拉致
真っ暗な空が見えるかと思ったら白い竜のようなモンスターが頭上に居た。
[貴様らを連れて帰るように言われた。悪く思うな。]
抵抗できないほどデカイ三つ指の足に捕らえられて動けなくなってしまう。
「消えろ!」
祥子が叫ぶ。が、竜は消えないようだった。
「なんでだ!?」
祥子はもう完全にパニック状態だった。僕まで消されるかもしれないと不安だったが魔法の行使そのものを阻害されているようで、何も消える様子はなかった。
[お前の魔法は強すぎる。だがそれ故に、お前の敵となるだろう者は全員お前の魔法の対策をしてくるだろう]
敵?対策?何を言っているんだこの竜は。
いや、そんな事よりも先にこの拘束を振りほどかなくては
【ざーんねん、君も対策されているのサ】
目の前が真っ白になった。
ーー
気が付くと病院のベッドのようなところで横たわっていた。
おかしい、石が生成されていない。いつもは寝ていると石が貯まって寝心地が悪くなるのだが、今はなぜか石が生成されないようだった。
それより先に、ここはどこなんだろう。部屋の広さとしては学校の教室くらいある、かなり広い病室という感じだった。服も入院患者が着るような物にセットされている。ほかに人はおらず、ただ広い空間があるという感じだった。
【目が覚めたようだね、おはよう。気分はどう?】
真っ黒の外套でフードを深く被って顔が見えないようになってる男がドアから入ってくる。
「何をするつもりだ」
単純に意図を知りたかった。なぜ突然連れ去って病院のようなところに連れ去られたのか、理由が知りたい。
【簡単な事サ、君たち『素質がある者』達を強化して、わが軍に入ってもらう】
つまり、公にできないようなところの軍隊に拉致られたという事だろうか
「なぜ連れ去る必要があった」
【そうしなきゃいけなかったのだ】
しかし丁寧に答えてくれるなこの男は、逆に不気味である。
【君は俺が話そうとする事を先に聞いてくれるから話しやすいよ、とりあえずついて来て...】
怪しいが、ついていくしかない。さっき意識を奪われた魔法の内容がわからない限り、僕の命はこの怪しい男に握られているといっても過言ではないし、祥子や真子を人質に取られたようなものだからだ。
ーー
廊下も白で統一され、キレイに舗装されている。本当に病院みたいな場所だった。
ところどころ、先ほど僕が居た病室みたいなところがあり、その窓から見るとほかにも人が居るようだった。
そして試しに髪の毛を引っこ抜いてみたが、石は生成されなかった。ここは特殊な何かがあるような気がした。
【ついたヨ】
ある部屋に案内される。促されるがまま部屋に入ると祥子と真子が居た
「祥子!真子!」
「信夫!」「石田!」
「よかった無事だったのか」
内心すごくホッとした。どんな扱いされているかわからなかったので本当にヒヤヒヤしていた。
[さて、君たちをこの部屋に案内したのには理由がある。]
先ほどの白い竜と同じ声の男だが、身長が140cmくらいのチビ野郎だった。
「さっきも聞いたよ、軍隊に入れるんだろ?」
[それはゆくゆくの話で、今ではない。今は君たちに強くなってもらう必要がある。]
「なんでさらってまで人を強化するのよ」
真子が言う。確かにそれは僕も気になっていた事だ
[私たちは今懸念している出来事がある、それは”魔術結社”と私らが呼んでいるものが形になってしまう事だ。]
質問の答えになっていないような事をベラベラと話し始めた。
[魔術結社というのは魔法を利用した大規模な犯罪者集団で、それらが跋扈してしまうと私たちの平和が脅かされてしまうのだ。
君たちも予想しているだろう、魔法使いがどんどん増えていき、そのうち魔法が使えない人間の方が居なくなるということを。]
なんとなく予想をしていた事だったが、それが今の話とどうつながるんだろうか。
[魔法使いは人を殺す事でその力が強くなる事が私たちの研究で明らかになった。しかし人を殺さなくても、魔法を鍛える事で強くなる事も同時にわかった。私たちは人を殺して誰よりも強い人間が出る前に、素質がある者を育てて強くする事で世界が平和になると考えた。]
「なんで自分達で強くなろうとしないんだよ」
[私たちはもうすでに強い、が、相手が数で押してきた場合それには対応できない。だからこちらも人を拉致してまで強化する必要があったのだ。]
「お父さんとお母さんはどうなるの?私たちが心配で今頃ご飯も喉を通ってないと思うんだけど」
祥子が言う、まぁその通りだと思う。
[それはなんとかなる]
「なんだその理屈は、犯罪者集団を抑えるとか言って自分達が犯罪を犯してるじゃないか」
[その通りなんだが、この国の法律はハッキリ言ってもう古い。魔法という新しい概念に対して全く対応していないといっても過言ではない。そんな法律で罰せられるのを恐れて世界が滅びるのを待つわけにはいかない]
「言ってる事が矛盾してるじゃないか、相手が同じ事を言ってけしかけてきたらどう反論するんだ」
[話が平行線だな、まぁ拉致されて突然私たちの考えをハイハイと聞いてもらえるだなんてこちらも思っていない。しかししばらくしたら私たちが正しかった事が証明されるだろう]
「おいちょっとまて、まだ聞きたいことが」
外套の男とチビ男は去っていった。
ーー
「まったくどういう頭してるんだあいつら」
つい毒づいてしまう。
「ほんとね、拉致するだけなら私たちを合流させない方がリスクが少ないのに」
真子が患者服の襟をいじりながら言う。
「そうやって信頼させるためなんじゃないの?気持ち悪いわねあの男共は」
祥子があいかわらずのゴリラ語で喋る。
「ちょっとゴリラ語ってなによ」
「思考が読まれた」
「とにかく、あいつらが言ってる事は滅茶苦茶だ、犯罪者集団を抑えるために犯罪を犯し、法律で裁かれても良いと言っている。殺人鬼を殺人するような話だ。」
「殺人鬼だって同じ人なのにね」
真子が言う、その通りだと俺は思う。決して殺人鬼を擁護するわけではないが、殺人鬼を殺したら自分も殺人鬼になってしまうのだ。
「でも気持ちはわかる気がするかも」
祥子が以外な事を言う
「だって、人を殺すような人達なんて、人じゃないといえるんじゃない?それを殺すのなんて、むしろ慈善活動なんじゃない?」
「おちつけ、そもそも相手が人を殺した人だってどうやって判断するんだ。そうやって決めつけて攻撃させるつもりだと思うぞ」
「そうかもしれないけど...あの人達からは何か悪い雰囲気はしなかった。」
「自分が拉致されてるのに、悪い人だと思わないんだ」
真子がちょっとムッとした様子で言う
するとナースのような人がやってきた
「お食事の用意ができました~」
夕食に変な毒を持ってるんじゃあないんだろうか。
猜疑心しかない状態で僕らは食堂と言われる場所に向かった。