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 二人はダンジョンを奥へ奥へと進む。

 解除された罠や破壊された罠を見つけては、新たに罠を設置していく。

 リィンの作業を眺めていたポポンが、遠慮がちに言った。


「リィン、私も何か手伝おっか?」


 リィンは顔を上げ、額の汗を手の甲で拭った。


「……そうだな。じゃあ、そっちに落とし穴を掘ってくれるか?」

「ん!穴掘りならまっかせといてっ!」


 ポポンはリィンが持参していた折り畳み式のスコップを受け取ると、ダンジョンの床を掘り始めた。

 そのスピードは尋常ではなく、瞬く間にポポンの姿が穴に隠れて見えなくなる。


「……すげえな、穴ドワーフ」

「何か言ったー?」


 穴の底から響く声に、リィンが首を振る。


「いや、なんでもない」

「ほーい。ねー、リィーン。どこまで掘ればいいー?」

「どこまでって――うおっ!?」


 穴の縁から中を覗いたリィンが驚きの声を上げる。

 ポポンがいる穴の底は、すでに五メートルは下にあった。


「掘りすぎだ!下の階まで貫通しちまう!」

「そっか。りょうかーい」


 深い穴の底でスコップを折り畳んだポポン。

 彼女は何をするでもなく、ただリィンの顔を見上げた。

 見つめられたリィンが尋ねる。


「……どうした?」

「出れない」

「おい」


 ◇       ◇       ◇


 二人は下り坂を下りて、新たなフロアに辿り着いた。


「ずいぶん深いところまで来たねえ」


 リィンは床から突き出る槍衾の罠スピアトラップの動作を確認しつつ、答えた。


「ああ。だがここで終わりだ。このフロアが最深層だからな」

「そうなの?じゃあ、迷宮運営者(ダンジョンマスター)もすぐ近くに……?」

「あそこの細い通路が見えるか?」


 ポポンはリィンが指差すほうを向き、目を細めた。


「あー、あるね。いかにも何かありそうな通路が」

「あの奥が〈ラライ銀山第14号坑道跡〉の中心部、つまりはモッカピンショーさんのいる部屋だ」


 ポポンが生唾をごくりと飲む。


「そうなんだ……ついに迷宮運営者(ダンジョンマスター)と相まみえるときが……」


 その目でよく確かめるべく、ポポンが細い通路へ近寄っていく。


「おい」

「なに、リィン?」

「そこ、危ないぞ」

「何が――っ!!」


 地面がわずかに沈む感触に、ポポンの血の気が引く。

 次の瞬間、天井から現れたクロスボウが彼女に向かって矢を放った。


「……あぶぶぶ」


 間一髪、ポポンは体を大きくのけ反らして矢をかわした。

 彼女の頭頂部をかすめていった矢は、ブリッジの体勢の彼女の目の前の床に、深々と刺さっていた。


「あぶ、危ないでしょ!もっと早く言ってよ!」

「すまない、元冒険者なら気づいているかと」

「自慢じゃないけど、私そういう能力からっきしなんだからね!」

「たしかに自慢じゃないな」

「言いたいのはそこじゃないのっ!」

「わかってる」


 リィンはクロスボウの矢を抜き、ポポンを引き起こした。


「この辺の罠はまだ生きてる。俺の歩いた場所をついてこい」

「……わかった。今の罠(クロスボウ)は修理しなくていいの?」

「自動装填式だからそのままでいい」


 二人は先ほどリィンが指差した通路へと向かった。

 先頭を行くリィンは蛇行したり、軽くジャンプしたりしながら進む。

 ポポンには見分けこそつかないが、リィンの様子に罠の存在を察しつつ、同じように進む。

 そうして、ようやく細い通路へと入った。

 通路はすぐに終わり、突き当りには扉がある。

 リィンは扉に触れず、腕組みして通路を振り返った。


「……開けないの?」


 ポポンが問うと、リィンは腕組みしたまま上方を指差した。


「上を見ろ」

「上……?」


 ポポンが上を見上げる。

 そこだけ天井が抜けていて、暗い空間に鉄球がぶら下がっていた。

 通路幅ギリギリの大きさで、表面はトゲにびっしりと覆われている。


「スパイクボールの罠だ。ドアノブに触れると落下する」

「うわー、凶悪」

「うむ。だが、もうひと手間加えておこうと思う」


 リィンは通路入り口まで戻ると、床を指差した。


「ここに落とし穴を掘ってくれるか?この通路の幅より大きめにしてくれ」

「ん、わかった」


 リィンが投げてよこした折り畳み式スコップを空中で掴むと、ポポンはさっそく穴を掘り始めた。

 リィンはその場に座り込み、懐から糸束を取り出した。そして手の指すべてを器用に動かして細工を作り始めた。

 それはまるで、編み物でもしているようだった。


「リィン」

「……なんだ?さっきみたいに深くなくていいぞ。出来たら教えてくれ」

「出来たよ」

「あん?……早っ!そして深っ!穴掘り神かよ、お前」

「えっへっへ」


 誇らしげに鼻の下をこするポポンに、リィンは半ば呆れた様子で首を横に振った。


「ちょっと待ってろ、こっちもじきに終わる」


 そう言ってリィンは細工の手を速める。

 ようやく出来上がったのは、目の粗い蜘蛛の巣のような物。


「なあに、それ?」

「これを落とし穴に被せて、その上をカモフラージュする」

「変わった糸だねえ。半分透けてる?」

「〈朝霧のつむぎ糸〉だ。暗がりで見えづらく、かつ強度もある」

「ふむふむ」

「冒険者が上を通るとわずかにたわむが、丈夫なので落ちない」

「えっ!?落ちなかったら落とし穴じゃないじゃん!」


 リィンがチッチッと舌を鳴らしつつ、指を横に振る。


「ところが〈朝霧のつむぎ糸〉には変わった特徴があってな。一度ピンと張ってから緩むと、極端に強度が落ちるんだ」

「んん?どういうこと?」

「つまりだな、冒険者がこの上を通って扉へ向かう。踏まれたときに〈朝霧のつむぎ糸〉が張り、通りすぎて緩む。次に扉に触れて鉄球が落ちてくる。慌てて引き返してきた冒険者は、さっきは落ちなかった落とし穴にドスン!更にその上に鉄球もドスン!!……って寸法だ」

「うわあ、酷い」


 ポポンの反応に、リィンは満足げに笑った。


「だろう?……よし、この罠をリィンスペシャルと名付けよう」

(うわあ、悪趣味)

「何か言ったか?」

「ううん、何も!」

「そうか。なら依頼者に報告だ」


 二人は再び通路奥の扉の前まで移動した。

(いよいよ、か。この奥に迷宮運営者(ダンジョンマスター)が……)

 冒険者時代にも遭遇したことのない迷宮の主を想像し、ポポンの心臓は早鐘を打った。

 そんなポポンの心情などお構いなしに、リィンの手が扉へと伸びる。


「――はっ!ちょっと、リィン!」

「なんだよ」


 ポポンが頭上を何度も指差す。


「扉に触れると鉄球が落ちてくるんでしょ!?」

「そのことか。問題ない」


 そう言って、再び扉へ手を伸ばすリィン。

 ポポンはリィンの服の背中側を両手で掴み、鉄球を凝視した。

 だが扉が開け放たれても、鉄球は微動だにしなかった。


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