支援級
この世界には魔法があるが、その魔法についてわかっていることは少ない
「そうなるのはわかっているが、なぜそうなるのかはわからない」というような事がほとんどなのだ
約10年前、突然世界に魔法を使える人間が現れた
しかしそれを魔法と呼んでいいのかどうか、彼は突然寝ているときベッドが燃え出したそうだ
そのせいで彼は本名よりも「ベッド燃やし」の名前で知られている
発動条件は眠りに入ること、意識がなくなってすぐに近くの物が発火するというものだった。
おかげで彼は不眠症になりショック死してしまった。
魔法は最初、このように意図的に発動できない点から”呪い”だといわれたが
物理法則を無視できる点から有用性を見出し、利用するものが現れてから晴れて魔法となった。
例えばベッド燃やしも、火力発電所のゴミの中で寝ていればまだその能力の有用性があったのかもしれない。
そして現在、魔法についての研究がある程度進んでわかってきたことがあり、それは魔法は”条件が揃うと発動する”ということだった。
10年前はベッド燃やしだけだった魔法使いも今では10億人に増えている、七人に一人は魔法を発動できるということだ。
僕も一応魔法が使えないこともない、だがあまりに有用性が無い
条件は髪の毛を引き抜く事で、魔法は石ころの生成だ
ちなみに髪の毛は一日に100本以上抜けるので、僕が意図しなくても勝手に石がそこらへんに生成されてしまう。
最近この魔法を手に入れて興奮してしまって髪の毛を抜きすぎた結果頭がハゲてしまった
部屋は小石まみれになるし、たまったものじゃなかった、まぁでも髪の毛は一日に1cmくらい伸びるらしいし、そのうち元に戻ると思う。
学校ではハゲハゲ言われるし、そこらへんに石ころを生成してしまうので転ぶ人もいて甚だ迷惑な魔法だ、お陰で虐められていた。
そういうケースもあって魔法を思うように使えない生徒は、うまく使える生徒に援助してもあらう制度になった。
僕がいるクラスの名前は「支援級」だ
まるで支援が必要な人が居るみたいだろう?その通り、僕は支援がないとまともに生活できない。
隣に座ってる祥子ちゃんが定期的に石ころを消滅させてくれるので授業が成り立っている
魔法クラスは支援級と普通級と操作級で分かれている。
普通級は普通級で独立しているが、支援級と操作級は同じクラスで、隣どうしで座らされる
操作級が支援してあげるというわけ、ちなみに普通級は自分のケツは自分で拭える人のクラス
魔法使いでも世の中の役に立つエリートが居て、そういう人ばかり見てたもんだから自分も何か魔法が使えたらすごいんだろうなと思っていたが、まさかこんな惨めな思いをするだなんてね。
トイレに行ったら石で下水道を詰まらせてしまうし、車に乗れば配線に石を詰まらせて事故死しかけるし、弁当の中身が石で埋まってた時は悲しすぎて泣いてしまった。
祥子ちゃんのお陰で日常生活かなり助かっている。が、その気になれば僕の事も消滅させられる祥子ちゃんには恐怖の気持ちのほうが大きいかもしれない。
そんな彼女も僕と同じ授業を今受けている、と言っても自習だが。
「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
「何?」
「どうやったら魔法を制御できるようになるの?」
切実な疑問だった、これさえ知れれば僕はもっと幸せになれるのだ。
「えーとね、あんたの場合、髪の毛が抜けるのが条件なわけじゃん?」
「うん」
「そしたら髪の毛を抜けないようにして、好きな時に抜けるようにすればいいのよ」
「それってどうやるの?」
「そんくらい自分で考えなよ」
「...それさえ知ってれば僕だって苦労してないよ」
「自分だけ苦労してると思わない事ね、私だって苦労してるんだから」
苦労のベクトルが違うだろう...と言いかけてやめた、これ以上何か助言を求めても無駄なような気がしたからだ。
そもそもエリートと僕では悩む次元が違いすぎるのだ、今の口ぶりから、髪の毛を抜けないようにするのなんて余裕だという考えが伝わってきた。ちなみに僕はハゲているが、ハゲていても小っちゃい髪の毛が抜ける。
「席につけーHRを始めるー」
近藤先生が言う、帰りのHRの始まりだ
祥子ちゃんの魔法の条件は教えてもらえなかったが、魔法の内容は意図したものを消滅させる事らしい、なんて便利な能力なんだろうと僕は思う、ゴミ箱いらずじゃないか。
「きりつー、きょーつけー、れー」
ちなみに近藤先生の魔法は条件が拳を握る事で、内容は手が岩になる事だった
岩になると手のひらが30秒くらい動けないからなるべく拳を握らないようにしているらしいが、よく癖でついつい手を岩にしている
岩にするとパンチ力が増して強そうだと思ったが、チョークや鉛筆をよく破壊してるので苦労してる様子だった。
「えー、最近不審者が近辺で出てくるようです、支援級の人も操作級の人も気を付けて、特に女子
夜帰るときは親に送ってもらったり、友達と一緒に帰るようにしましょう」
女子のほうが魔法が上手く使える人が多いから大丈夫なんじゃないかと思う、祥子ちゃんになんか絡んだら消滅させられちゃうしね。
「あと来週新しい操作級と支援級の子が来るから楽しみにしといてな」
それは楽しみだ、僕は友達が少ないので話せるかもしれない人が来るだけでうれしい。
「それじゃあ号令」
ーー
「あんたハゲてても石だけは出てくるのね」
帰り道に祥子ちゃんに毒づかれる
「ハゲてても小っちゃい髪の毛が抜けちゃうんだってば」
「小っちゃい髪の毛wwww」
突然笑い出した、人の苦労も知らないで、まったく嫌な人だ。
祥子ちゃんとは幼稚園から一緒でずっと仲が良かったつもりだったのだが、魔法能力で差がついてからなんだか偉ぶってていけ好かない人になってしまった
自分より弱い人間に対して当たりがキツいタイプって僕嫌いなんだけど、でも僕の魔法を処理できるのが彼女くらいだから離れる事ができない。
「でもいいじゃん、石が出てくるくらいなんだからさ」
普段の生活で、石が出てくるというのがどれだけ迷惑か。祥子ちゃんははわかってないんだ。そう言おうとした時
「危ない!」
目の前からバスが来ていた、いや、来ていたというより突然そこの空間からバスが出てきた
「きゃああああああ!!!」
祥子ちゃんが叫ぶ、同時に景色がゆがんで真っ暗になった。
ーー
飽きたらやめるかも