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 ――マナ。

 それは生命の根源。

 生物はマナをその体に取り入れ、それを活力として生きている。すべての生物はマナの恩恵なしには生きられないのだ。

 マナは地中深くに存在する地脈(マナライン)と呼ばれる河を流れ、世界中に運ばれる。

 生物は地脈(マナライン)から地上に滲み出たマナを吸収して力を()、生物に消費されて力を失ったマナは再び地脈(マナライン)へと帰っていく。

 役目を終えたマナは、流れ流れて世界の中心たる世界樹の根元に至る。

 世界樹は力を失ったマナをその幹に吸い上げ、再び活力に満ちたマナとして世界へ送り出す。

 つまり、地脈(マナライン)を世界に張り巡らされた血管とするならば、世界樹は心臓の役割を果たしているのだ。

 このマナの循環によって生物の営みは成り立っているわけだが、これを妨げる存在がある。

 それは、ダンジョンである。

 ダンジョンは地脈(マナライン)の流れをせき止め、そこにマナを蓄える性質を持つ。ダンジョンは、血管にできた瘤のような存在なのだ。


「――で、あまりにため込まれると困ったことになる。まず、ダンジョンに溜まった分、他の生物の取り分が減る」

「あー、そっか」

「そしてもう一つ。容量(キャパ)を超えてため込むと、ダンジョンは破裂してしまう。周辺の地脈(マナライン)を巻き込んで、な」

「わわ、恐いね」

「そこで工務店の出番だ。運営者から報酬としてマナを受け取り世界樹に返すことで、安定したマナの供給を支えてるってわけさ」


 世界樹の太枝の上、小屋の前のバルコニー。

 リィンは洗濯物を干しながら、ポポンに工務店の役割を教えていた。


「なるほどー。私達の仕事って世界の役に立ってるんだね」

「ま、そう言えるだろうな」

「ふむふむ」


 しきりに頷くポポン。

 妙に素直な彼女を、リィンが不審そうに見つめる。

 ポポンはペンでメモ帳に何やら書き込み、大事そうに懐にしまった。


「とっても勉強になったよ!ありがとう、リィン!」

「ああ」

「また教えてね!」

「はあ……あのな」


 リィンは深く長いため息をつき、それから洗い立てのシャツをパンッ!とはたいた。


「お前、このこと(・・・・)誤魔化そうとしてるだろ」

「ギク」

「素直に教わるふりしても、俺は忘れてやらないからな?ヒッポの鞍なんて二度洗っても臭いがとれねえんだから」

「うう、もう許してよぅ」


 そのとき、リィンのズボンのポケットが細かく震えた。

 リィンは舌打ちし、ポケットから〈風鳴りの貝殻〉を取り出す。

 対してポポンは、小言が終わりホッと胸を撫で下ろした。


「こちらダンジョン工務店。……出られない?それはうちではいかんとも……はあ。そう言われましても……。はあ、ふむ……。わかりました、とりあえず伺います。場所は……ええ、だいたいわかります。では、お名前を……すいません、もう一度お願いします。……エリシャ・リッターラ・ベルエトラン・ベルエトラス・マリオン様。えー、あなた様個人のお名前はマリオン様で?……あ、エリシャ様。そうですね、三時間くらいかと。……では、後ほど」


 リィンが〈風鳴りの貝殻〉をコツンと叩いたのを見て、すかさずポポンが尋ねる。


「お仕事?」

「わからん。どうも言ってることが要領を得なくてな。運営者かどうかも判然としない」

「えっ?その貝殻って運営者以外からもお話が来るの?」

「そりゃ、相手が同じ魔道具(マジックアイテム)を持ってればな」

「あ、そっか」

「とりあえず行ってみる。新たな顧客を掴むチャンスかもしれない」

「わかった!用意するね!」


 ポポンが小屋に走るのを確かめ、リィンは空に向かって指笛を吹いた。


  ◇       ◇       ◇


 三時間後。

 二人を乗せたヒッポグリフは、山奥を飛行していた。


「今回は酔わなかったみたいだな」


 嫌味っぽく言うリィンに、ポポンはあっけらかんと答えた。


「ん、慣れたみたい」

「……慣れるの早くないか?」


 リィンは首を傾げつつ、地上を見下ろした。

 岩山が連なる中に窪地があり、そこに家屋が肩を寄せ合うように密集している。その中心部には小さいながらもしっかりとした造りの城が建っていた。周囲の岩山を城壁とした、城塞都市のような佇まいの小国だった。


「この辺りだと思うが」

「あのお城じゃないの?名前からして高貴な身分、って感じだし」

「それはそうなんだが……ダンジョンから出られないって話だからな。ダンジョンの中にいるんじゃないか?」

「お城がダンジョンってことは?」

「あれは違うな。ダンジョンの気配がない」

「そうなんだ?……あっ、あそこ!人が集まってる!」

「あれか。よし、行くぞ」


 言うが早いか、リィンは手綱を下へ引っ張った。


「うん!……って、うきゃあああ!!」


 ポポンの悲鳴を撒き散らしながら、ヒッポグリフは急降下していった。



「うええ。酷いよ、リィン……」

「すまん。慣れたって言ったから」


 集まっていたのは武器を持った兵士たちだった。

 ヒッポグリフが着陸すると、二人は下馬する間もなく兵士達に囲まれてしまった。


「歓迎されてないね……」

「そりゃ見ればわかる」


 突きつけられた槍の穂先を指でつまみ、リィンは息を吸い込んだ。


「ダンジョン工務店のリィンだ!エリシャ・リッターラ・ベルエトラン・ベルエトラス・マリオン様のご用命で参った!エリシャ様はおられるか!」


 途端に兵士達の顔に迷いが生じた。

 互いに顔を見合わせたり、どうするべきか相談したりしている。

 判断できる責任者がいないようで、かといって囲みも解ける気配はない。


「どうする、リィン?」

「待つ」


 ざわつく兵士に囲まれたまま、待つことしばし。

 囲みの後方から、彼らの上役らしき人物がやって来た。

 全身を鎧で固めていて、いかにも騎士といった格好だ。


「姫様がお会いになられる。ついて参られよ」

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