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 リィンとポポンの二人は、仕入れを行う街を目指していた。

 どこまでも晴れ渡る空に、ヒッポグリフはスキップを踏むように宙を駆ける。


「やっほーい!気分そーかーい!」


 鞍から立ち上がらんばかりにはしゃぐポポンに、リィンが横目で振り返る。


「身を乗り出すなって!危ねーから!」

「えへへ。ごめんごめん」


 舌を出しながら、リィンの腰に掴まるポポン。


「ったく。ついこの間までヒッポ酔いしてた奴とは思えないぜ」

「もう、その話は忘れました!」

「俺は忘れねえ。背中に吐かれるなんてエルフ人生初だからな」

「私だって人の背中に吐いたのはドワーフ人生初だよ」


 ポポンはなびく赤毛を右手で押さえながら、リィンに問いかけた。


「で、仕入れをする街ってどんな街なの?」

「ロランワースという街だ」

「ん~、聞いたことあるよーな、ないよーな……」

「通称、冒険者の街だぞ。元冒険者のくせに知らないのか?」

「あー、そっか!だから聞いたことあるんだ!」

「街の周囲にダンジョンが多数存在しててな。その探索目的に集まった冒険者が休息するための街だ」

「ふうん。じゃあ街って言っても、テントが集まってるみたいな感じ?」

「いや、かなり大きな街だ」

「そうなんだ?リッターラより大きい?」

「大きいな」

「じゃあ、私が前に居たガレンティンとならどっちが大きいかな?」

「自分の目で確かめろ。ほら、見えてきたぞ」

「えっ、どこどこ?」


 ポポンはリィンの肩越しに前方を見やった。


「わあー!」


 街を見つけたポポンが感嘆の声を上げる。

 ロランワースは巨大な街だった。

 草原の真ん中に小高い丘があり、その丘全体に街並みが広がっている。

 高さ五メートルはゆうに超す城壁が外周をぐるりと取り囲み、街の四方にある門付近には数多の馬車が確認できる。

 一見すると、大国の城塞都市のような佇まいであった。


「あっちの断崖にある古城はダンジョンだし、向こうに見える遺跡もダンジョンだ。あの湖も水中にダンジョンがある」

「へえー!ほんとに周りはダンジョンばっかりなんだね」

「んで、あの遠くに見える山。……わかるか?」

「わかるか、って何が?……んん?見たことあるよーな、ないよーな」

「お前、そればっかだな。あれはラライ銀山だよ」

「あー!モッカピさんとこの!そんな位置関係だったんだね!」

「顧客の名を略すな。ったく、行ったダンジョンくらい覚えておけよな」

「だって、あのときはヒッポ酔いしてたから」


 リィンは意地悪く笑う。


「その話は忘れたんだろう?」

「むぐぐ……」


  ◇       ◇       ◇


 ――かつてこの地は何もない、ただの丘だった。

 冒険者だったロランはダンジョンで仲間を失い、絶望の淵にあった。

 彼はこの丘に上り、景色を眺めた。

 意味などない。

 ただ、そうしていたかった。

 ロランは昼も夜も夕方も、何日も景色を眺め続けた。

 そして長い月日が経ったある日。

 彼は決心した。

 始まりは一軒の小屋だった。

 これからダンジョンに挑む冒険者達。

 あるいは夢破れて足を引き摺る冒険者達。

 彼らに一夜の宿を貸し、ささやかながらも心を尽くしてもてなした。

 やがて噂は広まり、冒険者が次々に集まるようになった。

 一軒の小屋では足りず、もう一軒。そしてもう一軒。

 そうして小屋は村になり、街となっていった。

 冒険者相手に商売する店もできた。

 冒険者以外の人も住むようになった。

 彼らを守るため、対クリーチャー用の防護壁も作られた。

 街は更に拡大を続け、そのたびに壁も増設された。

 ロランは老いて死に至るそのときまで、一切の見返りを求めなかった。

 住人達は彼への尊敬の念を込めて、彼の名前を街に付けた。

 これがロランワースの起こりである。


  ◇       ◇       ◇


 ロランワース上空に到達したヒッポグリフは、丘の頂上へ向けて降下を始めた。


「わわ、街の真ん中に下りちゃうの!?」

「心配するな。あのデカい塔のてっぺんに下りる」


 リィンのいうデカい塔(・・・・)とは、丘の中心にモニュメントのように立つ建物のことだ。

 塔というより平屋をいくつも積み重ねた高層建築物のような構造になっている。


「屋上が飛行魔獣の駐獣場になってるんだ」

「駐獣場って、初めて聞いたよ。じゃあ、この塔に目的のお店があるの?」

「というより、あのロランタワーが丸々一つのお店だ」

「うそ!?」


 ヒッポグリフは両翼をしきりに羽ばたかせながらゆっくりと下降し、やがて屋上に着地した。

 リィンとポポンがヒッポグリフから飛び降りると、屋内への扉から一人の人物が出てきた。

 キッチリと髪を整えたスーツ姿の男性だ。


「いらっしゃいませ、リィン様」

「お久しぶりです、クルガンさん」

「おや、そちらのレディは……?」


 クルガンの目がポポンへ向く。

 言われ慣れない呼称に目を白黒させながら、ポポンはぺこりと頭を下げた。


「ポポンです!新入りです!初めましてっ!」

「新入り……!」


 クルガンは目を丸くしてリィンを見た。


「いつも一人で仕事をしていたリィン様が、相棒をつくられるなんて!」


 リィンは居心地悪そうに頭を掻いた。


「つくるというか、なりゆきですが」

「それでも素晴らしいことです!このクルガン、お祝いさせていただきます!」

「お祝い?」

「全品三割引きで販売させていただきましょう!」

「おお、それは嬉しい!……ですが、いいのですか?」

「いつもご利用いただいておりますから、せめてものお返しですよ。……それで、本日は何をお求めで?」

「罠の材料に、ちょっと特殊なやつが欲しいのですが」

「となると十二階、高級工具フロアですね。では参りましょう」


 クルガンに先導され、二人は屋内に入った。

 案内されたのは五メートル四方の小さな部屋で、入ってきた扉以外は窓一つない。


「では、十二階、と」


 扉を閉めたクルガンは何やら壁を触り、それからはぼんやりと扉を眺め始めた。

 リィンは壁にもたれ、正面の壁を眺めている。


「……」「……」「……」


 ただ過ぎ行く無言の時間に、ポポンは首を捻る。


「……ねえ、リィン。これ、なんの時間?」

「なんのって……移動時間?」

「移動してないよ?」

「ああ、魔動エレベーターを知らないのか。この小部屋自体が魔法の仕掛けで上下に動くんだ。大都市では割と見かけるし、ダンジョンにもたまにあるぞ」


 ポポンは更に首を捻る。


「それって……今、この部屋は下に落ちてるってこと?」

「んー。ま、そうなるか」


 するとポポンは目に見えて慌てだした。


「この塔、すごく高かったよ!?下まで落ちたら死んじゃうよ!」


 そう言ってポポンは小部屋ををグルグル歩き回ったり、腕を抱いてキョロキョロと見回したりしている。

 見かねたクルガンが、挙動不審なポポンに言う。


「大丈夫ですよ、ポポン様。落ちるというよりゆっくりと下降している状態ですので」

「……途中から、ビューン!って落ちない?」

「落ちませんよ」

「それ絶対?クルガンさん、それ絶対?」


 クルガンはこめかみを掻いた。


「絶対、と言われますと」

「ほらー!リィン、下りよ?死んじゃう前に下りようよ!」


 リィンは呆れたようにポポンに言った。


「お前は死なねーよ。この塔より高い、世界樹から落ちても平気だったんだから」


 ポカンと口を開けて聞いていたポポンは、しばらくしてこくんと頷いた。


「それもそっか」

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