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 なんとかポポン(常識人)を説得したリィンは、双子に聞いた場所へとヒッポグリフを駆った。


「あれか」


 件の岩山はすぐに見つかった。

 全周囲に地平線を望める大平原にあって、山自体が珍しかったからだ。

 リィンはヒッポグリフで並走するポポンに手信号を送った。

 彼女は一つ頷き、二頭のヒッポグリフは岩山の麓へと下りていった。


 ◇       ◇       ◇


「あったな」

「あったねえ」


 リィンとポポンが存在を確認し合っているのは、岩山のことではない。

 ダンジョンのことだ。

 岩山とその周辺をくまなく探す覚悟であった二人だが、地面に下り立つとダンジョンらしきものがすぐ目の前にあったのだ。

 岩山の(すそ)の一部が(ひさし)のように突き出ていて、(ひさし)と地面との間に洞窟が口を開けている。

 洞窟は深く、奥は見えない。


「いかにも、だねえ」


 洞窟の奥を覗くポポンと、その後ろで首を傾げるリィン。


「おかしい。こんなわかりやすいの、ホークマンが見つけられないわけがないんだが。やはり何か理由が……」

「あのね、リィン」

「……山は飛ばないってんだろ?わかってるよ」


 二人はヒッポグリフを上空へ退避させ、洞窟へと踏み入った。

 中は入り口付近こそ広かったが、すぐに円筒状の通路に形を変えた。

 通路は真っ直ぐに続き、床や壁の表面はぼこぼことしている。


「うーむ」


 一本道をしばらく歩き、リィンが唸った。


「なーんか妙だな」

「妙って?」

「んー、上手く言えない。感覚的な話だ」

「それじゃ私だってわからないよ」

「……もう少し進もう」

「ん」


 そして、更に歩くことしばし。

 通路が緩やかに湾曲していること以外、何も変化がない。

 ただただ、一本道が続く。

 クリーチャーもいなければ、罠もない。


「……やはり、おかしい」


 そう言ってリィンは立ち止まり、踵を返した。


「戻ろう。嫌な予感がする」

「えー!結構歩いたのにぃ」


 何かに不安を抱くリィンと、グチりながら彼について歩くポポン。

 同じだけ時間をかけ、来た道を引き返したのだが。


「……あれ?行き止まり?」


 ポポンは石壁を目の前にして、呆然と立ちつくした。


「一本道だった、よね?あれぇ?」


 リィンが顎を擦り、呟く。


侵入者捕獲(ミミック)型ダンジョンだったのか?いや、それにしては……」


 リィンは荷物から折りたたみ式のつるはしを取り出した。


「ここ掘れ、ポポン」

「わんわん!……って、迷宮運営者(ダンジョンマスター)さんに断りもなく掘っていいの?」

「このままじゃ出れねえだろ?やむなし、だよ」

「そっか。……よーし!」


 ポポンは腕まくりして、石壁に相対した。


「ふんっ!」


 勢い良く振り下ろされたつるはしは、ギィン!と硬質な音を響かせる。


「おお?硬い岩盤だな。それなら……」


 ポポンは数歩下がり、つるはしを肩に担いだ。そして――。


「とおりゃあああ!」


 助走をつけての渾身の一撃。

 ガギィィン!!と耳をつんざく音と共に、石壁の破片が周囲に飛び散った。

 ポポンはつるはしを抜き、穴を覗く。


「んー、まだ外は見えないね」

「だな。続けてくれ」

「人遣い荒くない?」


 ポポンは頬を膨らませながらも、再び距離を取る。そして石壁のほうを振り向き、ふと気づいた。


「……なんか、揺れてる?」

「揺れてる、な」


 リィンが床に手のひらを置き、通路の奥に目を凝らす。


「何かが近づいてきているとか、そういうわけではなさそうだ」

「じゃあ地震?」

「うむ――くっ!?」


 揺れは治まるどころか激しさを増し、リィンとポポンは堪らず屈み込んだ。


「くそ、落盤でもしたら洒落にならないぞ!」

「もう、そういうレベルじゃ――うわあぁぁっ!!」


 縦に、横に、凄まじい揺れ。

 二人は宙に投げ出され、床や壁、天井にまで叩きつけられる。


「何よこれー!」

「喋るな!舌噛むぞ!」


 身体を丸め、二人はひたすら耐えた。

 そして永遠にも感じる、数分間が過ぎる。


「治まっ、た?」


 ポポンが頭を守っていた両手を下げ、恐る恐る周囲を見回す。

 リィンは再び床に手を置き、首を横に振った。


「……いや、まだわずかに揺れてる。安定はしているようだが」


 ポポンは立ち上がり、両腕を広げた。


「なんか、たまにふわふわする」

「だな」


 リィンも立ち上がり、石壁を見つめた。


「一旦脱出したいが、無理っぽいな」

「もう一度、掘ってみる?」

「ダメだ。揺れはダンジョンに傷をつけた直後に起きた。あれが揺れのトリガーになったと考えるべきだ」

「……ここがダンジョンって断定しちゃうんだね」

「そりゃそうだろう。一本道が戻ってきたら塞がってて、おまけに異常な揺れ。ダンジョンじゃなかったら逆に驚くよ」

「そうだねぇ。じゃ、これからどうする?」

「それはこれから考えるが……その前に俺の仮説を聞いてくれるか?」

「ん?……いいけど」


 リィンは床に腰を下ろし、ポポンにも座るよう手で促した。ポポンは首を傾げながら、彼の対面に座る。


「まず、ここはダンジョンである」

「うん」

「ホークマンが再三探したのに、見つけられなかったダンジョンだ」

「そうね」

「情報源の双子によれば、“飛び山”と言われている」

「……うん?」

「そして、大きな揺れと、今も続く小さな揺れ。時折くる、ふわっとする感覚」

「まさか……」

「ホークマンが見つけられなかったこととも辻褄が合う。探しているときに、そこに無ければ見つけようがない」

「待って、ちょっと待って」

「ポポン――」

「いやっ」

「このダンジョン――」

「やめてっ!」

「――飛んでねーか?」

「あああっ!!」


 四つん這いに崩れ落ちるポポン。

 ポポン(常識人)の固定観念が打ち砕かれた瞬間だった。


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