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 洞窟からトンネルを掘り始めて数時間。

 ポポンとモール族で編成された掘削部隊は休みも取らずに掘り進め、トンネルは驚異的な速度で伸び続けている。

 リィンがトンネルの先頭までやってきて、ポポンに声をかけた。


「どうだ、調子は?」


 ポポンは土塗れの顔で、ぼやくように言った。


「んー、ボチボチね。やらされてる感があって、つるはしのノリが悪いけど」

「そうか」

「リィンも掘らない?ほら、エリシャ様まで手伝ってるんだから」


 エリシャはモール族に交じり、掘り出された土や瓦礫をせっせと運び出していた。


「いや、遠慮しておく。俺は応援する」

「……応援するだけ?」

「がんばれ!!」

「うっさい!……ねえ、このトンネルってちゃんとダンジョンとつながってるの?不安になって来たんだけど」


 リィンが後ろで土を運ぶエリシャに叫ぶ。


「エリシャ!体調は悪くないか!?」


 エリシャは足を止め、笑顔で首を横に振った。


「いいえ!ちっとも!」


 リィンは一つ頷き、ポポンに向き直る。


「つながりが悪かったら、エリシャの体に影響が出る。つまり、このトンネルはすでにダンジョンの一部だということだ」

「そっかそっか」

「安心したなら、精一杯掘ってくれ」

「もう、他人事みたいに!」


 トンネルの先頭で掘っていたモール族の一人が、汗を拭いつつ振り返った。


「お嬢!景気づけにあれ(・・)をお願いしまさあ!」

「¨ドワーフ穴掘り歌¨ね!ようし!」


 ポポンがつるはしを担いで再び先頭に加わる。

 そしてよく通る声で歌い始めた。

 モール族が全員で合の手を入れる。


「辛くともー、つるはし鳴らせ!」

「「トンテンカンテン、トンテンカン!!」」

「どうだ!いい穴掘れただろー!」

「「トンテンカンテン、トンテンカン!!」」


 リズムに乗せて、つるはしを振るうポポンとモール族。元々馬鹿げたスピードだった掘削速度が、更に跳ね上がる。

 あっという間に土が積み上がり、トンネルはすさまじい勢いで伸びていった。

 リィンが彼らを眺めながら呟く。


「……ボチボチ、ね。呆れるほど早いがな」


 ◇       ◇       ◇


 リッターラ城、秘密の地下室。

 アントニオと十二人の騎士の姿がある。


「団長殿、壁面のレンガの撤去が終了しました!」

「うむ、ご苦労!」


 アントニオが騎士達を見回す。


「よいか、たかが穴掘り工事と思うな。これは戦だ!」

「「ハッ!」」

「あの小僧どもと我らリッターラ騎士団の勝負なのだ!ここは戦場だと知れッ!」

「「ハハッ!!」」

「では始めろ!いけ好かないあの小僧に、一泡吹かせてやるのだ!」

「「ハハーッ!!」」


 威勢よくトンネルを掘り始めた騎士達。

 鍛え上げた肉体を活かし、つるはしを振るう。

 アントニオは騎士達の気迫あふれる仕事ぶりに、満足げに頷いた。

 これならばリィン達に十分勝てる、と確信していた。

 だが、足りない経験を気迫と肉体で補うということは、力任せということに他ならない。

 そんな仕事が長く続くはずもなく、三時間も経った頃には騎士達は疲労困憊となっていた。


「さっきまでの威勢はどうした!ほうれ、掘らんか!」


 アントニオが大声で叱咤するが、騎士達の反応は悪い。

 座り込んで立ち上がれない騎士もいる。


「団長殿……少し休憩を……」

「ならん!こうしている間にも、小僧どもは掘り進めているのだぞ!」

「しかし……」

「ええい、だらしない!貸せッ!」


 業を煮やしたアントニオは、座り込んだ騎士からつるはしを奪い取った。

 そうして自ら、穴掘りに加わる。


「そうら、こうだ!剣の訓練と同じだ!腰を入れてつるはし振るえい!」


 アントニオが加わったことで、再びトンネルが伸び始める。

 しかし、アントニオが数度つるはしを振るったとき。


「ん、どうした?なぜ手を止める?」


 アントニオの隣で掘っていた騎士が、ピタリと動きを止めていた。

 彼の顔には疲労の色こそ窺えるが、かといって疲れ果てて動けないといった様子でもない。


「おい、聞いてるのか?」


 アントニオがもう一度問うと、騎士は口元に指を立てた。


「団長殿。なにやら声が聞こえます」

「何を言ってる。ここは土の中だぞ?」

「しかし、確かに聞こえますれば」


 そう言って、騎士は掘り進めていた土の壁に耳を当てた。

 アントニオは身振りで他の騎士達の作業を止めさせ、自らも耳を押し当てる。

 すると聞き取りづらいが確かに、土の壁の向こうから会話が聞こえてきた。

(あとどのくらい?)

(すぐそこでさあ、お嬢。ほんの一振り二振りってとこで)

(えっ、そうなの?)

(こっちから掘ると危険かもしれやせん。待ちますかい?)

(うーん。どうする、リィン?)

(構わねえよ。ぶちかませ)

(わかった!よーし……)

 そこで会話は止まった。

 アントニオと騎士が、土の壁に耳を当てたまま顔を見合わせる。

 そして、次の瞬間。


「よいしょーーーっ!!」


 少女の気合の声とともに、土の壁が吹っ飛んだ。


「ぬおおっ!?」「うげえ!」


 アントニオと騎士は土と共に吹っ飛び、地面に転がった。


「痛うう。いったい……」


 体を起こし、前方を凝視するアントニオ。

 段々と土煙が晴れ、様子がわかってくる。

 先ほどまで耳をくっつけていた土の壁は既になく、大穴が開いていた。

 そして大穴の中から、自分達を心配そうに見つめる赤毛の少女。


「あちゃー。ごめんなさい、アントニオさん!」


 ポポンの横からリィンが顔を出す。


「よう、おっさん。トンネルが無事つながってよかった、よかった。さて、どの辺りでつながったのか……ん?あれはもしや、噂の地下室か!?なんてこった、あんたら十メートルも掘ってないじゃないか!!」


 ようやく事情を呑み込んだアントニオが、ブルブルと震える。


「むぐぐ……小僧、貴様いったいどんな卑怯な手を使ったっ!?」

「どんな手?つるはしだよ。あ、あと爪」

「嘘をつけ!それだけでこれほど速く掘れるわけがない!」

「いやあ、そちらさんが遅いんじゃないか?へばってる騎士さんも多いようだし?」

「むぐぐ……」

「もう、リィン!嫌味が過ぎるよ!」


 間に入ったポポンに、リィンはニヤリと笑う。


「勝ったんだからこのくらいいいだろう?」

「リィンは掘ってたっけ?」

「痛たた……豆が痛むぜ……」

「リィンってば、ほんと嘘ばっかり!」

「あれは……」


 二人のすぐ後ろに、エリシャが茫然と立っていた。


「あれは、城の地下室?……そうですわ、城の……」


 エリシャがふらり、ふらりと歩を進める。


「姫様……」


 見上げるアントニオの横を、エリシャがおぼつかない足取りで通り過ぎる。

 一歩一歩進み、やがて地下室の手前で立ち止まった。

 自分の足元の掘削された坑道と、地下室のレンガ敷きの床を見比べる。

 そして不安そうにリィンを振り返った。

 その瞳には涙が浮かんでいる。


「大丈夫だ」


 リィンはそれだけ言い、深く頷いた。

 エリシャは向き直り、右足を上げた。

 ゆっくりと下ろされた右足が、地下室の床を踏む。

 残された左足も同様にゆっくりと上がる。

 そして両足で地下室に立った途端、エリシャは泣き崩れた。


「よかっ、た……帰れた。帰れまし、た……ううっ」


 アントニオはガバッと跳ね起き、大股でエリシャのほうへ歩いていく。そしてエリシャの横で立ち止まり、騎士達のほうを振り返った。

 土に塗れたその顔はとても誇らしげで、喜色に満ちていた。

 アントニオは高らかに宣言する。


「皆の者!姫様の御戻りである!」


 騎士達は疲れた体を奮い起こし、剣の代わりにつるはしを掲げた。


「「姫様万歳!リッターラ万歳!」」


 騎士達の祝福は時を忘れたように繰り返され、坑道内に響き続けた。


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