バスケが大好きだから
「そうやって見てるだけじゃつまらないって」
「でも私……絶対できないし、足も速くないし」
「そんなのいいからやろうよ!」
あなたが強引に私の腕をとって、引っ張ってくれた。ぐんぐんと前を進んでいくあなたの背中を必死で追いかけた。肺の収縮が、加速していく呼吸のリズムに遅れ始めて、横隔膜が痙攣しそうになる。私は、だって、違うから。足がもつれて転びそうになった。
「ちょっと、待って……。私、まだやるって」
「バスケってすっごくすっごく楽しいんだよ!」
振り返ったあなたが見せてくれた、ヒーローにだってお姫様にだって野菜にだってなることができると信じている子供のようなキラキラとした笑顔が、私の濁った心を透明にしてくれた。馬鹿だなぁこの人、でもすごく素敵だなぁ。あなたのことが大好きになった。
戸惑いや遠慮、自己否定、その他のありとあらゆるマイナスの感情を、あなたの笑顔が吹き飛ばしてくれたこと。あなたは気がついているだろうか。あなたのその素敵な笑顔の側にいたい。そう思うことができたから決意したんだよ。
気がつけば、煌めく笑顔のあなたが隣にいた。あなたに連れて行かれるのではなくて、自分の意思で、あなたの隣を並走していた。目を合わせて笑い合った。
バスケがしたい。じゃなくて、バスケをやるんだ!
私の心に芽生えた、初めての……いや、ずっと本当は大切にしたいと思っていた暖かな感情。冷たくなってしまった私は、その暖かさをいつも拒絶していた。暖かくなってしまえば、いつかまた冷たくなって、凍えてしまうことがあるかもしれないから。その恐怖を、後悔を、やるせなさを味わうくらいなら冷たいままの方が楽でいいやって。
あの日から、好きなものを好きだということを、恐れるようになってしまった。
恥ずかしいことだ、苦しいだけだと思っていた。
でも、あなたはそんな感情すら楽しんで乗り越えていくのかもしれない。私だってそうなりたい。押さえつけていたから、気づいていないふりをしていたから、苦しかったんだ。
あなたが手を差し伸べてくれなければ、その笑顔を向けてくれなければ、私は一生を無駄にしていた。
ありがとう。
私はやっぱり、好きなものは好きだって言いたい。
私はバスケが大好きなんだ。