矛盾
扉は僕らが触れると、思い出したかのように現れた。体当たりをして扉の向こう側に行く。
「はぁ...はぁ...なんとか逃げ切ったのかな」
なぜか戦闘している人々からこちらは見えないらしく、上手く逃げ切れたという状況だった。
【ブラボー、なんて強くて優しいんでしょうか】
外套の男が現れる。今度はフードで顔を隠していない。顔は真っ黒で髪の毛がなく、左目はトランプのダイヤのような形をしており、右目は下弦の月のような形をして、口はギザギザに切り裂いたような風貌だった。
頭の上には真っ黒な天使の輪っかのようなものが付いており、不気味に回転している。
まさに異形の者というか、少なくとも人間ではない。
「お前は一体、なんなんだ」
心の底から疑問だった。人々の平和を望むというような発言をしておきながら、人々を戦わせる。犯罪者を倒す目的で犯罪をする。拉致した人間においしい飯を与える。
矛盾そのものみたいなコイツは一体、何なんだろうか。
【第一試験、合格です】
全然うれしくなかった。
ーー
気づくとまた、三人で別室に飛ばされていた。
「とりあえず、この施設からなんとかして脱出しよう。」
「まって、さっきの話だけちょっとさせて」
祥子が遮る。
「さっきの食事さ、もしかしたら人を攻撃的にさせる効能があったのかもしれない。」
「じゃあなんで私たちはかからなかったの」
真子が反論する。
「もしかしたらにもしかしたらを重ねて悪いんだけど、この施設に居る人間ってあの不気味な男たちと、私たちだけなんじゃないかって思うの」
「いよいよ意味がわからないぞ」
「あの人達、魔法でなんでもできるでしょ?それで人間を生み出して、魔法を使わせて、私たちがどういう動きをしてたのか観察してたんじゃないかって。」
「じゃあなんで蘇生がどうとかって言ってたんだ?使い捨ての人間だったら蘇生させないだろ」
「それは多分、相手が殺してもいい人間だったらどう動くのかっていうのが見たかったんじゃないかな」
「どうしてそこまでわかるんだよ」
「だって、彼ら何もしゃべらなかったし、無言で殺しあってたでしょ?私戦ってて機械と戦ってるみたいって思ったのよ」
なるほど、まともに戦うとそういう意見も持つのか。
「いや、僕の時は隣のガタイのいい兄ちゃんと普通に喋れたよ」
「え、そうなの?じゃあ違うのかな...」
「多分途中まであってると思う」
真子が口を開いた。
「彼らは普通の人間で、蘇生もさせられるんだけど、あの食べ物で操ってたって考えたらどう?」
「そしたら僕らが操られなかった理由がわからないだろ」
「全員操らなきゃいけない縛りなんてないよ、多分毎日日替わりで観察対象を分けて、それ以外の人を操ってるんじゃないかな」
「でも、僕はガタイの良い兄ちゃんと喋れたぞ」
「それはカモフラージュなんじゃない?操ってなさそうな人間を入れる事で、予想を当てにくくしてるとか」
「そうする理由があるかなぁ...」
「だってさ、兄ちゃん、今何時で何日かわかる?」
「...わからない」
「そういう事なんだよ。」
納得してしまって少し悔しいが、祥子を見るとポカーンとしていたので少し疲れが取れた。
「真子ちゃんやっぱり頭いいねー!」
話の半分も理解してなかっただろうゴリラ女子が突然喋り始めた。
「誰がゴリラですって」
「思考を読むのやめろ」
「とりあえずさっきの事もあるし、できるだけでいいから交代交代で寝たほうがいいと思うよ、日にちをごまかされないようにさ」
真子が言う
「いや、それは意味がない。外套の男に眠らされたら全部一緒だ。」
「フードの人の事?確かにそうだね...」
「とにかく難しい事考えないで寝ちゃうのが一番なんじゃないかな」
祥子が眠たそうに言う、気づくとさっきまでなかったベッドが、三人分等間隔で置かれていた。やはりここは不気味だ。
「そうやって何も考えないで飯食った結果、さっきみたいな殺し合いになったんじゃないか。」
「じゃあどうすればいいのよ!」
「なんとかして脱出するしかないだろ!」
「でも脱出してもまた拉致されちゃうかもよ」
「じゃあどうすればいいのよ!」
「もうどうしようもないな...」
三人ともどうしようもなくなって黙ってしまった。
【おや、おねむの時間じゃないんですか?俺が強制的に眠らせてもいいんだけどね】
「うるせぇ消えろ!」
ポシュン...と消えた。引き際だけはいいやつだ。
すると、ドアがコンコンとノックされた
「失礼します」
ーー