ゴリラ系女子
僕がドアを開けてやると我先にと家にズカズカと上がり込んだ。
女子を家に招いているという感覚が全くしない。まるで野生の虎を家に招いているような感覚だった。
「おっ祥子じゃん」
うちの妹の真子が反応する
真子の魔法は条件が風を吹かす事で、魔法の内容は風を受けた物体が回転するという物だ
魔法が発現したのも1年前の11月の23日、13歳の誕生日の事だった。双子の妹なので、僕も誕生日が一緒である。
誕生日ケーキのロウソクを消そうと息を吹きかけたところケーキが高速回転しはじめたのだ。
周りにスポンジやらメレンゲやらが飛び散って大変な目にあったのを覚えている。
しかし真子は魔法の応用が上手く、その魔法を生かしてフライングディスクで世界大会優勝し、全日本駒大会でも優勝している。
今では魔法部門と物理部門でほとんどのスポーツが分かれている、物理部門は魔法を使わないで行うスポーツだ。
応用が上手いといっても、普段の生活の中でやはり魔法が暴発してしまう事がある。
ドライヤーで髪を乾かそうと思っても髪の毛が滅茶苦茶に捻りあがってしまうし、食べ物をフーフーして冷まそうと思っても箸ごと回転し始めて食事どころではなくなってしまう。
僕はやっぱり魔法が使えない方が人生幸せだと、両親を見ているといつも思う。
「よっす」
祥子ちゃんがドカっとソファに腰掛ける、そんな座り方をしたらソファがかわいそうだと思わないのか、いまにも破壊されてしまいそうだ。
そんな様子を見ながら僕はお湯を沸かす、こんなゴリラ女子を律儀にももてなそうとしている僕、非常に健気だ。
「さっきドアがすごい音してたけど、また石詰まらせてたの?」
真子がアイスのボリボリ君を食いながら言う。
「違う、すごい音がしたのは祥子が扉ごと石を蹴っ飛ばそうとしたから」
「はぁ?何よ、人をゴリラみたいな扱いして」
「でも事実じゃん」
「相変わらず仲いいねぇ」
「「誰が」」
「ハモらせてしまった、ゴリラが移る」
「消すぞテメー」
こんな冗談が言えるのも祥子ちゃんが本当に消さないと確信してるからだった。しかし僕が元の世界に戻れる事を知った今、祥子ちゃんが何をしてくるかわからない。用心したほうがいいかもしれない。
お湯が沸いたのでビーカーに移し、湯冷ましする。その間に茶葉を急須に入れて待機
「最近殺人が増えたみたいね」
真子がテレビを見ながらなんとなしに言う、画面の中はキャスターが魔法によって人を殺す事件の解説をしていた。
『魔法による殺人が後を絶えないようですね』
『ええ、物的証拠を取りずらい他、刃物などを使うよりも容易に殺せてしまう事から殺意の有無の検証も難しいでしょう。』
『しかし傾向としては計画殺人の方が多いようです。組織ぐるみで魔法を使い人を殺すといったケースもあるようです。』
「こっわ」
祥子ちゃんはまず殺されなさそうだが、同感である。
どんなに強い魔法を使えたとしても、一人で組織を相手にしてしまったら単純な物量が足りなくてすぐに死んでしまうだろう。
そういった意味でも会社や学校など魔法を使えない人達の集団でもいいからとりあえず所属しておくというのは大切だ。
特に僕なんかは髪が抜ける度に石が出てきて邪魔なので一般人よりも戦闘能力が低いと考えたほうがいいだろう。
急須にお湯を移して2分程待つ。真子の分も必要になると思ったので急須は2つ用意したのだが、お湯が少なくなってしまった。
そして髪抜けターイム、急須の中に石が入ってしまった。
「ちょっと祥子助けて」
「またぁ?」
祥子ちゃんが急須の中の石を消す。
「ありがとう...あれ、お茶がなくなっちゃったんだが」
「えうそ、あ、ほんとだ」
「石ごとお茶を消しちゃうなんて、ひどいなぁ、頑張って入れたのに」
「しょうがないじゃん、石が入ってたらそもそも飲めなかったわけだし。同じよ同じ」
これなら石が入ったままコップに注げばよかったかもしれない。
残念な気持ちでいると真子がコーラを飲んでいるのに気づく。
「そもそもお茶なんかじゃなくてジュースを飲めばよかったな」
コップにオレンジジュースを注ぐ
「ありがとう」
祥子ちゃんがコップをぶんどった。なんて女子力の低いヤツ。オレンジジュースが少しこぼれているじゃないか。自分の分も入れて、お菓子を持ってリビングに戻る。
ーー
それからクマブラやら人生ゲームなどをやって時間は過ぎ、午後の6時半となった。今は12月14日、日が落ちるのが早いのでもう外は真っ暗である。
「送ってってあげたら?」
真子が言う。
「僕みたいなよわっちい男が傍にいるよりまだ真子の方が頼りになると思うんだけど」
「そういう話じゃないよ」
「一体何の話をしているんだ」
「もういいから、家出てって!」
「はあ」
何故か真子を怒らせてしまったようだった、突然家を追い出される。
「何、送ってくれるの?」
「真子に家追い出されたから仕方なく」
とは言っても家は歩いて5分くらいなので大した苦労じゃない...が
「寒い!」
さっきまで温かい部屋に居たうえに、外に出る格好じゃなかったので非常に寒い。
「なんでそんな恰好で外出たのよ」
「追い出されたからだってば!もう、走ろう!」
「あっちょっと待って」
走ればあったかくなるだろうと思ったし、インドア派の僕でも十分走れる距離だった。
しばらくして振り向くとなぜか真子までついてきていた。
「え、なんで真子居るの」
「ゼェ...ゼェ...大変なの...」
なんだか只ならない状況みたいだった
「大変な事にね...アレが出てしまったの...」
「アレとは...?」
「そうゴ キ ブ リ !」
我が妹ながらアホかと。そんなの僕が帰るまで待てばいいじゃないかと思ったが
「祥子来て!」
どうやら僕ではなく祥子が目的みたいだった。なんなんだ全く
ーー
「そう、でね、こーんなにおっきいゴキブリが居たんだよ!」
真子が手を大きく広げてゴキブリのデカさを主張しているが、さすがにそんなデカいわけがない。
「確かにアレはデカかったわね」
祥子まで深刻な顔をしながら語っている
「別に祥子を頼らなくても、俺にもゴキジェッ○という魔法があるのだが?」
「兄ちゃんは頼りにならないからダメ」
酷い話だ。
すると突然ガタガタガタ!!という轟音と共に家が揺れ始める、地震か?かなり大きい、震度4くらいあるんじゃないか。
「うわっ結構デカい!」
祥子が言う。パニックに陥ってまた僕を消すんじゃないかとヒヤヒヤしたが、そんな事はなかった。
屋根が吹き飛ぶ、バリバリバリバリと木材がはじけ飛ぶ音がしながら屋根が剥げていく。
「は!?」
ーー