「ならば間違いない。怪力にも説明がつく」


 その言葉にポポンが食いついた。


「運営者って怪力になるの?」

「というより、あらゆる力が増すんだ。ダンジョンに溜まったマナを自由に使えるからな」

「へえ~」


 納得するポポンとエリシャをよそに、騎士達の動揺は収まる気配がない。

 エリシャも不安げに騎士達を眺めていたが、意を決してリィンに問うた。


「リィン様。私をここから出していただけますか?」

「それは無理だ」

「では、方法を教えていただくだけでも……」

「そうじゃない。迷宮運営者(ダンジョンマスター)はダンジョンから出られないんだ」


 ~ダンジョンの(ルール)

 迷宮運営者(ダンジョンマスター)はダンジョンから出ることができない。


「そ、そんな」


 あっさりと望みを断たれ、エリシャは顔を覆った。


「麗しき姫様が……この穴倉から出られない、だと?」


 アントニオは青筋を浮かべてリィンを睨む。

 騎士達の間にも不穏な気配が広がっていく。


「悪いが俺達には何もしてやれない。……帰るぞ」

「う、うん」


 ポポンがリィンの後ろをビクビクしながらついて行く。

 そのとき、アントニオが騎士達に目配せした。反応した騎士がリィンの行く手を遮る。


「アントニオ、何を!?」


 驚くエリシャにアントニオが告げる。


「姫様の窮状を隣国ドーラエへ漏らすやもしれませぬ。いや、元々密偵である可能性も」


 リィンは苛立った様子で、後頭部を掻きむしった。


「……ったく。これだから騎士だ貴族だ王族だ、って連中は嫌いなんだよ」

「大人しくすれば危害は加えぬ。拘束するだけだ」

「黙れ。俺は行きたい時に行きたい所へ行く」


 リィンはそう吐き捨てると、道を塞ぐ大柄な騎士に近寄った。

 靴の先が触れ合うほど近くまで行き、騎士を下から睨みつける。


「どけ」

「通れると?」


 大柄な騎士が嘲笑を浮かべた、その瞬間。

 騎士の両足が宙を舞った。

 その場の誰もが目で追えない早業で、騎士は気づけばリィンに組み伏せられていた。

 リィンの膝の下で必死に足掻くが、腕を絡め捕られていて身動きが取れない。


「貴様!」「抵抗するか!」


 騎士達が次々に剣に手をかける。


「まっ、まずいよリィン」


 慌てふためくポポンの手に、リィンが短剣を握らせた。


「それを使え」

「できないよ!」

「大丈夫だ。お前の剛腕なら鎧ごと貫ける」

「そうじゃなくて!人を殺めたりなんてできないって言ってるのっ!」

「殺せとは言ってない。自分の身だけ守れ」

「ううっ……」


 そんなやり取りをしている間にも、騎士達はにじり寄ってきていた。

 躊躇していたポポンも覚悟を決め、短剣を握りしめたとき。


「控えなさい」


 凛とした、それでいて威厳あふれる声が洞窟に響く。

 エリシャの言葉はアントニオの命令を上書きし、騎士達は即座にその場でひざまずいた。


「……アントニオ。あなたは私を信じていないのですか?」

「何をおっしゃいますか、姫様!このアントニオの命、姫様が王代行の任につかれたときより、お預けしておりますれば!」

「ならばなぜ、お二人を捕らえよなどと言うのです。私自らお招きしたお客様を」

「それは……でしゃばったまねをいたしました。どうか、お許しを……」

「許すかどうかはお二人がお決めになることです。……リィン様。私どもの御無礼、お許しいただけますか?」


 リィンは短く答えた。


「道を空けてくれれば、な」


 エリシャが手のひらをすうっと横に動かすと、騎士達が壁際に移動した。

 リィンは腕の絡めていた大柄な騎士を放り投げ、洞窟の入り口へと歩き出す。

 ポポンは彼に駆け寄り、耳打ちした。


「リィン、ほんとにいいの?」

「ああ」


 ポポンはリィンについて行きながら、振り向いてエリシャを見た。

 エリシャはポポンの瞳を見て、意を決して叫んだ。


「リィン様、お聞きください!」


 リィンは足を止める様子はない。

 だがエリシャは構わずに言葉を続けた。


「わが父、リッターラ王は老齢です。もう満足に歩くことさえかないません。そしてその後を継げるのは私だけなのです。隣国ドーラエとはいつ戦になっても不思議ではない状態。そんなときに城を空け続けるわけにはいかないのです!」


 エリシャはリィンの後を追いかける。


「リィン様と初めてお話ししたとき、私は言いましたね?あなた様なら、私をこの苦難から救ってくださると直感したのです!私を城へ戻してくださると!どうか、どうかお聞き届けください!」


 リィンの足がピタリと止まる。

 そして顔だけで振り返り、エリシャに問いかけた。


「城、でいいのか?」

「えっ?」

「城にさえ戻れればいいのか?」

「ええ!城にさえ戻れれば!」


 リィンはニヤリと笑った。


「いいだろう、引き受けた。ただし、ここからはお代をもらうぞ?」


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