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魔法ってなんなの?  作者: シキ
2/12

消滅

 ここはどこだろうか

景色が真っ暗で、地面すらない。無重力で、ただ何もない空間に一人で浮かんでいる感じだ。

もしかして僕は死んでしまったのだろうか。

辺りを見渡すと、少しだけ明るいところを見つける。もがいてそこに向かう。

目の前に縁のない窓のような物が現れて外の景色が見える。外?あぁ、さっきバスにひかれかけたところだ。


 祥子ちゃんが泣いている、となりには近藤先生もいるようだったが肝心のバスがない

僕の死体も見当たらないし一体どうなっているんだろうか、と突然横からデカい何かにぶつかる。


 離れてみてみると...これは...バスだ、さっき僕と祥子ちゃんの前に突然現れたあのバスだ

なんだか話が見えてきたような気がする。もしかしたら祥子ちゃんは突然バスが出てきて驚いたので、バスを消すのと同時に僕の事も巻き込んで消滅させてしまったんだろう

そしてここが消滅した物がたどり着く空間なんだと思った。


 しかしこれはどうしようか、この空間からあっち側を見ることはできても、あっち側からこの空間は見えないようなので、マジックミラーのような何かが隔たっていると考えられる。殴ってもまるで地面のようにビクともしない。

そして僕の持つ魔法は髪の毛を抜いて石を生み出す事

これはどうやっても詰んでしまったんじゃないか?と絶望しながら、こめかみに生えている産毛を抜いてみた。いつもならまたそこらへんに石が出てくる事だろう。

すると突然辺りが明るくなり、いつのまにか元の世界に戻っていた。


ーー


「え?」


「は?」


突然の事態に状況が把握しきれない。

祥子ちゃんに消滅させられたが、髪の毛を抜いたので戻ってきましたということか、一体どういう事なんだ。


「や、やあ、戻ってきました」


突然近藤先生に抱き着かれる。しかも手が岩になっているみたいで滅茶苦茶痛い。


「よかった!無事だったんだな!」


「ちょ、ちょっと先生!あばらが折れる...!」


近藤先生は身長が190cmもあるし体重は80キロ近くある巨漢だ、そんな人に抱きしめられては再開の感動を喜ぶ前にまたあの世に行ってしまう。


「おっと、ごめんよ」


解放された、ようやく空気が吸えるといった感じだ。


「いやー、しかしびっくりした、タバコを吸いながら外を眺めていたら突然バスが出てきて、石田とバスが消えてしまったんだからなぁ」


自己紹介が遅れたが僕の名前は石田信夫、石が出てくるハゲた普通の高校生だ。状況を改めて近藤先生に説明されると、本当に非常事態だったのがわかる。だけど今の日本では魔法を自由に操作できる人のほうが少ないのでこのような事は割と起こり得てしまうから怖い。


「というかどうやって戻ってきたのよ」


涙目で声も震えながら祥子ちゃんが聞いてくる。さっきまで泣いてたのをなんとか隠そうとしているが、バレバレである。


「僕にもわからないんだけど、あっちの世界で髪の毛を抜いたら戻ってこれた」


「なんなのよそれ」


魔法はわからない事だらけだ、単純な物もあれば複雑な物もある。僕のこの魔法はいつもは迷惑でしかないけど、こういう緊急事態には役に立つような物なのかもしれない。


「私だって一度消した物はもう戻せないのに...」


祥子ちゃんは寂しそうに言った。僕よりも劣っている点が見つかって悔しいんだろうか。少し優越感に浸ったが、わからない事が多すぎて純粋には喜べない感じがあった。



ーー



 それから徒歩20分、家に着く。周りの人と比べても僕は学校と家が近い。学校と家が近い人は不登校になる傾向があるらしいが、僕もそう思う。家にいても学校を意識してしまうから、学校が嫌いな人は心が休まらないので更に行きたくなくなるという寸法だ。

しかし最近祥子ちゃんと同じクラスになってからは、イジメられたりはしなくなったし学校もそこまで嫌じゃなくなってきた。文句ばっか言ってくるけどなんだかんだ助けられているんだなぁと実感する。


 祥子ちゃんの家もまぁまぁ近いので本当に困ってしまった時は助けてもらっている。例えば今みたいに扉に石が挟まって家に帰れない時とかね。


「もしもし、今ちょっといい?」


「また詰まらせたの?待ってて」


二つ返事でこれである。もう慣れたものだ、僕が言う事じゃないが。


「これなら蹴っ飛ばせばとれそうじゃない?」


祥子ちゃんがやってきて石を蹴り飛ばす。


「扉がゆがんじゃうからやめて!」


今にも扉が取れてしまいそうになる。もしかして魔法だけじゃなくて肉体もめちゃくちゃ強いんだろうか。


「わかったわかった、ほい」


今までそこに石がなかったかのように忽然と消えた。


「やっぱり便利な魔法だよなぁ」


「私にとっちゃあ、あんたの魔法の方が無害でうらやましいわ」


「なんでさ、家に帰れないくらい害を受けてるんだが」


「私なんて下手すれば家が消えちゃうわよ」


確かに、彼女は強靭な精神でその魔法が発動しないように抑えているのかもしれない。発動条件が簡単な物ほど意図的に発動しやすくなるが、誤爆して大変な事にもなりえるのだ。

もし例えば発動条件が「対象を消したいと願う事」だったりしたらもう大変だ。

ちょっとでも親と喧嘩して「消えてしまえ」と願ってしまったら消えちゃうんだから、本当に下手な事考えられない。

しかも多分あながち僕の予想は間違っていないと思う。彼女は周りの人間におびえられるのが嫌で発動条件を明かしていないんだと思う。そういう人は少なからずいる。


「まぁともかくこれで帰れる、ありがとう」


「報酬は?」


「は?」


今までは報酬なんか要求してこなかったのだが、冗談だろうか


「アタシをもてなしなさいよ、家に入れるようになったんだからそれくらいしてもらわないと」


「なんて図々しいんだ」


「アンタこそ」


助けてもらうのが当たり前だと思っていた節があったのかもしれない、そう考えると少し申し訳なくなってきた。


「まぁ今日くらいはいいよ」


「あらどうも」



ーー


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