※ヤマワキ_サイド
撃墜された伍式の通信をオフにして、少しだけ何も考えられずに飛んだ。二〇年前を思い出す。思えばあの日も無茶が過ぎた。
あの戦争では、死ななくても良い若い命がいくつも失われちまった。敵も、味方も。
死んでいく奴の声ってのは、どうしたって耳に残りやがる。
見てもいねえのに、それを叫んだその顔が、ありありと思い浮かべられちまうのは不思議だ。
弐式はひとりでウンテンするには広過ぎる。
自慢の回転銃座も結局使わず終い。
もちろん使わずに済んで何よりだ。
『北に機影!『戦艦』みたいだ!』
俺は我に返ってレーダーを見た。そこにはまだ零式以外の機影は確認できない。
『視認したのか?』
『視認した』
『いくつだ?』
『『戦艦』はイチ。その少し後ろに、たぶん民間の『船』がイチ』
これは想定し得るケースの中じゃ、かなり悪い方だ。
『天の火教』が『戦艦』を手に入れていた。それがひとつ目の悪いケース。
そしてそいつが引き返して来やがった。これがふたつ目だ。
みっつ目に、もしカワムラが乗っているとすれば、敵の士気が回復して拠点の攻略も難しくなるのは確実だ。
もうひとつ悪いことに、撤退しようにもヤマシタはまだ『船』の中だ。
『ッ!……来る!』
その通信が弐式に、そして俺の耳、脳みそに届くか届かないかで、強烈な赤い光が前方を通過していくのが見えた。
その光は強い衝撃波を後から引きずるように伴い、光の端部から二〇メートル以上は離れていたはずの弐式を激しく揺さぶった。
操縦桿が重い。
だからといって手を離すわけにはいかない。
うねりのような衝撃波をなんとかやり過ごした。
『大丈夫か!?』
『何?今の』
『おそらく拠点攻撃用のレーザー兵器だ。当てようとしていたというよりは、威嚇のために撃ったんだろう』
『……上手く避けられたけど、僕を狙っていたよ。零式を』
『お前……』
『あの『戦艦』には、カワムラが乗っているよ』
『……わかるんだな』
『わかる』
昔から、こいつは少しカンの良過ぎる傾向がある。もしかしたらそれは、俺たち『旧人類』にはわかり得ねえものなのかもしれねえ。
『僕、行くよ。弐式はヤマシタを援護してあげて』
『零式の機銃じゃ対抗できねえぞ』
『だとしても、やるだけやるよ。きっと……』
『きっと?』
『サハラでもそうすると思う』
『俺も行こう。こいつに積んでいるロケット弾なら、ひとつくらいは穴も開くだろう』
『……先に行ってる。気を付けて来てよ』
レーダーに映る零式は、素晴らしい加速で見えなくなった。
俺は『船団』の空気が変わったことに不安を感じつつも、零式に続いてスロットルを開いた。