表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/37

         ※ヤマシタ_サイド

「ちゃっと!銃を下ろしてよ!」


 イナバが慌てて白装束を制した。


「まだ信用するわけにはいかない」


 言葉を発したの男は責任感の強そうな目をしている。群衆からざわめくような声が聞こえる。


「俺、見ていたぞ。教団のヘリがいくつも墜ちていくのを」


「こいつの仲間がやったのか?」


「俺の家族は無事かな?」


 先程のリーダー風の男が不規則発言を止めた。


「お前たちはなぜ教団を攻撃したんだ?」


「友人が連れ去られた。その家族や、かつて俺の両親も拉致された。未だに行方不明だ。だから来た」


「力になれなくて悪いが、お前の友人とやら、それに両親も、おそらくここにはいない」


「俺が探しているのは仲間だ。ここでの生活や、カワムラたちのやり方に不満を持っている者だ」


 ざわざわと空気が揺れるように、群衆から声が漏れた。


「不満や不安があっても、ここからの脱出は不可能だと我慢してきたんじゃないのか?だが俺たちはとにかく救援を呼んだ。イースタシアの軍か、警察か、レスキューが何日かの内には来る。それまでの間共に闘ってくれる仲間を探している」


 男は考え事をするように、少しだけ沈黙して見せた。


「友人や両親を教団に誘拐されたという事情はもちろん同情する。俺たちも元はと言えば誘拐されてここに居る者ばかりだ。恨みが無いと言えば嘘になる」


 群衆の何人かが銃を下ろした。


「驚かせてすまなかった。実を言うと、監視の大人が居なくなることは滅多にないことなんだ。それだけ、お前たちの攻撃が効いているということでもあるし、俺たちからしたらまたとない好機。武器らしい武器もほとんどないが、反乱する手はずを話し合っていたところだ」


 その言葉に偽りの色は感じられなかったが、白装束の何人かの表情の曇りが気になる。


「そういうことならばこちらとしては心強いが、全員が納得しているのか?」


 男は微笑した。彼もその点については心配しているようだ。


「全員がというわけじゃない。だから今、折り合いを付けていたところだ」


「折り合い?」


「俺たちのほとんどは、サンクでの銃で束縛されたこの生活に強い不満を持っているが、特に不満のない者もいれば、逆に教団に熱心な者もいる。全員が納得できる反乱というのは難しい。だからお互いに足を引っ張らないということでどうだろうかと話していたところだ。俺たちがサンクを出ることを止めない、邪魔をしない代わりに、俺たちもできるだけ教団員や施設を傷付けないようにする。加えて、中立層がどちらに付いても恨みっこ無し」


「良い折り合いに感じるが」


「とんでもない!」


 奥から神経質そうな女が声を発した。


「あなたたちは脱出してそれで解決かもしれないけど、サンクに残る我々はどうなるんですか?あなたたちを逃がしたって教団から責任を追及されるかもしれないんですよ?」


「それを言うなら、持ち場を離れた監視の責任になるだろう」


 リーダーが落ち着いた様子で反論して、付け加えた。


「それに、自分たちのリスクばかり言うなよ。こっちは失敗したら、たぶん全員殺されるんだぜ。もし本当にイースタシアとやらの軍が来てくれるなら、俺たちは何もしない方が安全に自由を手にできるのかもしれない。だが、俺は俺の手で勝ち取るぞ誰かに狂わされるのも、与えられるのももうごめんだ」


 群衆は低い地響きのような歓声を上げた。


「決心は固いみたいね」


 女の眼鏡が妖しく光った。一歩一歩近付く女から、リーダーはわずかにも目を逸らさない。


 女が白装束の懐に手を入れた。リーダーは反応できていない。俺は駆けていた。


 他の教団派の若者が俺を銃撃した。腕や脇腹に銃弾が食い込む。皮膚が焼けるように熱い。それでも俺は走った。今この男が殺されては、反乱は成し得ない。教団派と反乱派が乱闘になっている。いくつもの銃声が響く。


 俺は女の懐に入った右手を掴んだ。間に合った!


 そう思った瞬間、至近距離からの弾丸が腹に突き刺さったのがわかった。右手はフェイクだのだ。彼女の左手の袖から硝煙が上がっている。実際には左に持った隠し拳銃が本命だ。


 女はさらに何発か撃った。俺は腹への衝撃をいくつも受けて、気が遠くなった。女は誰かにタックルをされて地面に倒れた。それをしたのはイナバだった。反乱派の何人かが女を取り押さえたこと、他の教団派も制圧されたことを確認して、俺は気を失った。


 喪失していく景色の中で、イナバがなにか大きな声で俺を呼んでいるような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ