表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/51

47

「らっしゃい、らっしゃーい!ダン工特製スペシャルポーションだよー!」


 かわいらしい声を張り上げるポポン。

 兎のように耳の長い部族が、それに気づいて声をかけてきた。


「姉ちゃんがあの(・・)リィンか?」

「いえ、私は売り子のポポンです!リィンはこのポーションを作った同僚です!」

「やはりこれがリィンポーションか……一つくれ」

「はい!まいどありー!」


 小瓶と金を交換し、耳の長い部族の背中にお辞儀するポポン。

 すると入れ替わりに顔中に紋様の入った部族が二人、カウンターへやって来た。

 二人は顔が瓜二つの若い双子だった。

 双子の一人が問う。


「なあ、お嬢ちゃん。これがほんとにあの(・・)ダンジョン工務店スペシャルポーションか?」

「ええ!そうですよ?」


 ポポンが朗らかに答えると、


「ほら、見ろ」「いや、まだ信じられない」「じゃどうすんだよ」


 と、双子の間で揉めだした。

 もう一方の双子がポポンに問う。


「姉ちゃん、確かめさせてくれや」

「確かめる?」

「臭い嗅がせてくれればいい」

「構いませんが……臭いですよ?」


 双子は「いいからよこせ」と揃って手招きした。

 ポポンは小瓶のフタを回し開け、二人に差し出す。


「……くん」「……すん」


 双子がポーションの臭いを嗅ぐ。

 すると、二人は同時に膝から崩れ落ちた。


「ヴォェッ!!」「ゲェェ……」

「ほらー。だから臭いんですって」


 ポポンが顔をしかめつつ、小瓶のフタを閉める。

 四つん這いになった双子が、互いの土気色の顔を見て頷き合う。


「一瞬、意識が飛ぶほどの悪臭……」

「ヘドロのような色……」

「間違いねえ、伝説のポーションだ」

「これでジッ様も元気になるんだな?」

「そのはずだ」


 そして四つん這いのまま、互いの肩を叩きあった。

 しかし、双子の一方がハッ!と目を見開いた。


「どうした?」

「ショック死しねえか?」

「あ?」

「この臭いにジッ様は耐えられるか?」

「……わからねえ」


 四つん這いのまま、考え込む二人。

 ポポンは事の推移を見守っていたが、ふと双子の後ろに並んだ客に気づいた。


「あの、どうされます?後ろに次のお客様が並んでいるのですが……」


 双子は四つん這いのまま振り向き、


「先にいいぜ」「お先にどうぞ」


 と、四つん這いのまま場所を空けた。

 そこへ並んでいた客が歩み出る。

 獅子のたてがみのような毛髪をした、壮年の男性だ。


「わりぃな、兄ちゃん達。――姉ちゃん、ポーションいくつ残ってる?」

「えー、ちょうど二十本ですね」

「全部くれ」

「二十本全部ですか?」

「ああ、そうだ」

「はーい!まいどありー!」


 ポポンが満面の笑みでそう言うと、双子が勢いよく立ち上がった。


「おぉぉい!」「ちょっと待て!」

「はい?」

「全部売んじゃねーよ!」「俺達のぶんは!」

「えーと。ではご購入ということで?」

「ああ!」「買う!」


 ◇       ◇       ◇


「すいません、ポーション売り切れちゃいました!」

「まじかー」


 ポポンがもう何度目かわからない謝罪をして、頭を上げると。


「よ、お疲れ」


 荷物を抱えたリィンがカウンターの前に現れた。


「お帰り、リィン。見て!全部売れちゃった!」

「言ったろ、人気商品だって」


 そう言って、リィンは木箱をゆっくり地面に下ろした。

 ポポンが木箱を漁る。


「いっぱい買ったねぇ。何を買ったの?」

「食堂のおばさんに頼まれた香辛料と調味料。あとは住人達の嗜好品などなど」

「ふーん……あ、タバコ」

「それは俺のだ」

「へ?リィン、タバコ吸わないじゃん」

「それは風虫タバコ。仕事用のアイテムだ」

「へー、そうなんだ。……で、どうする?さっそくヒッポで例のダンジョン探しする?」

「いや、聞き込みからだ。場所がわからないからな」

「ん?地図に黄色の印をつけてた場所でしょ?」

「あれは大樹さまの感覚による、だいたいの場所だ。正確な地点というわけじゃない」

「そうなんだ……でも、ヒッポでくまなく探せば見つからないかな?」

「忘れたのか?再三、飛行可能なホークマンが探して見つかっていないんだぞ」

「あ……ってことは、空からじゃ見つからない場所にある?」

「あるいは視覚をごまかすトリックか……いずれにしても、見つからないのには何らかの理由があるはず。だがこの地に住む者なら、何か知っているかもしれない」

「なるほど……」


 リィンは周囲を歩く部族を見回し、頭をガシガシと掻いた。


「でも、この辺の部族ってよそ者を警戒するんだよな。どっかに口の軽い事情通はいねーかなあ」


 ポポンも同じように周囲を見回し、ふと目を留めた。


「あの双子、どうかな?」

「双子?」


 リィンがポポンの見つめる二人に目をやる。

 顔中に紋様の入った若い双子は、何やら言い争いをしている様子だ。


「知り合いか?」

「お客さん」

「ああ、うちのポーション持ってんな」

「事情通かは知らないけど、よく喋る人達だったよ」

「ふむ。……当たってみるか」


 リィンとポポンは双子の元へ歩いていった。

 やはり揉めているようで、二人はリィン達に気づかない。


「あのー、お客さん」


 ポポンが声をかけると、双子が同時に振り向いた。


「あんたは」「さっきの」

「ちょっと聞きたいことがあるんですけど……その前に何だか揉めてますね」

「ああ」「まあ、な」

「そのポーションが原因なら、よければ聞かせてください」


 双子は顔を見合わせ、それから交互に事情を話し始めた。


「このポーションを買ったのは祖父のためだ」

「祖父は重い病でな」

「医者も匙を投げた」

「だが医者は最後にこう言った」

「あとは伝説のポーション職人が作ったスペシャルポーション(地獄味)を飲ませるしかない、ってな」


 ポポンがリィンに囁く。

(味も悪いの?)

(あの臭いだぞ。美味いわけがないだろ)


「集落を出て、噂を辿り」

「やっと購入者を見つけた」

「噂は嘘じゃなかった」

「また噂を辿り、大市場(バザール)でたまに売り出されることを知った」

「そして今日、ようやく手に入れた」


 双子の説明が途切れ、ポポンが首を傾げる。


「うん?あとはそのお爺さんに飲ませてあげるだけじゃない?」


 すると双子が同時にポポンの肩をガッ!と掴んだ。


「ジッ様、死なないか?」

「えっ?」

「この臭いを嗅がせたせいで、俺達がジッ様にトドメ刺しちまうことはないか?」

「ああ、そういう……」


 ポポンは考えた。

 この年若い双子や、体力に自信のある自分でさえ、意識を飛ばされる激臭。

 さらに味も悪いという。

 高齢の、しかも重病人が耐えられるだろうか。


「わかんないな……リィン、どう思う?」


 すると双子は目を剥いてリィンを凝視した。


「リィンだって!?」「あの伝説のポーション職人の……?」

「ポーション職人に転職した覚えはないんだが」


 リィンは面倒くさそうに首筋を掻いた。


「ま、あらましはわかった。……飲ませていいぞ」

「しかし、ショック死する危険は!」

「そのリスクはある。だが、問題ない」

「何が問題ないんだ!」

「そのポーションの効能には『死にたての人間の蘇生』も含まれる」

「なにっ!?」「なんと!!」「はあ!?」


 双子に加えてポポンも驚愕する。

 すぐに小瓶を持ち上げ、三人は小瓶に書かれた細かい字に目を走らせる。


「「「……本当だ」」」

「ショック死しなければ問題なし。仮にショック死してもポーションが命を繋ぐからリスクなし。飲ませろ」

「わかった!」「恩に着る!」


 すぐにでも走り去ろうとする双子を、ポポンが引き止めた。


「悪いけど。その恩、すぐに返してくれるかな?」

「ぬ?」「もう金はないぞ?」

「情報が欲しいの。この辺りに住む人しか知らない情報が、さ」

「そんなことか」「どんな情報が欲しい?」

「この辺りにダンジョンがあるらしいんだけど、どこにあるか知らない?」

「ダンジョン?」「なんだそりゃ?」


 ポポンはしばしポカンと口を開け、それからリィンに言った。


「どうしよう!この人達、ダンジョン自体知らないよ!」

「そのようだな」


 リィンはポポンに代わり、質問を始めた。


「この辺りにあやしい場所はないか?」

「あやしい場所……」「と言われてもな……」


 揃って首を傾げる双子。


「そうだな。例えば……遠くからは見えないのに、近づくと存在がわかる場所。あるいは、普段は見えてるのに見えなくなることがある場所とか」

「ああ」「それなら」


 双子は互いを指差し合った。


「「飛び山だ!」」

「……飛び山?」


 リィンが聞き返すと、双子は交互に説明を始めた。


「岩山なんだがな」

「たまに消えるんだ」

「で、しばらくするとまた戻ってる」

飛び立つ(・・・・)ところを見たって奴もいる」

「ああ、いたな」


 リィンが再び問い返す。


「飛び立つって……山が、か?」

「「そうだ」」

「……これだな」


 リィンは一つ頷き、ポポンを見た。

 しかしポポンはフルフルと首を振った。


「なんだ、異論があるのか?」

「あのね、リィン」

「なんだ」

「山は飛ばないよ」


 真顔で言うポポンに、リィンは一歩後ずさった。


「い、いや、確かにそうだが。ダンジョンならあり得る――」

「ダンジョンも飛ばない。リィン聞いたことある?飛ぶダンジョン」

「いや、それは――」

「山やダンジョンがどんな理屈で飛ぶっていうの?」

「うっ」


 リィンはまた一歩後ずさり、それからふーっと息を吐いた。


「お前、なんでそんな常識的なこと言うんだよ」

「だって常識人だもん」

「なんだろう、すごくムカつく……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ