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 零式はカワムラ機を亜音速で上から下へ通り越し、カワムラ機の損害の確認と反撃への警戒のためすぐに振り返った。


 塵のような粗い煙の中で、カワムラ機はしかし致命傷には到っていなかった。


”見事だったが、やはり君には私は倒せないようだね”


 僕は絶望した。今まで何機かの戦闘機を撃墜してきたが、それらはすべて修羅が弱点を突いたからこそなんとかなっていた。しかし、修羅状態では運動性能で勝るカワムラ機に対抗できない。


 かといって修羅を封じていては、相手の弱点を精密に射撃することは困難だ。


 一三.二ミリメートル機銃より威力のある武器であれば、あるいは可能性もあったのかもしれないが、あとは弐式に積んでいる拠点攻略用のロケット砲しか無い。もちろんこれが当たればカワムラ機は木っ端微塵だろうが、低速のロケット砲がカワムラ機に当たるとは思えない。


”殺すには惜しいが”


 カワムラがこちらに機首を振って機銃を掃射してきた。


 その弾幕の圧力に、僕は自然と修羅を呼び起こしていた。


(良い狙いだと思ったんだけどなあ)


 修羅状態であれば、旋回やひねりを駆使して弾幕を避けるのは容易だった。それは同時にカワムラも修羅状態となったことを意味する。次に飛来する弾は精密な照準であるはずだ。


 しかし、カワムラはもったいぶったようになかなか次の一発を撃たなかった。カワムラ機はフルスロットルで零式に追いすがった。至近距離まで近付いて、確実に当ててくるつもりのようだ。


 カワムラ機が零式に迫る。僕は次の手を考えあぐねてとにかくフルスロットルのまま落ちるように飛んだ。


”どうした?諦めたのか?”


 カワムラ機は零式の真後ろに付けた。祖父は退避していたが、こちらの異変に気付いて全速力で接近して来た。すぐ横に見える積乱雲が、夕闇の中でバリバリと鳴りながらいくつもの稲妻を秘めている。


 諦めたわけではない。だが、絶望はしている。


”そうか、ならば死ね!”


 カワムラがトリガーに手を掛けたのが鮮明な映像となって僕に伝わった。


 至近距離で乾いた発砲音が連続的に聞こえた。その着弾する音、破裂音も、どこか他人事のように聞こえた。


 真横から高速で飛来し、交差した機体があった。


 推進式の大きなプロペラが、カワムラ機の爆炎を反射して紅い。


 稲光をいくつも帯びたように、その機体はいたる所でショートしているようだが、速度はかなり出ている。


 旋回して開け放った風防から手を振るのが誰か、僕にはすぐにわかったが、だからこそ不可解だった。あの発射音、着弾時のあの破裂音、それは紛れもなく二〇ミリメートル榴弾だ。


 カワムラ機は歪み、炎に包まれて墜落していった。彼の最期の思念は雑音が多過ぎて、僕には読み取ることができなかった。


『サハラか!?』


 祖父は慌てて伍式からの通信を再び開通させた。伍式の通信装置はやはり雑音を発しているが、サハラの声も拾えた。


『ただいま。死ぬかと思ったよ』


『おう!死んだかと思ったぞ!どんな手品を使ったんだ?』


 遠くから、雄叫びのような勝ち鬨と、統制の取れた、おそらくはイースタシア正規軍と思われる大編隊が接近してくる音が聞こえた。

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