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こちらダンジョン工務店~迷宮のお悩み解決いたします~  作者: 朧丸
火山の中心で怒りを叫んだエルフ
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 リィンは再びマグマの河の前にきていた。

 先程までは何者も通さないとばかりに波打っていたマグマは、明らかにその量を減らしていた。


「よしよし。ちゃんと仕掛けのレバーを操作したみたいだな」


 なおもマグマの河は痩せ細っていき、やがて小さなマグマだまりが点在するだけとなる。そのマグマだまりも冷え固まり、濃灰色の岩となった。


「ポポンと合流するには……井戸(・・)だな」


 リィンはまだ熱を持つ岩を踏み越え、先を急いだ。

 緩やかな上り坂を越えると、その後は急な下り坂が続く。坂の突き当たりの扉を開くと、彼が井戸(・・)と呼ぶ場所にたどり着いた。

 そこは、円筒状の大きな部屋だった。

 床は半径二十メートルほどの円形で、天井は高すぎて見えない。それはまさしく、巨大な井戸(・・)のようであった。

 井戸(・・)の壁面には、螺旋階段が巻き付いていてる。

 リィンは円形の床の真ん中に立ち、螺旋階段を目で追った。その場で回転しながらポポンを捜すが、彼女の姿はない。


「まだ来てない、か。……んっ!?」


 リィンの視界の端に、赤いものがボトリと落ちてきた。赤く光るそれはマグマそのもので、でも何かが違う。

 リィンがそれに気をとられているうちに、ボトボトと同じものがいくつも落ちてきた。

 見上げると、それらが自ら蠢きながら螺旋階段から落ちてくるのが見えた。


「マグマゴーレムか」


 最初に落ちてきた赤いものが、グネグネと波打ち人の姿へと変わる。

 体表は赤く泡立ち、その大きさはリィンの背丈の倍以上。続いて落ちてきた赤いものも次々と人型へと変形し、リィンは瞬く間にマグマゴーレムに取り囲まれた形となった。

 最初に変形したマグマゴーレムが拳を振り上げ、リィンを襲う。


「……シッ!」


 リィンは体を低くしてそれをかわし、離れ際に剣を抜き打った。剣閃はマグマゴーレムの振り下ろした腕を捉え、切断された赤い腕はぼとりと落ちる。

 だが。


「……だよなあ。ゴーレムと言っても不定形クリーチャーに近いもんな」


 切断された腕は液状に戻ると、マグマゴーレムへと流れていった。マグマゴーレムの足元までくると本体に吸い上げられ、失った腕がボコン!と生えてきた。

 マグマゴーレムは腕をぐるりと回すと、再びリィンへと向かう。それを合図に、他のマグマゴーレムも一斉に襲いかかってきた。

 その数は十数体に及び、今もなお増え続けている。


「……クソ運営者め。ダンジョンじゅうのマグマゴーレムを集めやがったな?」


 いくら数が多くとも、緩慢な動きのマグマゴーレムが風の如く動くリィンを捕まえることは不可能に近かった。

 だが、その体が放つ熱気がリィンの体力をじりじりと削る。


「これがアクアゴーレムだったら、コアの位置が丸わかりなんだが、なっ!」


 リィンの放った剣閃がマグマゴーレムの頭を斬り飛ばす。だがそれもまた、すぐに元通りになってしまう。

 ゴーレム種はコアと呼ばれる最重要部位と、それ以外の部分で構成されている。コアさえ砕けば倒せるのだが、流体素材のゴーレムはコアの位置を移動させることが可能だった。

 リィンはマグマゴーレムの間を縫うように移動しながら攻撃しているが、完全に当てずっぽうで剣を振るうしかなかった。


「あー、クソッ」


 滝のように流れる汗を拭い、リィンはチラリと上に目をやった。

 何か使えるものはないか。

 螺旋階段を上手く利用できないか。

 いっそ、思い切って退くべきか。

 様々な考えがリィンの脳内で交錯する。

 そんな中で、望外のものが彼の目に飛び込んできた。


「……ポポン?」


 螺旋階段の、二つ目の踊り場。

 階段の陰から見える、ふわりとした赤い癖っ毛。


「ポポン、いいところに!」

「あ、リィン。ここにいたんだー」


 ポポンは冷めた態度でリィンを見下ろした。彼女の様子に、リィンが怪訝そうに言う。


「どうした、ポポン?……まさか、ウィルオウィスプの混乱スキルでも喰らったか?」

「べっつにー。いつもどおりだよー」


 そう言ってハンマーに腰掛け、明後日の方向を眺めている。


「いいから手伝え!お前のハンマーならコアごと潰せる!」


 リィンがマグマゴーレムの攻撃を避けながら叫ぶ。

 が、ポポンの反応は悪い。

 足元の小石を拾い上げては、どこかへほうり投げている。


「どーしよーかなー」

「はあ?」

「うーん。……やっぱ、やめとくー」

「なんでだよ!」

「ここ、落ちるには高いし」

「いや、何で落ちる。階段下りれば……」

「んーん。私って突き落とされるのがお似合いみたいだしー」

「……さては、さっき押したこと根に持ってんのか」

「リィン、押さないでって言ったのに私のこと押したしー」


 ポポンはそう言って癖っ毛を指に絡ませる。


「そんな細かいこと――」

「じゃ、行かなーい」

「その話は後でする!とにかく今は手伝え!」


 するとポポンは、ビシッとリィンを指差した。


「助けを求める人間の態度じゃない」

「ぐっ。……どうしろってんだ!」


 声を荒げるリィンに、ポポンは耳を小指でほじりながら言った。


「リィンは知ってる?誠意って言葉。リピートアフタミー、せーい。はい」

「……マグマへ突き落とすべきだったか」

「はい?聞こえませんよー、リィンさん?」


 リィンはグッと下唇を噛み、それから大声で叫んだ。


「俺が悪かった!もう崖から突き落としたりしないから!だから助けてください、ポポン様っ!」


 ポポンはにまっと笑った。


「しょうがないなあ」


 むくりと体を起こし、ハンマーを肩に担ぐ。

 そして勢いよく、踊り場を飛び下りた。


「とうりゃあ!ポポン流星撃!」


 勢いそのままに放たれた跳び蹴りが、マグマゴーレムの胴を捉える。


「グギッ!?」


 まともに喰らったマグマゴーレムは後ろ向きに倒れ、そのまま壁に衝突した。

(結局、階段使わず飛び下りるのか)

 リィンの心の中のツッコミなど露知らず。

 ポポンはハンマーをぶんぶんと振り回し、マグマゴーレム相手に啖呵を切った。


「さあ、このポポン様が相手よ!どこからでもかかってきなさい!……って、あれ?」


 マグマゴーレム達はポポンには目もくれず、相変わらずリィンを追い回していた。


「俺を狙うよう、命令されてるようだ、なっ!」


 スタミナを振り絞り、マグマゴーレムの攻撃をかわすリィン。


「んー、それはそれで好都合?リィン、私の前に一体ずつ持ってきて!」

「ッ!わかった!」


 意図を理解したリィンは、ポポンがハンマーを振り上げた場所へマグマゴーレムを一体だけ誘導した。

 ポポンの振り下ろすハンマーは、マグマゴーレムを頭から足まで一撃で叩き潰す。

 これまでであれば再生が始まるはずだが、ドロっと崩れたまま戻らない。

 そしてやがて冷えたマグマと同じく、濃灰色の岩となった。


「ようし!どんどん持ってきて!」

「任せろ!」


 リィンは追い回してくるマグマゴーレムを一体ずつ、ポポンの元へ誘い込む。

 後はポポンが一撃で葬り去るだけ。

 単純な作戦だが、みるみるうちにマグマゴーレムの数は減っていった。


「どうなることかと思ったが。これならいけるな」


 リィンが疲労の中で相棒の頼もしさを痛感していたとき。


『赤毛を狙え』


 突然、誰のものともつかない声が部屋中に響いた。


「何、今の声!?」

「あの野郎、こそこそ見てやがるな」

「もしかして……運営者!?」

「――よそ見するな、ポポン!」


 声に戸惑ったポポンはマグマゴーレム達から目を離し、リィンを見つめてしまった。

 自分に狙いが変わったことに気づいていないポポンを、マグマゴーレム達が取り囲む。そしてこれまで叩き潰された仲間の怨みを晴らすかのように、一斉にポポンにのしかかった。


「うわー!」

「ポポン!」


 ポポンの姿がマグマゴーレムの群れの下に消える。その上からも他のマグマゴーレムが積み重なり、マグマの小山ができ上がった。

 リィンは剣を構え、そのまま固まる。

(ポポンごと斬り刻むわけにはいかない。どうする?他に手は……)

 リィンが考えを巡らせていると、マグマゴーレム達の体が少し浮き上がった。

 それはまるで、マグマの中から大きなあぶく(・・・)が浮き上がってきて表面が膨張しているようだった。膨張は続き、やがてあぶくが弾ける直前のように膨らむ。

 そして――。


「うおー!爆!発!ポポン大噴火!」

「――は?嘘だろ!?」


 ポポンの雄叫びとともに、あぶくが弾けた。

 マグマゴーレム達の体は砕け、千切れ、飛散する。


「くっ……あちっ!」


 リィンはしゃがみ、体を小さくして飛んでくるマグマゴーレムの破片から身を守る。

 マグマの雨が止み、リィンが再び目を戻すと。そこにマグマの小山はなく、湯気立つポポンが仁王立ちしていた。


「あ、危なかったー!」

「……ポポン、何をした?」

「何って、あの中でハンマー振り回したんだよ。無理矢理振り回し続けた感じ?」

「それだけか?なんか大仰な技の名前を叫んでたが」

「技名は振り回しながら考えた」

「……そうか」

「いやー、久しぶりにピンチだったなあ」


 そう言って、ポポンは服についた破片を払う。


「……無事で何よりだ」


 リィンは、ポポンのことを心配するのはもう止めようと心に決めるのだった。



ポポン流星撃

ジャンプ中↓+キック


ポポン大噴火

↓ため↑+パンチ

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