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 ――鉱山都市ガレンティン。

 鉄鉱石の産出により栄える都市である。

 街の起こりは鉱夫達の寄り合い所帯に過ぎなかったが、やがて製鉄を生業とする者達も移り住み、そのうちに武具などの鉄製品を作る職人も移ってきて都市と呼ぶべき規模にまで成長した。

 ダンジョン化した廃坑道がいくつもあり、そのため冒険者も多く住む。

 ちなみに、ポポンが冒険者時代に住んでいた都市でもある。


  ◇       ◇       ◇


 ガレンティンは灰色の街だった。

 石畳の通りを挟んで、石造りの家屋が建ち並ぶ。煙突から出る煙が、空までも灰色に染める。

 通りを行き交うのは、汗臭い鉱夫達や煤で顔を汚した職人達。

 そんな普通の街なら眉をひそめて見られるような人達が、眉をひそめて見つめる二人組がいた。

 一人はエルフの少年、リィン。

 そしてもう一人は――小柄な、覆面をした人物だった。

 長い布で顔をグルグル巻きにして、目元だけが外を覗いている。布の巻き目から赤毛がぴょんぴょんと飛び出していた。

 通りの人々の怪しむような視線は、この覆面の人物に集まっている。


「ポポン。いいかげん、それやめてくれないか。目立ってしょうがねえよ」


 リィンがそう言うと、覆面の人物は「シーッ!」と口元に指を当て、キョロキョロと辺りを見回した。


「……その名で呼ばないでって、街に入るときに言ったでしょ!」

「でもこれじゃ、まるでお尋ね者と歩いてるみたいじゃねーか」


 すると口元の布を押し下げ、ポポンは言った。


「私は、この街ではお尋ね者同然なの!」

「借金したくらいで大袈裟な……」

「いいえ!この首に賞金がかけられていてもおかしくない!」


 そう言って、ポポンは自分のうなじをペシペシと叩いた。


「さすがにそこまではやらんだろう?」

「やるの!あの悪名高い〈ウーゴファイナンス〉は、やるのよ!」


 リィンがジトッとポポンを見る。


「……なんでそんな悪名高いとこから借りた」

「それは、その。そこしか貸してくれなかったから」

「ったく。ほんとポポンって考えなしだよな」

「だからその名で呼ばないで!」

「面倒くせえな……じゃあどう呼べばいいんだ?」


 するとポポンは口元の布を上げ、覆面姿でハンマーを逆手に構えた。


「某は東方の隠密ソルジャー!穴掘ポポ之助と申す!」

「あなほり……ポポのすけ?」

「いかにも!」

「……ふざけてんのか?」

「ふざけてない!東方人ってこういう名前なんだよ!?冒険者時代に隠密ソルジャーと話したことあるもん!」

「へえ、そうなのか。しかし、ポポ之助なあ……」

「これでカンペキ!誰も私がポポンだなんて気づかないわ!」


 ところがそのとき。


「よう、ポポン!」


 大声でその名を呼ばれ、ポポンの体がビクン!と跳ねた。

 リィンが振り向くと、髪を短く刈り上げた冒険者風の青年がこちらへ歩いてくる。

 ポポンは目元まで隠れるほど布を押し上げ、青年に言った。


「どっ、どちら様ですかな?某は穴掘ポポ之――」

「その声、やっぱりポポンじゃないか。なんで覆面なんてしてんだ?」


 ポポンはふう、と諦めのため息をついた。


「……久しぶりね、ビル。なんで私だってわかったの?」

「そのはみ出た赤毛、その子供並みの身長。そのくせデカイ得物を軽々と持ってる」


 ビルは一つ一つポポンの特徴を指差していき、最後に笑って言った。


「どこからどう見てもポポンだろ?」


 リィンがポポンの肩を軽くつつき、それからビルを指差した。


「紹介してくれ」

「ん。彼は昔組んでた、冒険者のビル。――ビル、こっちは今組んでるリィン」

「よろしくな、リィン」

「こちらこそ、ビル」


 ビルの差し出した手を、リィンが握る。


「冒険者やめると言ってたが……リィンと組んで続けているのか?」


 ビルの問いにポポンは首を横に振った。


「んーん。リィンとは別の仕事で組んでるの。冒険者はきっぱりとやめたよ」

「そうか、寂しいな。……やっぱり借金の件か?」

「なんだ、知ってたの?」

「ずいぶん噂になってたからな。ドワーフがモール族を何人も買い占めたって。そんなことするのはポポンだって、すぐにピンときた」

「……そっか」

「他のことなら何でも力になるんだが……金のことはな」


 そう言って、ビルはガシガシと頭を掻いた。


「わかってる。冒険者は皆、お金ないもん」

「すまん」

「いいって」


 リィンが二人の年季の入ったやり取りをただ眺めていると、ビルがリィンのほうを向いた。彼の真剣な眼差しに応え、リィンも彼を見つめる。


「リィン。こいつは腕力こそ強いが、ずいぶん抜けてるとこがある」

「ああ、知ってる」

「……そうか。ならいい」


 ビルはリィンの肩を二度、叩いた。


「こいつを頼む」

「ああ。任せておけ」


 そう言って、リィンもビルの肩を二度叩く。

 ビルは満足げな笑みを浮かべ、ポポンに向き直った。


「また会おうぜ。しばらくはこっちにいるんだろ?」

「ごめん、約束できない。借金が片づかないと長居できないから」

「それもそうか。……だが、また会おうぜ。今日会えたんだから、きっとまた会える」

「相変わらず楽天家だね」

「それが取り柄さ。じゃあな!リィンも!またな!」

「またねー!」「またな」


 大きく手を振ったビルは、一度も振り返らずに人波に消えた。


「バレバレだったな、ポポ之助」

「うっさいなー、もう」

「いい奴だったな」

「……ん。最高の仲間だよ」


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