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「なんだありゃ?」


 リィンとポポンがウーゴファイナンスから出てくると、往来に人だかりができていた。


「またあの連中か」


 二人の後ろから、ウーゴが顔を出す。

 そして忌々しそうに、人だかりの中心を睨んだ。


「知ってんのか?」

「知ってるも何も、ここんとこ毎日だ。こんなの店の真ん前でやられるとたまったもんじゃねえ」


 ポポンが口元の布を鼻まで上げ、ウーゴに尋ねた。


「あれは何なのでござるか?」


 ウーゴは片眉を上げポポンを見、それから答えた。


「あれは聖女様だよ」

「せいじょ、さま?」


 ポポンが背伸びして人だかりを見る。

 人々の視線は一人の女性に集まっているようだ。女性はシルクのドレスを身にまとい、朗々と語る。


「神は私におっしゃいました。大いなる使命を果たせと。悪の権化、迷宮運営者(ダンジョンマスター)を倒すのです」


 特に熱心に聞いているのは冒険者達のようで、彼女の言葉に時おり頷いている。

 女性は肘を伸ばし、東の方角を指し示す。


「東の廃坑に、新たなダンジョンが産声を上げた。今はまだ小さいが、やがてガレンティンに災厄をもたらすでしょう。滅ぼすには今しかない、と神もおっしゃっています」


 聖女は悲痛な面持ちで、冒険者達を見回した。


「これが最後の呼びかけです。明朝、有志で構成したパーティで討伐へ出立します。無論、私も同行します」

「そんな、聖女様も!?」「危険です!」


 周囲の冒険者達から驚きと戸惑いの声が上がる。

 だが聖女は、それを片手で制した。


「どうして私だけが安全な場所におられましょうか。使命を果たすためには、当然のことです」

「ならば僕がお守りします!」「俺も行くぞ!」「私も!」


 今まで迷っていたらしい冒険者達も、参加の声を上げた。賛同の輪は広がっていき、拍手と聖女を称える声が往来に響き渡る。

 聖女は目の端を拭い、静かに笑った。


「……ありがとう。勇気ある冒険者たちに祝福を」

「聖女様ー!」「聖女様万歳!」


 呆気にとられていたリィンが、我に返ってウーゴに問う。


「もう一度聞くが……なんだありゃ?」


 ウーゴが嫌悪感も顕に言う。


「聖女ロザリンド。一週間前になるか、ああやって道の真ん中に立って人を集め始めたんだよ」

「たった一週間であの調子か?ずいぶんと冒険者どもに慕われているようだが」

「それには理由がある。最初の日にな、死んだ冒険者を衆目の前で生き返らせてみせたんだよ」

「生き返ら……は?んなこと不可能だろ?」


 するとポポンが口を挟んだ。


「リィン、復活屋を知らない?」

「復活屋?」

「ダンジョンで死んだ冒険者を復活させる商売のことだよ」

「どんな理屈で死んだ人間が生き返るんだよ」

「そんなの知らないよ!ただ、復活屋は存在するの。実際に生き返った冒険者も知ってるもん」

「そう、なのか?……ならあの人気にも合点がいくな。死んでも生き返らせてくれるってんなら、そりゃあ大人気だろう」

「んーん、復活屋ってたいていは嫌われてる」

「あん?なんでだ?」

「復活屋の料金って、すっっっごく高いの。さっき言った冒険者とか、生き返ったはいいけど一生借金暮らしになっちゃったもん。死にたくはないけど、世話になりたくもない。それが復活屋なの」

「へえ、なるほどな」


 ウーゴがゴホン、と咳払いをした。


「ところがな、あの聖女様はそうじゃないらしい」

「ん?どゆこと?」


 ポポンが問うと、ウーゴは親指と人差し指てゼロを形作った。


無料(タダ)。金銭は一切いただきません、だそうだ」


 ポポンは目を見開き、それから大声で言った。


「うっそだー!うさんくさい!」


 ウーゴも頷き、ポポンに問う。


「ポポンもそう思うか」

「うん!儀式をできるのはごく一部の限られた人だけだし、儀式に使う薬品とかとても高価だし。復活屋が高いのにも、一応理由があるんだよ。かといって好きにはなれないけど!」


 自分の知識をひけらかすように話すポポンに、ウーゴはジトッとした目を向けた。


「やっぱりお前、ポポンか」

「ハッ!しまった!」


 ポポンは口元の布を、無理矢理目元まで押し上げる。

 ウーゴはその様子を見て、呆れたようにため息をついた。


「まあいい。俺もポポンと同意見だ。タダだ無料だ、っていう話ほど胡散臭えものはねえ」


 リィンがククッと笑い声を漏らす。


「金貸しに胡散臭えなんて言われちゃ、聖女様も形なしだな」


 ウーゴも笑って言い返す。


「俺のほうが胡散臭いって?うるせえ、ほっとけや」

「悪い悪い。……さて、今度こそ行くとするよ」

「そうか。ナンバー2のこと、考えといてくれよ?」

「ああ、考えるだけならな」


 リィンはウーゴともう一度握手を交わし、その場を後にした。ポポンもペコリと頭を下げ、彼に続く。

 人だかりが消えた往来を歩きながら、リィンが口を開いた。


「……ポポン。冒険者時代に使ってた安宿はどの辺だ?」

「安宿って決めつけないでよ!……まあ、その通りだけど」


 リィンが目を細める。


「どこか、って聞いてんだ」

「ん、あの角を曲がって少し行ったとこ。なんでそんなこと聞くの?」

「用ができた。今日はここに泊まる」

「用?……聖女様のこと、気になるの?それとも復活屋のこと?」

「いや、気になるのは聖女様の喋った内容だ。新たなダンジョンが産声を上げた、ってやつ」

「あー。ほんとに新しいダンジョンできたのかな?」

「行ってみなきゃわからんが、本当なら俺が把握していないダンジョンだ。顔見せして営業をかけておきたい」

「そういうことね。りょうかーい」


 二人はポポン馴染みの〈蝙蝠のねぐら〉に宿をとった。

 そして宿の食堂兼酒場にたむろしていた冒険者達から情報を集める。

 ポポンの知人もいて、半日の内に多くの情報を得ることができた。



 そして、翌朝。

 まだ薄暗い中、宿で聞いた山道を歩く二人。

 先を行くポポンが、後ろのリィンに語りかける。


「リィン。……ありがとね」

「……ん?ああ」

「私のこと信頼してくれて、嬉しかった」

「……そうか」


 ポポンは後ろ手に手を組んだまま、ぴょんと振り返った。


「でも安心して!私、これからも工務店で頑張るから!」

「……?ああ、頼む」

「うん!借金がなくなって体まで軽くなった気がするよ!これまで以上に頑張る!そして、お金を貯めてドレスアーマーを買うんだ!」


 息巻くポポンを見て、リィンが首を傾げた。


「さっきから、何を言っているんだ?」

「何って……ほら、リィンが借金立て替えてくれたでしょ?」

「立て替えたな」

「そうすると、私が工務店に勤める理由がなくなるわけだよ。匿ってもらう必要がなくなったから。でも私は工務店に残って、これからも頑張るよー!って決意表明をしたわけ!」


 リィンはため息混じりに首を横に振った。


「それは違うぞ、ポポン」

「へっ?」

「俺は立て替えただけだ」

「うん?だからそう言って――」

「お前の借金はなくなってはいない。ウーゴに借りていた借金が、俺への借金に変わっただけだ」


 ポポンはくりくりした瞳を、まん丸に見開く。


「……え゛っ゛!?そ、そうなの!?」

「ああ」

「じゃあ私、借金ドワーフのまま?」

「完済するまでうちで働いてもらうぞ」


 ポポンはがっくりと膝をついた。


「そんなことって……でもウーゴに借りてるよりはマシ?……違う違う!リィンの取り立てヤバいって、火山で見たばっかりじゃん!」

「安心しろ。取り立てはしない」


 ポポンが希望に満ちた目で、リィンを見上げる。


「ほんと!?」

「給料から天引きだ」

「そんな……殺生なー!」


 悪魔の微笑みを浮かべるリィン。

 ポポン憧れのドレスアーマーが、リィンの後ろへ遠ざかっていった。


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