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「あれ?ポポン様は?」


 アントニオを見送ったエリシャが戻ってきた。


「穴掘りの手伝いを呼びに行ったんだ」

「手伝い、ですか。途中ですれ違いませんでしたが……」

それ(・・)を使った」


 リィンが楕円形の森を指差すと、エリシャは興味津々と言った様子で覗きこんだ。


「これは……絵ですか?ずいぶんお上手ですね」

「……うーん、説明が面倒だな。よっと!」

「わっ、リィン様!?」


 リィンがエリシャの頭を壁に押し込むように押すと、彼女の頭だけが楕円形の森に消えた。

 そして数秒後。


「リィン様!も、森!森です!えっ、洞窟なのに、森!?」

「その反応はもう見たな」


 結局、リィンはポポンにした説明をそのままエリシャにもすることとなった。


「すごいです!もう一度見てもいいですか!?」


 興奮気味のエリシャに、リィンが頷く。


「体はこっち側に残しておけよ?あの酷い頭痛に襲われるからな」

「そうでしたね……。では、顔だけ!」


 しばらく洞窟から出ていないせいか、エリシャは楽しそうに森を眺めていた。

 だがすぐに、顔を引っ込めてリィンを見た。


「どうした?もう飽きたか?」

「いえ、なにやら獣人の方々がこちらに向かってきてたので……」

「おっ、来たか」


 エリシャが二、三歩下がると、楕円形の森から小柄な獣人達がわらわらと飛び出てきた。

 モグラの獣人、モール族だ。

 揃ってバケツを持った彼らは、総勢十八人の大所帯。

 最後につるはしを担いだポポンが入ってきたのを確認し、リィンは〈次元ダコの魔墨〉で描いた円を消し始めた。


「リィン、もう消しちゃうの?」

「使い終わったら消すのが基本だ。忘れてそのままにしちまうと、厄介なことになる」

「ふーん」


 消し終えたリィンは、振り返ってモール族を見回した。


「わざわざ来てもらって悪いな。お前達に頼みたいのはトンネル掘り、特にトンネルのコース取りだ。目的地のほうからもトンネルを掘るので、その音に向かって掘り進める必要がある。この洞窟には地下水路があるから、その点にだけは注意してくれ」


 ポポンがハッと気づく。


「そっか!水脈掘り当てちゃったら溺死しちゃう!……みんな、大丈夫?」


 リーダー格のモール族が笑った。


「わけないでさ、お嬢。俺達ゃ地下の住人、水脈なんて匂いでわかりますぜ」


 そして仲間のモール族達に向かって、長い爪を振り上げてみせた。


「お嬢の恩義に報いるときがきた!気合い入れろ!」


 モール族達は爪を打ち鳴らして応える。


「ようし!まずは掘り始める場所を決めるぞ!散開して調査に入れっ!」


 リーダー格の指示に、モール族達は一斉に散らばっていった。最後にリーダー格のモール族が一礼し、その場を後にする。


「頼りになる連中だ」


 リィンが独り言のように言うと、ポポンが小さな胸を得意げに張った。


「そうでしょ?私の大切な仲間なんだから!」

「お前の手柄じゃねえだろ。ってか、お前は行かないのか、穴ドワーフさんよ?」

「私はほら、掘るの専門だから。水脈の位置とかさっぱりだし」


 すると事の推移を見守っていたエリシャが、納得いったように何度も頷いた。


「なるほど。ポポン様は穴掘りのエキスパートなのですね」

「え。得意ではあるけど、エキスパートは大袈裟のような……」

「でも、ダンジョン工務店はそういった専門家の集まりなのでしょう?」

「初耳だけど……そうなの、リィン?」


 問われたリィンも首を傾げる。


「集まり、と言われてもな。従業員は基本的に俺達二人だけだぞ?」

「えっ、でも!だって、ここに書いてありますよ?」


 エリシャが取り出したのは、一枚のチラシ。

 見覚えのないポポンに対し、リィンは見覚えがある様子だった。


「ああ、それか」

「なんなの、これ?」

「ダンジョン工務店の広告チラシだ」

「へえ~、そんなのあったんだ?」


 ポポンはチラシに目を落とした。



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 ―――――――――――――――――――――

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 ポポンが首を傾げつつ、尋ねる。


「この、経験豊かな従業員っていうのは?」

「俺だ」

「じゃあ、迷宮専門の設計士っていうのは?」

「それも俺だ」

「じゃあじゃあ、このクリーチャー専門家っていうのは?」

「俺だな」

「うふふっ!」


 エリシャが堪えきれずに吹き出した。


「全部、リィン様のことだったのですね」

「まあな。……宣伝とはいえ、ちと誇張しすぎたか?」

「確かにリィンはダンジョンのこと詳しいけど、さすがにねー」

「これ、城下の町の片隅に貼られていたそうなのですが……リィン様が貼られたのですか?」

「いや、うちの連絡係に頼んでる。たいていの町や村にはあるだろうな」


 ポポンが首を捻る。


「うん?ダンジョンに配らなきゃ意味なくない?」

「場所がわかってりゃそうするがな。ダンジョンってのは見つけにくい場所によくあるんだよ。このダンジョンなんていい例だろう?」

「そっか!空から見てもわかんなかったもんね」

「一方、人の町は地図さえあればわかる。それに加えて、たいていの迷宮運営者(ダンジョンマスター)は事情通でな。最寄りの町に使い魔をこっそり忍ばせているなんてのはザラだ」

「うげっ。そうなんだ」

「ああ。だから町に配れば事足りるってわけさ」

「なるほどねぇ」


 ポポンがチラシをエリシャに返すと、彼女は大事そうに胸に抱えた。


「このチラシおかげでお二人と会えました。そして、城に戻ることも……これは私の宝物です」


 ポポンは照れくさそうに鼻の下をこすった。

 リィンはどうかとポポンが下から覗き見ると、彼は珍しく微笑みを浮かべていた。


「リィンの旦那」


 リィンが声のほうを見ると、リーダー格のモール族が戻ってきていた。

 後ろには残りのモール族もいる。


「どうした?」

「掘り始める場所を決めやした」

「早いな。どこだ?」

「豪華な椅子のある部屋でさあ。もう掘り始めてもいいですかい?」

「だ、そうだ。指揮は任せる」


 そう言って、リィンはポポンの肩を叩いた。


「もう!結局私に丸投げする気ね?」


 口を尖らせたポポンだったが、気を取り直しモール族の前に仁王立ちした。

 そしてつるはしを高々と振り上げる。


「野郎ども、準備はいい?……ダンジョン工務店掘削部隊、出動!!」

「「おおーっ!!」」


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