表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらダンジョン工務店~迷宮のお悩み解決いたします~  作者: 朧丸
火山の中心で怒りを叫んだエルフ
31/51

31

「すごいね、それ」

「ん?何がだ?」

「その剣のことだよ。ぼれあす、だっけ?振っただけで、びゅうっ!って」

「ああ、これな」


 リィンは腰の剣に手を置いた。

 柄は色鮮やかな羽根で飾られ、鞘もまた見事な彫刻が施された逸品だった。

 リィンが親指で鍔を押し上げると、わずかに半透明の刀身が覗く。


「魔剣ボレアス。気性の荒い北風の神の力を宿した剣だ」


 ポポンは興奮して両手を握りしめた。


「神の力!?すごいっ!それって神話級アイテム(アーティファクト)ってことじゃない!」

「だな。ま、これはその贋作(パチもん)なんだが」

「……はっ?贋作(パチもん)?」

「前に古い文献を読んでたら、魔剣ボレアスが話に出てきてな。んで、大樹様に何の気なしに言ったんだよ。ああ、こんなの持ってたら荒事が起きたとき楽だろうなあ、って」

「うん」

「次の日の朝、起きたら枕元にこれがあった」

「ええ……子供へのプレゼントみたい」

「大樹様は自分じゃないとおっしゃってたが、たぶん作ってくださったんだ。そのとき徹夜明けみたいな疲れた顔されてたからな」


 ポポンは、目の下にクマを作ってとぼける大樹の乙女を思い浮かべた。


「大樹様、かわいい」

「俺はこれを〈ボレアスMkーⅡ〉と呼んでる。贋作(パチもん)ではあるが品質はポポンも見た通りだし、大樹様自ら作られた正真正銘神話級アイテム(アーティファクト)でもあるからな」

「いいなあ、私も欲しいなあ。……全てを叩き潰すデストロイハンマーとか!」

「……それ、本当に必要か?」


 二人は更に下へと進む。

 何度も階段を下り、薄暗い通路を歩き、火口に渡された頼りない吊り橋を渡る。


「うう。この吊り橋、大丈夫?」

「たぶんな」


 そこが平地であるかのようにスタスタと歩くリィン。ポポンは手すり代わりのロープに掴まり、必死に彼の後を追う。


「暑いね……ってか熱い。リィン、大丈夫?」

「……ああ」


 返事も億劫そうなリィン。

 動きこそいつも通りだが、明らかに顔色は悪かった。足元からの熱気に当てられ、あごからは大量の汗が滴り落ちている。

 ようやく吊り橋を渡りきり、再び薄暗い下り坂を進んでいく。すると、進むべき道の先が明るくなってきた。


「日の光じゃないね。赤い……篝火?」

「いや、これは……」


 更に光源のほうへ進むと、そこにはマグマの河が流れていた。熱気と、ぬらぬらとした赤い光が二人の行く手を遮る。


「チッ。やっぱりか」

「やっぱり、って?」

「俺が作ったマグマの仕掛けさ。運営者が仕掛けを弄ってマグマの流れを変えたんだ」

「通れない、よね?」

「厳しいな」

「森エルフ秘技!マグマ渡り!……とかないの?」

「ねーよ、そんなスキル」


 リィンは目を閉じ、こめかみに手を当てた。

 頭の中にある迷宮地図を呼び出し、とるべき選択肢を探す。


「……このダンジョンは、吊り橋のひとつ上の階層で二つのルートに分かれるんだ。このAルートとBルートはどちらも中心部へつながっているんだが、マグマがどちらかを塞ぐ仕掛けになってる」

「じゃあ、もう一方のルートは通れるんだね?」

「今は、な。俺達が引き返しているうちに、また仕掛けを弄るかもしれない」

「それじゃずっと通れないじゃん!」

「だな。だから俺達で仕掛けのレバーを動かす必要がある。こっちのタイミングでマグマの流れを変えるわけだ」

「仕掛けのレバーってどこにあるの?」

「一つは深層、一つはこの近くだ」

「近くなら、早速行こうよ!」

「ああ」


 二人は来た道を引き返し始めた。

 ほどなく火口の吊り橋の前にたどり着くと、リィンがピタリと足を止めた。


「どしたの、リィン?熱いけど、頑張ろうよ!」

「そうじゃない。ここだ」

「ここ?」

「正確には、この下だ」


 足踏みをして確かめるポポン。


「何もないけど?」

「そういう意味じゃない」


 リィンは吊り橋のつけ根から火口を指差した。

 ポポンが身を乗り出して覗きこむ。


「下ってそういうこと。……うわわ、おっかないなあ」


 火口からの熱気を直接顔に受けながら、ポポンは自分の真下、火口の壁面に視線をやった。

 吊り橋の真下には出っ張りがあり、そこからダンジョンへと続く洞穴が見える。


「あの洞穴?」

「そうだ」

「けっこう高さあるね……」

「そこから入った小部屋に仕掛けのレバーがある」

「そっかあ。……で、どうやってあそこに行くの?」


 するとリィンはポポンの肩をポン、と叩いた。そしてにこりと笑う。


「頼む」

「へっ?」

「ポポンに任せた」

「いやいや!リィンのほうが身軽じゃん!」

「俺、無理。そうやって覗きこむのも辛い」

「よくそんなんで、このダンジョンの模様替えできたね?」

「苦労したって言ったろ?じゃ、頼む」

「いやいやいや!軽く言わないでよ!私だって無理だよう!リィンみたいに跳び移ったりするの苦手だもん!」

「跳び移る必要はない。落ちろ」

「はああ!?」

「真下だからな。ジタバタしなきゃ大丈夫だ」


 そう言って、グッと親指を立てるリィン。


「落下の勢いで転がったら?マグマに落ちちゃうじゃん!」

「大の字にビターン!と落ちろ。世界樹から落ちたときもビターン!って落ちてたろ?」

「そっ、そのときはそのときよ!」

「万が一マグマに落ちても、穴ドワーフは火に強いから平気、平気」

「それにも限度があるからっ!」


 リィンはふうっとため息をつき、悲しそうな瞳でポポンを見た。


「……このダンジョンの入り口で、俺がポポンに『頼りにしてる』って言ったとき。ポポンは何て返した?」

「うっ」

「何て返しましたか?」

「敬語止めてよ!……まっかせといて、って」

「よし、任せた!」

「ぐむむ……性悪エルフめ……」

「じゃ、ほれ」

「ちょっ、背中押さないで!わかったから心の準備だけはさせて!」

「了解、了解」


 リィンは両手を挙げ、ポポンから一歩離れた。

 ポポンは再び火口を覗きこみ、出っ張りを凝視した。


「まっすぐ落ちれば平気。まっすぐ落ちれば大丈夫。……うう、高いなあ。恐いなあ」

「……」


 ブツブツと独り言を言うポポンの背中を、リィンが腕組みして見つめる。


「マグマ、熱そうだなあ。ぶくぶくいってるよ……落ちたら焼きドワーフだよ、焼きポポンになっちゃうよ……」

「ポポン」

「えっ。何?」


 リィンは音もなく、ポポンのすぐ後ろに立っていた。そしてポポンの背中に手を当てる。


「いってらっしゃーい」

「えあっ!?」


 リィンに押され、宙に浮いたポポン。

 大きな瞳を真ん丸に見開いてリィンを見、そのまま落ちていった。


「押さないでって言ったのにいぃぃぃ……」


 落ちていく悲鳴は、ズシン!という落下音と共に途絶えた。


「……本当に大丈夫だろうか?」


 リィンはフードを被りマスクをつけ、火口を覗きこんだ。

 熱気に顔をしかめつつ見下ろすと、件の出っ張りの上には赤毛の少女が大の字に寝そべっていた。

 リィンは一つ頷き、体を起こした。


「ビターン成功だな。よし、俺は俺の仕事!」


 フードを脱いだリィンは、再び下り坂へと向かった。


性悪エルフから鬼畜エルフへクラスチェンジ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ