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 リィンとポポンは、朝のうちに目的地へと辿り着いた。

 廃坑道とも自然の洞窟ともつかない、半分崩れた横穴がある。


「ここか?」


 リィンは腰を屈め、奥を覗いている。

 ポポンが彼の背中に尋ねる。


「ダンジョンの気配は?」

「んん……あると言えばある。ないと言えばない」

「どっちだよ!」


 ポポンがリィンの背中に裏拳を見舞った。


「アグッ!?……いっってえな!ボケたんじゃねーよ、ツッコむな!」

「あ、そうなの?ごめんごめん」

「こんの馬鹿力め……」

「情報だとここなんだけど――ん!リィン、これ見て!」


 ポポンが両手で抱え上げたのは、朽ち果てた木製の看板だった。消えかけてはいるが、うっすらと『第三坑道』の文字が見える。


「ここだな。よし、十分後に突入だ」

「おー!……なんで十分後?」

「痛くて背中が伸ばせねえ」

「うう、ごめんリィン」


 十分後。

 暗く狭い坑道を時に屈み、時に這いつくばりながら二人は進む。


「うー、ハンマーが引っかかった」

「無理矢理通そうとするなよ。崩落するからな」

「わかってるよ。……よいしょっ」

「しかし狭いな。これじゃクリーチャーが出たら避けようがない」

「だねえ。『暗い』『狭い』『見えない』の三重苦だよ」

「……『暗い』と『見えない』が被ってないか?」

「相変わらず細かいねえ、リィンは」

「いや、これが真っ当なツッコミってもんで……おっ、少し開けたぞ」


 リィンは立ち上がり、思い切り背筋を伸ばす。


「あー、背中痛え」

「その件はもう謝ったでしょ!……ねえリィン、そろそろ明かりが欲しいよ」

「だな。よっ、と」


 リィンは小型のカンテラを取り出し、火打ち石を打った。ぼうっ、とカンテラの明かりが辺りを照らす。

 二メートルほどの高さの天井に、五メートル四方の部屋。リィンとポポンが通ってきた坑道の反対側に、木製の扉が見える。


「んん?まさか……」

「リィン、どしたの?」

「この感じ……あの扉の奥が中心部だと思う」

「ええっ?まだ入って一時間も経ってないよ?」

「予想以上に小さいダンジョンのようだな」


 リィンは扉の前まで歩いていき、そっと開いた。


「運営者さん、いらっしゃいますか?」


 リィンが部屋の中に呼びかけるが、反応はない。


「……入りますよ、っと」

「お邪魔しまーす」


 リィンがカンテラを掲げ、部屋に踏み込む。

 ポポンはリィンの背中に張り付いて、後に続く。

 リィンは部屋の中央まで進み、四方をカンテラで照らした。暗い壁があるだけで、何の気配もない。


「誰も――いないね」

「ああ」

「どうする?」

「確かに中心部だと思うんだが……」


 カンテラを挟んで二人が相談していたとき。

 突然、真上から男の子が降ってきた(・・・・・)


「うおっ!?」

「きゃあっ!!」


 リィンは仰け反り、ポポンは後ろに転ぶ。

 そんな二人を見て、男の子はおかしそうに笑った。


「ぷぷぷ。だいせいこー!」


 立ち上がって怒りを顕にするポポン。


「あ、あなたねえ!子供がなんでダンジョンうろついてるの!危ないでしょ!」

「やめろ、ポポン」

「やめない!この手のイタズラっ子は厳しく叱っておかなきゃ、命に関わることだってあるんだから!」

「もう死んでる」

「……えっ?」

「よく見ろ。彼はゴースト。迷宮運営者(ダンジョンマスター)だろう」


 ポポンは一歩後ろへ下がり、改めて男の子を観察した。

 男の子の体はカンテラの明かりなしでもはっきりと見え、そして背景が透けて見える。

 そして何より、わずかに浮いていた。


「そうだぞ。僕は迷宮運営者(ダンジョンマスター)だぞ!」


 男の子は両手を腰に当て、胸を張った。


「……こんなに弱そうな運営者、初めて見た」

「なんだとー!」


 男の子はポポンに突撃し、脛のあたりをポカポカと殴る。

 霊体ゆえにダメージはなく、ポポンはうっとおしそうに男の子を手で払う。だがそれも相手が霊体ゆえ、うまくいかない。

 ポポンは迷惑そうに眉を寄せながら、リィンに問うた。


「ねえ、リィン。この子ほんとに運営者?すっごく弱いんだけど」

「おそらくな。やたら元気だし、自分で運営者だと言ってるし」

「やたら元気って。そんな理由で断定できるの?」

「断定はできないが、ゴーストってのは基本的に陰気なもんだ」

「それはまあ、そうだけど」

「断定か。そうだな」


 リィンは未だポポンのすねを殴る男の子に、膝を曲げて話しかけた。


「運営者さん。あなたは迷宮運営者(ダンジョンマスター)ですから、他のゴーストとは比較にならない力をお持ちのはずです。俺達にその力を見せてもらえませんか?」

「ん〜……。いいよ!」


 男の子は殴る手を休め、ふわりと天井近くまで浮き上がった。そして目を閉じ、なにやらブツブツと独り言を言い始めた。

 ポポンは男の子を見上げ、リィンに言った。


「……ねえ、リィン」

「なんだ、ポポン?」

「あれ、魔法を使うときの呪文じゃないかな」

「ポポンもそう思うか」

「あのね、冒険者時代にリーダーがね」

「『テント横に食べ残しを捨てるな!』のリーダーか」

「そそ。彼によく言われてたんだけど」

「うん」

魔法使い(マジックキャスター)が呪文唱えてるときは、危ないから近づくなって」

「ほんと、良いリーダーだな。……ましてや運営者の魔法だ、いったい何が起こることか」


 リィンとポポンは顔を見合わせる。

 そして次の瞬間、二人は同時に叫んだ。


「逃げるぞ!」「退避ー!退避ー!」


 二人は一斉に扉へと走る。

 しかし、逃げ道を塞ぐように黒い霞が地面から湧き上がった。


「くっ!」


 リィンが急停止して、男の子を振り返る。

 男の子は浮いたまま笑みを浮かべている。

 その口元は動いていない。


「間に合わなかったか」

「なに、この黒いモヤモヤ!どんな魔法!?」

「知らねえよ!」


 二人が見守る中、黒い靄が揺れ始めた。

 靄の中で何かが蠢いているようだ。

 やがて靄が次第に晴れていき、中から姿を現したのは。


「スケルトン!?」

「……不死者召喚(サモンアンデッド)か」


 その数、十五体。

 揃ってゆっくり立ち上がり、リィンとポポンを見ている。

 男の子は二人の頭上を飛び越え、スケルトン達の上に止まった。


「すごいでしょ!僕にはこんなに家来がいるんだ!でも、ほんとにすごいのはこれからさ!」


 リィンが舌打ちする。


「チッ、戦闘になるな」


 ポポンがハンマーを構えてリィンの前に出た。


「スケルトンは再生する。私がハンマーで叩くよ!」

「頼む。俺も援護する」

「了解!」


 男の子はスケルトン達の前に降り、大きな声で言った。


「せいれーつ!」


 彼の指示に、スケルトンが横一列に並ぶ。それを確かめると、男の子は更に指示を飛ばす。


「集まれ!スケルトン合体!」


 リィンが青ざめる。


「スケルトン合体だと!?」

「リィン、あいつら何をする気なの!?」

「わからん、聞いたことがない!油断するな!」

「うん!」


 固唾を飲んで見守る二人の前で、スケルトンが一斉に動き出す。

 まず五体のスケルトンが、横に並んで四つん這いになる。更にその上に四体のスケルトンが四つん這いに並び、更に――。


「こ、これは」「リィン、これって……」


 二人の前に出来上がったもの。

 それは五段重ねのスケルトンピラミッドだった。


「どうだ!僕たちのスケルトン合体は!」


 男の子は褒めてくれと言わんばかりに、大きく胸を張った。


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