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TREE・LIBRARY

メモリシア

作者: ハブ広

前書きの物語【Memory】

 巨大な図書館のホール。そこにいたのは黒い髪に紅い瞳、服装は黒いスーツに紅いベスト、左ポケットには十字架が入っていた。「こんにちは皆さん、私はラスティア。この図書館の館長を務める者です。」

 読んでいた本を一回閉じて口を動かし、大量の本棚が立ち並ぶ館の中で彼は話し始めた。

「私達は言わば人の物語に干渉出来る。つまりはその世界の中に入って観察したり、分岐点を配置して違う結末に書き換えるということもできます。急すぎて何が何だかよくわからないという方も多くいらっしゃるでしょうが、その点については後々お話ししましょう。それと昼休みが通り過ぎてしまう前に私は少し遊んできますね」

 そう告げるとラスティアは光の粒と化して消えていった。


STORY

 記憶は脳内で一時的に保っていられる情報だが、一定期間を過ぎれば、掘り起こすまで海馬の底に沈められて中々表面上に浮上することは難しい。何時生命が進化の過程でそんなシステムを創り上げたのかは定かではないが、いい記憶は忘れやすくとも、悪い記憶は忘れにくいというバグが度々生じる。

 大学通いの彼が持っているのは記憶の魔導書。一日あったことを記せば忘れることが無く、腦とリンクして海馬の底に埋もれても記した書のページを見ればすぐに思い出せるという代物だ。どんなにいい代物でも必ず欠点が存在する。

 今日も一日の幕が開ける。授業はいつも通り時間過ぎればどうとでもなる。ノートと筆記用具を用意してテストに出てきそうな大事な部分をペンで書いておく。それだけで一日が過ぎ去っていく。やる気があるのか無いのかはよくわからないが、抑揚の激しい生徒だった。勉強漬けの徹夜明けの学校は一日中頬と机が粘着剤でくっつけたように離れなかったこともあり、しょうがないと水に流したりしている。

「ジャン、最近寝てばっかりだけどどうしたの?」

 彼のガールフレンドだ。

「テスト近いだろ、それにバイトが重なってよ…」

「家賃くらい返せないの?」

「バイトしないと生活費がやばいんだよ.」

「ほら、これ今日の分のノート、少しでもいいから書いときなよ、あなた結構成績やばいんだしさ」

 彼女は物忘れの激しい彼とは違って見たのは絶対忘れない記憶力の持ち主、あそこまで記憶留めておく力がすごいと苦労しないんだろうなと毎度羨ましがっていた。机に頬杖をついて友達と一緒に遊びに行くであろう友達と歩いて教室の外に出ていく。

 さて、帰ったら勉強と記憶の魔導書に記しとかないとまた忘れちまう。

 あの魔導書を貰ったのは祖父が無くなったあとだった。祖父は誰かに貰ったと言っていたが、よくは覚えていないらしい。使っていた時期は30代くらいの働き盛りの時だし、それに物覚えが悪くなってきたのも要因だ、それからずっと自分が使っている。

 その所有者についてはもらってすぐわかった。【ラスティア】名前だけでミドルネームも苗字もなかっため、祖父の友人誰かだろうと思っていたがその憶測は外れていた。祖母に聞いてみたが、その名前を持つ人は町にすらいなかったのだ。じゃあ誰が…とずっと考えていたが、脳味噌回転させるだけ無駄と判断を下して名前に真意については触れなかった。

 彼は夕方勤務であるバイトに勤しんでいた、生活費を自分で稼ぐために週5で働く、鬼店長からの雷が落っこちていたり、自分のミスをフォローしてくれる優しい先輩に助けられながら月が登る時間帯まで勤務していた。

 今日は疲れたな、自宅に帰ってドアを開けると、忘れたい記憶が脳内に甦ってきた。「何しているんだ役立たず」嫌いな店長の怒号と鬼のような剣幕を思い出してしまう。ああ、そういえばこれのこういう使い方をすっかり忘れていた。それは記憶の出来事を書き記し、破いてページを焼く。そうすることによって記憶の消去ができるのだ。

 家の暖炉に薪を入れて部屋を暖めながら記憶を消去する準備に入った。彼女に貰ったノートの内容をそっくりそのまま書き写して海馬に刻みいれる。これで次の授業の際も付いていけるだろう。彼は装飾が施された魔導書を取りだして適当に1ページを根元から破いた。毎度毎度日記感覚で記しているが、たまに重要な記憶を描いてしまい、書き直すこともしばしばあった。でもまだページがあるからいいかなと余裕をかましている様子だったが彼はまだ気づく由は無かった。

-。数か月後。

「だから、そういうこと言っているんだろうが」

「ごめんって、もうしないからさ」

 彼らは彼女側の浮気により、分かれてしまった。それは最高学年にあがった年の12月、大学生活最後の年だった。

 嫌な気分だ、全て無駄だった…彼女と過ごした日々、信頼し続けていた想い、時間。俺は一体何をしたかったのか、一気に馬鹿馬鹿しくなってきた。そうだ、こういう時は書いて消去すればいいんだ。魔導書のページを覗いてみたが、もうページは残されてはいない。どうすれば…。

「私が少し手を貸してあげようか?」

 清流の如く清んでいるが、力強く迫力のある声がした。

 誰だ?

「私さ、その魔導書を作った張本人」

 黒い髪に紅い瞳。服装については黒いスーツに紅いベスト、左ポケットには十字架が入っていた。

「お前…一体どこから来たんだ、答えろ!」

「まあそう焦らずに」

「簡単なことさ、忘れてしまいたいんだろう?そこの魔導書に記して、なら特別にもう一枚追加しよう。」

「何のサービスだ?」

「それはこれからのお楽しみ」

 益々気味が悪くなる。行き成り姿を出してきたこいつの口角がやや上がり気味だったのだ。でも忘れたいことを記してしまえばこいつは帰ってくれるのだろうか。彼は暖炉の前のフローリングでペンをただひたすらに走らせる。ガリガリとペン先が紙を穿っている音が部屋に微かに響くだけでスーツを着た謎の男は何もしなかった。

「書いた…早く記憶を消去してくれ」

「ふむ」

“これじゃあ、何だかつまらなくなりそうだな、せっかく干渉してまでこっちに来たっていうのに、そうだ”

 にやっと顔を歪める。彼の背中に悪寒が走った。果てしなく嫌な予感がする。記憶の魔導書を手に取ろうとしたが既に見知らぬ男の手に渡っていた。

「返せ!」

「嫌だなあ、私は作った側なんだから破滅の行く末も見守る資格もあるってことさ、私からのご褒美(代償)だ。受け取ると良い」

「やめろぉおおおおおおおおおお!!」

 暖炉に投げ込まれる魔導書は暖かく燃え上がる炎に包まれ煙を上げる。今迄使用していた本が一気に灰燼になっていく。

 彼の大学生活中、魔導書に書かれたであろう全ての記憶が消滅した…。

-。

 数年後、彼と別れた絶対的な記憶力の持ち主である彼女は既に社会人となり、新生活2年目だ。浮気した時の彼氏とは既に別れてしまい、何か寂しい気持ちでいっぱいだった。よりを戻そうと考えた彼女は彼に電話をかける。

「もしもし、ジャン?」

「あの~、すみませんどなたですか?」

「え…?」

 ごとっ…。彼女は携帯を落として落胆していた。

「もしもし?もしもし?」

 突然に発せられた言葉に頭に消しゴムをかけたが如く真っ白に染まっていく。訝し気にその答えを待ち続ける彼の声が受話器から少なからず聞こえていた。


後書きの物語

ラスティアは不気味な笑みを浮かべて満足そうに語り始める。

「如何でしたか?記憶というのは何とも不完全なもの、すぐに忘れる者がいれば、一生残り続けるトラウマのようにしっかりと刻まれ続ける者もいるということ。私はここに着眼点を付けて干渉したという訳ですが、少しくどい後味が残る感じですね。私は好きですけど…はあ、与えた力を無駄遣いした分のつけは返してもらわないと割が合わないですからね」

「それでは、皆さんまた会う日まで、その時になれば新たな物語を紹介しましょう」


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