表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/37

       ※ヤマシタ_サイド

 『船』の中に突入すると、狭い通路に何人かの白装束がいて、出陣のタイミングを計っているような、退避の号令を待っているような、中途半端な体勢で待機していた。


 戦況を把握していなかった彼らでも、突然入って来た俺を直感的に敵だと認識したらしかった。


 各々手に持った機械銃のトリガーを引いたが、湾曲した盾がその弾丸を弾いて跳ねさせ、盾を持つ手には至近距離から受ける弾丸の反動をじりじりと感じた。


 この密閉された空間を、激しい銃声と跳弾が飛び交った。そのいくつかはドラゴンプレートに到達して停止したが、多くは壁や天井にめり込み、そしてまたいくつかは白装束を赤く染めた。


 幸いにも致命傷に至った者は居なさそうだったが、このまま至近距離で撃たれ続けるのはこちらの防具にとっても、あちらの兵士にとっても命取りになりかねない。


 俺は突進して、まだ撃ち続けている白装束に体当たりをした。その衝撃で気絶した者もあれば、負傷した者もあるようだったが、いくら撃っても効かず、逆に強烈なタックルをかましてくるこの光景を目の当たりにしたそのほかの兵士たちも、士気を失って敗走した。


 俺は腕を負傷してその場でうずくまっている、気の弱そうな兵士の胸倉を掴んだ。


「ブリッジはどこだ?」


「こ、殺さないで」


 統一された白い衣服に身を包んだ彼らからすれば、漆黒の盾と鎧を身に纏った体の大きな俺はさながらデーモンのように映っているのかもしれないが、今は俺が通常より少し大きいだけのただの人間であることなどを細かく説明している時間もないので、胸倉を掴んだまま片腕でそいつを持ち上げ、壁に叩き付けた。


「がはっ」


「ブリッジに案内しろ!」


「わ、わかった。わかった……」


 俺はそいつの腕を後ろ手に組ませて掴み、先に立って歩かせた。腕に受けた傷から血がにじみ、白装束を赤く湿らせている。


「少しゆるめてくれないか。腕に弾が当たったんだ」


「弾が当たったのは知っているけど、ゆるめるわけにはいかない」


 兵士は少し思考したあとで、おもむろに立ち止まった。


「おい!止まるな!」


「……弾は貫通していない感じがする。血管に入ると心臓まで流れていってしまう。医務室に寄ってほしい」


 たしかに、細かい破片が心臓に届くと、致命的になりそうにも感じる。当然のように医学的な知識の無い俺の中で、少しだけ迷いが生じた。


 敵兵の腕を持つ右手が自然とわずかにゆるみ、敵はその隙を突いて俺の握力からするりと抜け出して、振り返りざま負傷していない方の手で素早く懐刀を抜いて反攻した。


 ドラゴンプレートが人間の力で突き通せるとは思えなかったが、俺は反射的にその刀の刃を握り直し、そして力を込めて三つに折った。


「素直に案内するのか?それとも痛い目に遭いたいのか?」


 男は先程とは様子が変わって、妙な余裕を漂わせている。


”ブリッジに行ってどうする”


 声が違う。落ち着きのない小型犬のような、少し前までの甲高い声とは全く違う、地獄の底から染み出てくるようなしわがれた重低音だ。この声はこの男のものじゃない。そう直感して、背筋が冷たくなるのを感じた。


”君たちはよく頑張ったが、今さらブリッジに行ったところで勝てやしないよ”


「どういう意味だ?」


”私の元にまず一報が入った。妙な『船』を拿捕できなかったうえに、哨戒機が撃墜されたと。私はその時イースタシア最大の都市トウキョウに向けた遠征軍を指揮していたが、嫌な予感がして、指揮を他の者に託し、人質の『船』をひとつと私たちの『艦』だけ引き返した。そして我らが聖地が攻撃されているとの二報が入った。ごく小規模の攻撃で、被害は限定的と予想される。電波封鎖して対抗するので、次の通信は良い報告だろうと。私はそれでも嫌な予感がして『家路』を急いだ。そして封鎖を解いた今しがた、三報が入った。『対抗戦力全滅。士気降下。歩兵敗走。』……思えば二〇年前も、始めは小さなほころびからだった。だがその時と今とは違う。拿捕した『軍艦』をベースに建造もした。信頼できる幹部に軍を預けられる。そして『小さなほころび』の場に私が居る!”


 男の言葉を合図としたかのように、気絶していた兵士が起き上がり、敗走したはずの者たちが反転してこちらへ向かう駆け足が通路に響いた。


 俺には分かっている。これがカワムラの能力だ。近くに居る者を意のままに操る力が彼にはあるのだ。その力を使うことで、数多くの人を拉致し、誘拐し、洗脳状態に置いた。


 この聖地と彼が呼ぶ『船団』で共同生活を営む人は皆、そうして連れて来られて、力を見せつけられ、最後には従属の道を選んだのだ。おそらくは、俺やサハラの両親も。


 気絶した者は気絶したまま、負傷した者は負傷したまま、銃や刀を手に襲いかかってきた。俺は刀を受けては折り、銃弾を弾いて身を守った。


”どうした?殺さないのか?”


 武器を失った兵士は俺の体によじ登り、鎧を脱がそうと体中をまさぐった。俺は振り払おうと身を揺さぶり、壁に押し付けて擦り落とした。その間にも他の兵士が放った銃弾が、俺に取り付く味方など意に介さずに降り注いだ。


”わかっている。お前は殺せないんだろう?だがこの傀儡は、死ぬまで攻撃を止めないぞ!”


 そうだとしても俺は、戦う。


 お前が俺の心を読めるならば読め。そしてこの決意を知れ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ